135 通信手段 と ふれあい牧場?
世間話と休憩。
お爺さんのオヤツだという、干して乾燥させたのであろう何かの果物っぽい、萎びたお菓子を分けてもらいつつ……ノンビリと街道を馬車で進みます。もぐもぐ。甘くて美味しい。
あーのどかですねー……何というか歩かないで済むというだけで物凄い楽々です。
んー……今からこんなに楽していたら後で山岳地帯に着いた時、やる事が多くてヒィヒィ言う感じになりそうな雰囲気が。まぁ楽できる時にしておきましょう、という事でココは一つ。
私は不精している訳じゃないと言いたいのです。誰に主張しているかは謎です。
己の心の内部に存在する敵にでしょうか。
移動中、特に私から振っていける話題もありませんので、お爺さんの事について色々と聞いてみる事にしました。こういう長生きしていらっしゃる方のご意見や体験談は、この先の冒険できっと役に立ちそうですし!
まずお爺さんのお名前は『マーク』さんと仰るそうです。
今回はちゃーんと自己紹介するのを忘れなかった、この私を褒めていただいても良いのですよ?
今のところ自己紹介勝負の勝率は五分五分と言った所ですが。微妙だ。
普段は町へ木材を卸していらっしゃるそうなのですが、今回は逆に買い物の為に町に向かったとの事でした。村の皆さんから頼まれた分の品物も一気に購入した帰りらしく、後ろの荷台には荷物がモリモリ状態みたいです。
と言う事は……マークさんの本業は木こりさんなのかな、と思って聞いてみた所やっぱりそうでした。
袖の長い服に隠れて見えていませんでしたが、ちょっとお願いして触らせてもらったマークさんの二の腕部分なのですが。大分お歳を召している様な印象を受ける外見に見合わず……ビシっと引き締まった筋肉がモリモリ。
というかですね!? なんでこの世界のお年寄りって皆さんこう、なんと言うか凄いんでしょうかね!? 古強者なのでしょうか?
私がマークさんの左腕の二の腕から肩あたりをサワサワしていますと、すれ違い様に他のプレイヤーさんが私を訝しげに眺めているのに気がつきました。
ああ、いや別に怪しい事しているわけでは無いんですよ!? こう筋肉がですね!?
馬車の移動速度のほうが圧倒的に速く、そのままの状態でスーっとすれ違ってしまいます。
あああ誤解がうまれていないと良いのですが、どうだろうか。
楽観的過ぎるだろうか……いいや、諦めよう。諦めが肝心なのです。
しかしフワモコ素材は諦められません! ふんわり生命体でも可能です!
頼むから存在していて下さいね……じゃないと私のやる気スイッチがオンにならないのです。
等と脳内で葛藤を繰り広げておりますと……何時の間にか私は妙な表情をしていたみたいで、マークさんが心配そうに此方を覗き込んでいるのに気がつきました。いや大丈夫! 私は元気元気ですよ!
そんな感じでマークさんの村での日常を色々とお伺いしつつ……馬車に揺られる事1時間少々。
街道の横に、なにやら人の足で踏み固められたような広場が見えてきました。
あの場所は一体何なのかマークさん尋ねてみますと。
あそこが噂の『楔の守り』とやらに覆われた休憩場らしいです。
広場の周囲に、魔物には触れる事ができない楔石が打ち込まれているとか。その楔石から結界が発生している感じみたいです。なるほどなるほど。
過去に何人も楔石を引っこ抜けるか挑戦した人が居たらしいですが、ビクともしなかったとか。
きっとあれかな、リアさんの住居がある島の周囲に突き刺さっていた、金属の棒みたいなのですよね。
ゴトゴトと街道を逸れて馬車を広場に乗り入れたマークさん、手馴れた様子でお馬さん達を馬車から解放すると、懇々と水が湧いている水飲み場っぽい場所へ手綱で牽いて行かれました。
そうそう、マークさんの馬車に時計があったんですよ!
手持ちで使うには厳しい、ちょっとサイズが大きめの奴でしたけど!
やっぱり木材の引渡し等は決められた時間に行われている様で、時計が無いと色々大変なんだそうです。早く目的地に着くのは良いらしいですが遅れてしまうのはマズイと。
通信手段とか無いのか聞いてみたのですが、村長さん? のお宅にだけ存在するとか。
何やら魔石を使わないといけないらしく、手持ちで魔石を持っていって使わせてもらう物だとか。
なるほど……お手軽に自宅から電話を掛ける、みたいな使い方は出来ないんですねぇ。
あれですね、電話が発達し始めた頃と同じような雰囲気でしょうか。
でも電話のような物があったとして……電線っぽい物は見当たらないですよね?
魔石を使っているという事ですし、何かしら魔法のパワーで電波通信しているのかな。スキルで覚えられる魔法の中にも似たような効果のものがあるかも。通信魔法とか?
