136 採取 と 売り込み 大奇跡?
休憩終了。
特に問題も無く、4頭のお馬さんを馬車へと繋ぎなおしたマークさんは、こうして遠くから眺めると大分サイズが大きい事のわかる荷台の上へと移動し、荷物の簡単なチェックをしている様です。
私も忘れ物等ないか確認しておきましょうかね。
水は汲んだし……置き忘れていくようなアイテムも無いですから大丈夫かな?
ああー……そういえば折角立ち止まったと言うか停止したのに、周囲の探索や採取行動をするのをすっかり忘れていましたね……短時間のお昼ご飯休憩でしたし、仕方ないと言えばそうなのですが。
主にお手伝いという名の触れ合い牧場体験だったのですが。
でも、確かこういった『楔の守り』が施されている地域の近くで、リアさんから貰ったこの大事なネックレス素材に使われている【緑楔石】が採取できる可能性がある、と暖房具を選んで貰っている時の装備品確認作業中にゲイルさんが言ってましたよね。
万が一採取できたらラッキーだと思うのですが、流石にマークさんの移動予定を変更してもらってまで無理やりする行動では無いですね……まだ山岳地帯は先のようですし。
でも折角ですので、マークさんが荷物チェックを終わらすまでの間だけ、周囲の素材アイテム探索をして見ましょう。マークさんの視界から外れない程度の行動範囲で『楔の守り』の境界あたりを確認してみます。
おお、意外と【薬草】や【魔力の花】が自生してるじゃないですか!
この辺りは人通りが少ない場所だから残っているのかな?
マークさんはこういった素材の採取等はやらないんでしょうかね?
木こりさんなら山で伐採している最中なら一緒に採取したりするのかも。
それにしても中々の量ですよ、この場所の素材数!
でもまぁ流石に採取の為だけに、こんな場所まで遠征する気にはならないのですけれどね。
少々無理をすれば数日この『楔の守り』で覆われた場所でキャンプでも敢行すれば、周囲の素材独り占め! という事は可能だと思いますけど。
でも、出来るならば見たことの無い素材が手に入りそうな山岳地帯でキャンプしたいですよね。
別に私のご飯の元になる基本素材である【薬草】や【魔力の花】を軽視している訳ではないですが、そろそろ別の素材を【調薬】スキルで加工してみたいなーとも思っている訳です。
それに、例のリアさんが暮らしている所で採取した、貴重な素材にも手を加えてみたい欲求が。
私の勝手な予想で、恐らく素材の等級や品質などで薬品製作の難易度が変わるんじゃないなかー? という考えを持っているんですが、ちょっとお試し! といった感覚であの 貴重や 珍品といったどう見ても貴重品ですよね! といった風体の素材を使う度胸はないんです。
なので、山岳地帯である程度お試しに向いた素材が手に入る事を、こっそり期待している部分もあるんですよね。事前の情報によると【調薬】スキル素材と言うよりは装備品を作るための素材が多そうな雰囲気なのですが。本の説明によると、鉱石が沢山取れるっぽい場所でしたからね。
そんな感じで独り言をブツブツ言いつつ、何時の間にか周囲の事やマークさんの事も忘れて採取に没頭してしまっていましたら。
何時の間にか私の手元を覗き込むように、マークさんが私の横に立っておりました。
「薬草に魔力の花の採取ですかな? 手馴れた物ですのぅ」
「あっ!? すみません! ちょっと集中しちゃってました!」
「いやいや、気になさらずとも大丈夫ですわぃ! 此方は準備が整いましたので呼びにきたんですよ」
とりあえず開きっぱなしだったアイテム欄を閉じて採取を終了させます。
黙々と草花を毟り取っていましたが、結構な量を取得できたのではないでしょうか。
これなら山岳地帯から帰還した後、採取に向かわなくても即座にポーションを作る事が出来そうです! 【薬草】と【魔力の花】ばかりでキノコは見当たらなかったので、スタミナポーションはチョット無理ですが。というかこのペースで月曜日にあるというアップデートまでに町に帰れるのだろうか。
ちょっと無理な気がしてきましたが……まぁ無理に戻らないといけないという訳でも無さそうですし、多分大丈夫じゃないかな? 後で掲示板等でアップデートの情報でも収集してみようかな。
あとアップデート中はVRゲーム内にログインって出来ないよね?
確か『ふわもこファーム』もアップデート終了までゲームはプレイできなかった筈だし。
今後の予定に一抹の不安を過ぎらせつつ、先に進む意思を失わない私を褒めていただいても良いのですよ。来ると判っている事柄に対してなら大丈夫。
それでは、あまりマークさんをお待たせする訳にも参りませんので、馬車へ戻って出発しましょうか!
私から準備完了の返答を受けたマークさん、私が御者台に乗ったのを確認した後に、手馴れた動きで御者台に腰を落ち着けてビシリと手綱を一振り。
ガラガラと音をたてて馬車が再出発しました。
あっそうだ、こういう時こそあれですよクッションを活用しないと!
