131 毎度 迂闊な 私です
当たりが出たらもう一本?
お兄さんのオクトパ焼き屋台から離れた後、金銭的危機によるゲンナリ感から脱する為にグッ! と気合を入れなおした私は、噴水横でフン! と小声で掛け声を上げて数度深呼吸します。
そう、今日のメインイベントは山登りなのです。未だ出発さえ出来ていないのですから、こんな所で貧乏暮らしに嘆いている場合では無いのですよ。
今一度、身につけている装備品を一つ一つ手で触ってチェック。うむ、問題ないでしょう!
暖房具の稼働がオフ状態になっているのをシッカリと確認、燃料の魔石はラビのものがあるので暫くは自力で賄う事が出来るでしょう。枯渇したら……ふふふ、またラビ君の頭頂部をズビズバと棒で叩く作業が始まりますね。
あれですね、本来のゲーム遊戯方法としては、きっと新しい敵や倒したときに入手できる新しい素材等を求めて、アチコチへ移動したりする物だと思うんです。
でも、なんでしょうね、もうこの町の周りだけでプレイしてても何となく良い気がしてきました。
本能的な出不精なんでしょうかね? ええ、でもまぁ新しい素材だけは気になるのでそこが問題なんですが。露店のお兄さんが羨ましいですね。お料理材料が勝手に転がり込んでくる、みたいな事を仰っていましたし。
何時も周囲に居る男性プレイヤーサン達の、オカン的な立ち位置なのでしょうか。美味しいご飯重視。
まぁ、私は何時も通りセッセと一人で素材集めしなさいって事でしょうね。
一人プレイ熟練度がますます向上している気がする。コミュ力は犠牲になったのだ。
ブツブツと無駄に独り言を吐きつつ、微妙に悲しみの溢れる思考を巡らせながら……ダラーっと北門へ向かう事にします。とりあえず門の方へ移動して、ガルドスさんにチョロっとご挨拶したら出発です。
うん、図らずも丁度お昼位に出掛ける感じになりましたね。もうちょっと早く山岳地帯へ向かう事もできた様な気がしますけれど……あれです、色々と手に入りましたし結果オーライで。
金属製品関連の頼もしい伝手&お知り合いも増えましたし! ね! 問題なしだよね!
微妙に言い聞かせる感じになってしまうのは、目移り病が活発化している私への自己暗示もあります。
テレビ番組のCMとか、ネットでの広告みたいなのなら意外と余裕で我慢できるのですが……こう、ほら! 目の前にモノがでーん! と存在して『俺は役に立つぜ……?』みたいな感じで自己主張してると、つい近寄って手にとってニヤニヤしてしまうというか。
ほら、観光地のお土産って魅力的に目に映りませんか。
買って帰って冷静な状態で包みを開封して取り出すと『あれ、コレどういった時に使ったら……』ってなりませんか。
つまり何が言いたいかといいますと。ノリと勢いは御しがたいと言う事で。
今回は実用度がある物だから勝ちなのです。戦略的勝利くらいは頂きたい。
なんて思いながらポコポコと石畳を踏みしめて歩を進めます。今日も薬品店前は人の入りが凄いですね。消耗品ですから、日々買い足していかないと駄目なのでしょうけど。
ああ、メディカさんの所で買い取ってもらっているポーションって、お話によると他の商品と纏めてあの薬品店で販売してもらっている感じなのでしたね。確か倉庫袋で繋がってるんでしたっけ。
という事は……あのお薬を購入してお店から退出してきている人達のアイテム欄に、私の作った何だか効果の良く判らない能力が付与されている、胡散臭いポーションが含まれている可能性が有るのですね。
飲んでも害はないと思いますので、どうかご容赦いただけると有り難い。
そんな事を思いながら薬品店の前を通り過ぎようとしたのですが、なんだかアイテム欄を集団で確認しつつ、妙な事を言っているプレイヤーさん達の会話が耳に。
お店の横でワイワイ言い合っているので、たぶんあの方々はパーティプレイ中なのかな?
それでどういった会話だったのか、と言いますと……
何やら『アタリ』だの『ハズレ』だのと言っているようなのです……
えっ!? ポーション当たりクジ付きなの?
集客目的なのでしょうか。なかなか憎い商売をなさってますね!
ポーション自作している私でも、ちょっと気になっちゃう位には集客効果出てます。あざといです。
いやいや、今は当たり付きポーションじゃなくて山岳地帯です!