まぁパーティの仲間やプレイヤー同士なら、メニュー項目から通信もどきっぽい事は出来そうですが。流石に掲示板を経由して連絡しあうのは大変かもしれませんけれど。
プレイヤー間ならメールを送る! とかそういう機能が確か……ありますよね?
その辺りちょっと気になったので、お馬さんをコッソリ撫でさせてもらいつつ(引き締まった身体でした、手触りもグッドです)水汲み場で水筒の中身を満タンに補充して。
恐らくココを訪れた人が座れるよう、椅子代わりに配置されている手頃な高さの石へ腰を下ろし……メニューを開いてコミュニティの欄を確認してみます。
うんまぁ……パーティのメニューは使わないから今は放置して……
ああ、やっぱり私の記憶通りメールの送受信がココから出来ますね。
私がメニューを開いて一人納得しつつ頷いていると、隣で水筒からお茶をカップに注いで喉を潤していたマークさんが立ち上がり、此方に近づいてくると珍しそうに私の手元にあるメニュー画面を覗き込んでこられます。
「ほほぉー……コレが話に聞く、女神様のご加護で授かるという……!」
「はい、凄い便利ですよ! こうやってーこうやると……ほら、周囲の簡単な地図も出せます!」
「おお! なんとまぁ! こりゃー便利だぁ!」
その後メニュー欄の色々な機能を見せたり、アイテムボックスの性能を見せるために物を取り出したり仕舞ったりしました。そのたびに驚いて喜ぶマークさん。
やっぱりプレイヤーが来るまではこういった女神様の加護? みたいな物は珍しかったんですね。
その後マークさんと一緒に、ちょっと遅めの昼食を取る事に。
マークさんが荷台からバックを持ち出して、その中から取り出した硬そうなパンと干したお肉をモグモグと齧っておりましたので、馬車に乗せてもらったお礼と言うほどでも有りませんが、先ほどお兄さんから購入した【オクトパ焼き】をお裾分けする事にしました。
こうやって小分けになっている食べ物なら、一緒に食べれますからね! 半分こしましょう!
「なんと!? こ、こりゃ湯気が出とりますぞ!」
「これもアイテムボックスの加護のお陰です! 女神様は素晴らしい方ですね! ささ、どうぞ!」
「そ、それでは……はふはふ! こりゃ美味い! 何か歯ごたえのある食材が入っておりますな!」
長めの串にささった【オクトパ焼き】を一つ口に放り込んだマークさん、まさにタコみたいな口になってハフハフと言いつつ、その表情はニッコリ笑顔。喜んで頂けている様で何よりです。
やっぱりあのお兄さんのお料理は美味しいですよね。
おっと、マークさんを眺めていないで私も頂きましょう!
ハフハフっ! んーこれは完全にタコヤキですね! 美味しいです!
二人で半分づつ【オクトパ焼き】を食べ終わり、お腹をさすってほっと一息です。んー満足。
このままお昼寝でもしたい気分ですよ。
ゲーム内で眠れるかどうか未だに判明してませんけど。
誰に聞いたら良いのかが未だ判らないんですよね。
マークさんに聞いたら判るかなぁ? 無理っぽいですよねぇ……
そんな事を考えつつノンビリと石の上に座った状態で、周囲の草をモグモグしているお馬さんを眺めておりますと、マークさんが石の椅子から立ち上がって、馬車から解き放っていたお馬さん達を再び繋ぎなおす作業に入りました。
おっとそろそろ出発かな? お別れになる分かれ道とやらはどれくらい先にあるんでしょうかね。
というかむしろ山岳地帯の入り口にさえ未だ到着していないという事は、徒歩のままだったら凄い大変な事になっていたのでは。いやーマークさんに出会えてよかったね。
よーし! ココは一つお手伝いでもせねば!
「マークさん、私にも手伝える事はないですか?」
「ああそれでしたら、残りの馬達を馬車の方まで連れてきてもらえますかな?」
「はーい、了解ですー!」
ふふふ……やりましたよ! これで合法的 (?)にお馬さんと接触できますよ!
むふふ、中々の手触りです……と言うかやっぱり何と言いましょうか。
現実で見たことのあるお馬さんより、足が太いと言うか……こう、全身がビルドアップされてガッチリしてる感じがする。普通の種類じゃないのかな? それともこの世界ではコレが普通なんでしょうか。
でも、こんなに頑丈で私より絶対強そうなのに凄ーい大人しいんですよね。
ペタペタ触っても撫でても全然平気そうなんです。強者の余裕かもしれませんけど。ぐぬぬ。
私が手綱を手に持って、お馬さんを馬車の方へ移動させながらそんな事を考えつつ、首やお腹辺りをナデナデ&首の辺りに頬っぺたをグリグリしておりますと……
物凄い笑顔でマークさんが此方を見ておりました……ぬわー!?
いかーん! これはメリアの時の二の舞じゃないですか! 恥かしい!
※ 追記 ※
感想欄に頂いたお言葉を元に、判りづらい部分があった78話の通信手段の質問文章を少し変更しました!
参考になるご意見、ありがとうございます!