アイテムボックスを開いてお手製のクッションを取り出しお尻の下に設置します。
うん、やっぱり振動が軽減されていい感じですね。
休憩時のお尻保護に使うだけじゃなくて、こういった乗り物で移動している最中にも使えますね!
現実で馬車とか乗った事がないので、気が付くのが遅れましたよ!
私がクッションを敷いて無駄にポヨポヨと弾んでおりますと、マークさんが興味深そうに私のお尻の辺りを眺めておりました。あれ、これはクッションにご興味がありそうな感じですか?
折角なので物は試しにと、マークさんにお手製クッションを使っていただきました。
結果は概ね好評で、今まで使っていた座布団の様なものよりも断然良いという結果に!
相乗りの終点である分かれ道に着くまで、クッションをお貸しする事になりました。
一応マークさんに、始まりの町の雑貨屋さんに私の商品を卸していますので、とお伝えしておきました。今度機会があったらぜひご購入の程お願い致しますね! 気遣い半分欲望半分のマーケティング!
のんびり馬車で移動している最中に、そういえば折角両手が自由になる時間がいまこうやってあるのですから、今がまさに公式の掲示板をチェックして情報を確認するタイミングなのでは! という気持ちになりまして。
マークさんの視線を受けつつメニューからコミュニティを開いて、掲示板を眼前に表示させます。
空中に展開された掲示板メニューを見たマークさん、ずらりと並ぶ書き込みに両目をパチパチさせておりました。ですよね-、こんなに大量の書き込み見たらそうなりますよね。
その後マークさんに、ここに書いてあるのは全部祝福の冒険者達が情報を共有したり、雑談したりする為のものなんですよー等と説明しつつ、私も検索機能をつかって色々と確認する作業に入ります。
アップデート内容に関してのスレッドは激しく更新されているようで、掲示板のトップに表示されておりました。やっぱり皆さん明日のアップデートに期待を持っておられるようで、一番気にしているのが第二期プレイヤー募集の件みたいですね。
自分はプレイ出来ていても、前のゲームを一緒に遊んでいた友達にはメールが届かなくて、未だにソロプレイ中なんだ、なんて書きこみもありました。
えーっと確か……ギルド裏の訓練場が完成した! というお話をリーナさんが口にしておりましたし、明日のアップデートで新しいプレイヤーさんを募集する可能性は、結構高いのでは無いでしょうか?
第一期プレイヤーなら【ガイド】さんのチュートリアルを受けている筈ですので、訓練場は必要ないですよね? となるとやっぱり私の予想が正しいのでは……まぁ自信は余りないのですが。
そういえば……アップデート中ってこの世界の人達はどうなるんでしょう??
こういう事って、ゲーム内住人の方に質問しても良い様な事柄なのでしょうか。
別に違反行為という訳じゃないとは思うのですが、ちょっと聞きづらい質問ではありますよね……よし、意を決してマークさんにお伺いしてみよう。
そもそもアップデートという物が、この世界ではどういう風に扱われているのか、そこの所から。
「あの、明日……いえ、この世界では明後日にアップデートが行われるんですけれど、その時ってこの世界に住んでいる人達はどういった状態になるんでしょう?」
「ああ、たしか神殿から村長に通達が来ておりましたのぅ! 何やら大規模な【世界改変】が行われるとか」
「それでその、世界が色々と変化する訳ですから、住民さんに危険は無いのかと気になったので」
私の言葉を受けたマークさんが驚いた様な表情を浮かべると、すぐ笑顔になってこう仰いました。
「全く危険はありませんとも! 安寧の女神様が残した意思を尊重して下さっている、神の束ね役である【黄昏の大神】様のお手で、この世界全ての『時』が凍結されますでの!」
「……『時』が凍結って言う事は……時間が止まるんですか?」
「ええ、そうですとも! 【黄昏の大神】様の手による大奇跡ですな! 私も若い頃に一度見たことがありますが……それはそれは美しいのですよ……」
マークさんが一度目を瞑り、目を開くと遠くを見るように……遠い昔を思い出すように空を見上げて、私に言い聞かせるように呟きました。
「空から七色の欠片が降り注ぎ、あたりの魔物たちは掻き消え……そして時が停止するのです」
「世界が変わってしまうんですし、色々大変だったりはしないんですか?」
「この世界は神々が居なければ存在すらしなかったのですから、不満などあるはずがないですわぃ! それに【世界改変】は気が付いたら全て終わっておりますのでの……私達にとっては、ほんの一瞬の出来事ですからのぅ!」
中々良い仕事をしていらっしゃるみたいですね【黄昏の大神】様は。
その分色々と細かい所で、思わず突っ込みを入れざるを得ない悪戯もしているみたいですけど! おちゃめさんか!




