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132 着火方法 格好良い

今日もご好意で生きる。

 当然の事ながら私は家族で……ましてや一人で森や山でキャンプとかした事無いので、色々と想像力を働かせて山岳や森の中等で必要な物を脳内で割り出す、という事が全然出来ていなかった様です。

 そうだよねー、普通は焚き火とかするよねーキャンプファイアーだよねー……


 こうなったら、この場で火魔法でも取得して放火ヒャッホイにしても宜しいのでは無かろうか。なんて先ほど狐耳を塞いでいたポーズと似たような感じで、今度は頭を抱えながら物騒な事を考えておりますと。


 私が怪しい動きをしている様子を見て、何か気が付いた様子のガルドスさん。

 ニヤリと口を歪ませて楽しげに笑みを浮かべますと、私の肩をポンと叩いて下さいました。


「あーお嬢さん、もしかしてアレか? 実は出先で焚き火とかやって見たい感じ?」

「あ、えーとその実は……そうなんです」

「はっは! あっちの世界じゃ経験が無い、でも興味はある! とかそんな感じかな!」


 ああ、色々と察しの良いガルドスさんです。もうなんというかそんな感じです!


 私は頭を抱えたままの状態でガクガクと頷きます。

 すると再度私の肩をポンと叩いたガルドスさん、ココでチョット待ってなーと言い残すと、何時の間にか近くに来ていらっしゃった見覚えのある門番さんに、何やら一声かけて奥の詰め所っぽい建物に行ってしまいました。


 い、一体なんでしょうか? 物凄い気軽に行ってしまわれましたけれど……お仕事中ですよね?


 毎度毎度申し訳ない感じです……ガルドスさん曰く『祝福の冒険者を手伝うのも仕事』みたいな事らしいですけれど。今度また不意打ちでポコ豆でもご馳走しましょう、美味しいですし。1ゴールドですけど。


 ボヤーっとガルドスさんの帰りを待っておりますと、入れ替わりで私の横に来た門番さんと目が合います。どちらからとも無くペコリと頭を下げあう感じに……そういえばこの方のお声だけ聞いた記憶がありませんね? 無口な方なのでしょうか。


 なんとなーくニッコリ笑顔を向けてみましたが、門番さんは不思議そうな顔をして微妙に首を傾げた後、眉根を寄せてこちらを見ておられました。やっぱり普段余り喋らない方なのかな。見た目は凄いゴッツい感じです。二の腕とか私の足より太いんじゃないかな。


 そう、ガルドスさんよりもっとこう何と言うか、仲間を守る為に大きい岩とかをガツーン! と受け止めそうな雰囲気で。アチコチに古傷っぽいのもありますし。

 あっ門番さんもちょっと笑ってくれましたよ!


 等と全く今現在の状況と関係ない事を考えつつ、目の前のマッチョな門番さんと何となーく目と目で通じ合っていますと、奥の詰め所っぽい建物から何か箱の様な物を手に持って、ガルドスさんが戻ってらっしゃいました。アレは何だろう?


「お嬢さん待たせたな! ゲラルド済まんなー休憩前に」

「問題ない」


 ガルドスさんに肩を叩かれて声をかけられたマッチョ門番さん……ゲラルドさんかな? がゆったりと首を振りつつ返答して右手に持っている槍を持ち直し、私にチラリと視線を向けるとクイっと口の横を上げる感じの笑みを浮かべて、詰め所の方へと歩いていかれました。


 独特な雰囲気のある方ですね……最初ちょっと怖い人かと思いましたが、そうでも無さそう?


「うん? 何だい、ゲラルドに興味があるのか?」


 私が詰め所に入っていくゲラルドさんの背中を眺めていると、手に持った箱の中身を確認しながらガルドスさんが声をかけてきました。


「いや、なんだか無口な方だなーって思いまして……でも良い人っぽい感じがします」

「アイツは元冒険者上がりで無口でなぁ……あれでも妻子持ちなんだぜ?」

「そうなんですか?」


 ゲラルドの嫁さんはアイツと違ってお喋りなんだぜ、等とガルドスさんが仰っておりました。

 冒険者の頃に知り合った女性だとか。結婚後に冒険者を引退して門番の仕事を始めたらしいです。なるほど、冒険者を続けていたら命の危険があるでしょうしね。

 奥さんやお子さんの為に、町の仕事を始めたといった所でしょうか。


「まぁゲラルドの話は置いといて、だ。コイツを渡そうと思ってな!」

「これは、箱、ですよね?」


 手のひらに乗る程度の大きくも小さくも無い木の箱です。

 使い込まれている入れ物のようで。手触りが肌に馴染む感じでサラリとしております。


 さっきガルドスさんが中身を確認している様子を見た感じでは、側面についてる出っ張りを摘んで、箪笥の引き出しを引っ張り出す感じで動かせば、中に収納されている物が取りだせる感じかな?