後ろ髪をひかれている場合じゃない!
プレイヤーさん達の会話は聞かなかった事にして、北門へ再度足を向けます。
このまま聞いていると後で購入したくなってしまう可能性が。
自分で作成できる物なのにね! 危ない危ない!
両手で耳をギュっと上から押さえて塞ぎつつ移動です……普段の耳の場所じゃなくて狐耳のほうなので、耳を塞ぐのにも一苦労ですね。こう、頭を両手でグッと抱える感じです。
おお……狐耳を塞ぐと、ちゃんと周囲の音が聞こえ辛くなっている感じがします。再現度凄い!
そのまま耳押さえ状態で、北門前のガルドスさんポイントまで進行します。
今日はお仕事の日だった様で、毎度お馴染みの所にいつもと変わらないちょっと脱力した感じで、非常に風景に馴染んだ雰囲気で直立しているガルドスさんを発見しました。
「ガルドスさーん、こんにちわー!」
「お! こんにちわお嬢さん! 今日もこれから毎度の素材集めかい? ふあぁ……」
私の声に反応して振り返ったガルドスさん。
なんだか微妙ーに眠そうな感じで、首に右手を当ててグリグリと肩と首元を動かしながら、口元を歪める感じでニヤリと笑って、北門のほうへ視線を向けつつ欠伸をかみ殺しておりました。眠いのかな?
「あー早めの昼食取ったら眠くて仕方がねぇや!」
「頭がお昼寝状態ですか?」
「そんな感じだな。このまま横になれたら最高なんだが! そうも言ってられんよな!」
フン! と気合の声を出したガルドスさん、腰の辺りに右手を当ててグリグリとすると……バシリと一発額を叩いて、改めて私の顔に視線を向けてきました。
「今日もなにか町について質問かい?」
「いえ、今日は北の山岳地帯へ出発するつもりなので、その前にご挨拶だけでもと!」
「おお! ついに遠出するのか! 柔らかい素材だっけか? 見つかるといいな!」
前回私がした質問を覚えて下さっていたようで、フワモコ素材の入手を祈って下さいました。
あと一緒に冒険できる従魔もゲットしたい所ですね……って【従魔】スキル取得また忘れているよ! 取る取る言ってた癖にとってなかった! 取る取る詐欺です!
うん、ご挨拶終わったら取得しなければ……! 気が付いてよかったよ私!
「山岳へ向かうとなると、町の外で夜明かしになると思うが……準備は大丈夫なのかい?」
「あ、はい! キャンプセットと簡易結界もありますし、小型暖房具もさっき購入しました!」
腰についている小型暖房具をペチリと右手で叩きます。ガルドスさんはちょっと驚いたような表情で私の腰辺りに視線を向けておられました。
「簡易結界と暖房具!? 一人旅にしちゃ物凄い豪華だなぁ! 食事は現地で何とかする感じかい?」
「えーと、アイテムボックスを活用して、既に即食べられる食料を調達済みです!」
その辺りは抜かりなく準備できておりますよ! 最悪の場合はラビのお肉をそのまま生食で頂くという手段も残されておりますので! アイテム詳細さんのお言葉を……ひいては流転の女神【ラーサクアース】様のお言葉を信用すれば、そのままで食べれる筈ですしね!
「あーそうかなるほど! 何とも便利だなぁアイテムボックスの加護は! 俺なんかが遠出する時は背中に大荷物背負って、食事は大体保存食だしなぁ……硬いやら塩っ辛いやらでな……」
何かを思い出すように両目を瞑って、しみじみと語り始めるガルドスさん。この世界の住民さん達が遠出するなら、キャンプ用品も食料も何もかも纏めて背負ったりして移動なんでしょうね。
加護万歳。女神様への信仰心がますます高まっていきますよ!
「なら、料理するのに必要な火を起こす為の着火道具は必要ないか……」
アゴを擦りながら誰に言うとでもなく、そう呟いたガルドスさん。
うん……着火道具? ……あああ! よくファンタジーな映像作品である焚き火でアレコレする時の! ってそうか、普段から延々と暖房具稼動状態にしてたら、魔石あっというまに枯渇しちゃうよね!?
移動中じゃなくて休んでる時とかなら、枝集めて焚き火して温まった方が絶対色々と節約できるよね? 全然考えてなかったよー!?
※ 追記 ※
気になるところを、ちょっと修正しました。