 そう思って手のひらのうえに乗っている箱をクルクルと横回転で回していますと、ガルドスさんが気を利かせてくれた様で、横に就いている半円の出っ張り部分を指で摘んで開けて下さいました。

 中にはジャラジャラと棒状の物体と紙切れが入ってました。


「こいつは魔石マッチと火口用の燃焼紙つってな、焚き火に最適の着火用具よ」

「おお! 幾つか譲ってくれるとかでしょうか?」

「んなケチ臭いこたぁ言わねぇよ! コイツは私物だから遠慮せず箱ごと持ってきな!」


 右手に持っていた槍を近くの縁石へ立て掛けて、私の両手の上に乗っている箱の中から魔石マッチを一本取り出したガルドスさん。手馴れた様子で左手に摘んだ棒をクルリと器用に1回転させ、何か黒い物が固められている棒の先に右手の中指と親指を向け、パチンと指を鳴らします。


 一瞬棒の先端が光ったかと思うとシュ! という何かが反応するような音と共に火がつきました。

 おお、なんと言うか一連の流れがカッコイイ!


「お袋に言われて禁煙し始めてから、コイツには出番がなくなっててな。無料で贈呈するぜ!」


 ちなみに指を鳴らして着火してるのは俺の癖みたいなものだからなー、何て言いながら棒の先端の火を吹き消すガルドスさん。箱からもう一本魔石マッチを取り出すと、私の左手に載せてきました。


 現実のマッチと違って、何かにこすり付けて着火する物じゃないんですね……どうやったんだろう?


「魔石の粉が微量混ぜてあるから、一瞬で良いから強めにマナを先端に当ててみな!」

「マナを? ふぬぅ! くぬぅ……こうかな!?」


 ガルドスさんの真似をして指パッチンで着火しようとしてみましたが、ペスッペスッと寂しい音が鳴るだけで全然ダメそうです。ぬぅぅ悔しい!


 【革細工】スキルの時みたいに、魔力を流しこむ様なイメージで挑戦もしてみましたが、フンワリと棒の先端部分が光るだけで着火反応が有りません。一瞬でポンと強めにマナを流さないと着火しないぞー、とガルドスさんがニヤニヤと楽しそうに、私の動きを眺めながら仰っております。うう、難しいよぅ!


「イメージだけでダメなら、行動に条件付けしてやって見ると良いんだよ。例えば……魔法の詠唱だったり一定の行動だったりな。俺の場合は指パッチンなだけだよ」

「ふむぅ……じゃあ上手く指がペチコン鳴らないので、デコピンでやってみます……」


 左手に持った棒の先に、右手でググッと力を溜めたデコピンを向け……マナをペチっと当てるイメージで! でも実際には棒に当てない程度で空振りする感じで、どりゃ!


 私のデコピンに反応してマッチの先端からシュ! という音と煙が……やった! やりましたよ無事に着火しましたよ!


「おお、上手いもんじゃないか!」

「えへへ、どうもありがとうございます!」


 パチパチと拍手までして下ったガルドスさん。マッチの点火も実践できましたので、ふぅーっと息を吹きかけて火を消します。焚き火をする場合は一緒に入っている燃焼紙に火をつけて、それを種火にして薪に燃え移らせる形にすると良い、と教えてもらえました。

 乾燥した落ち葉を一緒に利用すると、もっと火の燃焼が良くなるらしいです。


 ふむふむ……あっそうだ、これでようやく【薬草】集めの際に適当にアイテムボックスへ収納しっぱなしの【石】が役立つんじゃないですか!? 今この時の為の【石】だったんですね! 多分!


「これで火の準備は出来たな! 他に必要そうなのは……そうそうテント内で使う照明なんてのは……」

「……あっ!?」


 えーっと。うん。

 思わずエヘヘと苦笑いを浮かべてしまった私の顔を、微妙な表情で見詰めるガルドスさん。


「ああ……もってないんだな?」

「ううう、夜はログアウトするつもりだったんですぅ!」


 本当ですよ!? 忘れていたと言う訳じゃないんですよ!?

 ログアウトでやり過ごすつもりだったのは本当なんです!!


 私が脳内で無駄な叫び声を上げていますと。


 私の正面に歩いてきて、両肩を優しくソフトに、でも有無を言わさずに掴んだガルドスさん。 丁度斜めから見下ろすような角度で。


 ゆっくりと言い聞かせるように、私に声をかけてくださいました……


「あのな? 例えば夜営場所が決まらず、仕方なく夜に移動する羽目になったりな? 山岳地帯で洞窟内に突入したりする時とかな? 色々とだな? アレでアレな状況があるわけよ? 片手に松明じゃ火が消えたりして危ない訳よ!?」

「ひぃ!? 迂闊で済みませぇーん! 悪気はないんです!」

「ええい! ここで待ってろ! 今から私物の携帯用ランタン詰め所から持って来てやるから!」

「えええ!? 良いんですか!? ガルドスさんカッコよすぎる……」

「だからオッサンを褒めるなっつってんだろ! だぁあ! そんな目で見るな!」


 私の肩を揺さぶりつつ返答するガルドスさんの声に、付近の見回りから何時の間にか戻って来ていらっしゃった他の門番さんがワハハと笑っておられました。

 うう、また悪い意味で目立ってしまっている!?


 私の肩から両手を離して、近くに寄って来ていた門番さん達に悪態を付きつつ、詰め所へと走っていくガルドスさんの背中を見送る私なのでありました。


 本当に出掛ける前にガルドスさんへご挨拶してよかった……

 ガルドスさん的にはご迷惑だったかもしれませんけれど……本当すみません!

※ 追記 ちょっと修正しました

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