128 確認 色々 暖房具購入
素材あれこれ。
あと値引き。
アルさんの勧めに従って、武器の詳細確認が終わるまで木箱の上に座って待つことにしました。
アルさん曰く、ああいう状態になると暫く意識が戻ってこないので時間が掛かるとの事。
例の棒武器を掲げたり斜めにしたりしつつ確認、その後武器を木箱のうえに置いてメモに何か書き込む、という作業を何度か反復しておりますね。
確か色々と能力が付いていた武器だった筈ですので、チェックに時間が掛かるのでしょうか。
とはいっても作業の進行速度が半端無かったので、さほど待たずに親方さんの意識が通常空間へと戻ってきました。物凄い集中してましたね。
何やら納得行ったように数度頷きながら、棒を私に返却して下さった親方さん。
なんとも非常に良い笑顔です。堪能していただけたなら幸いですよ。
「いやぁー#装備をコレほどじっくり見る機会に恵まれるたぁ……有り難いことだぁ!」
「それで確認の方は終わりましたでしょうか?」
「装備の方は他になにかなければ大丈夫そうじゃよ! その 名工傑作のベルトには耐寒能力も付いているみたいだしのぅ!」
ああ、そういえばこのベルトって炎竜とやらの腹部の皮でしたっけ。
色々と能力が付いていたなーと言うのは記憶にあるのですが、しっかりと頭に入ってないんですよね……身に付けたままの状態で能力確認できないので、あの数の能力とか全然覚えきらないんですよ。
そんな事を考えつつ、返却してもらった棒をベルトに収納していたのですが。
何か、大事な事を忘れているような……そんな感覚があるのです。
んーあれぇー? 何か忘れてる、様な、気がする。
……あ! そうだ! 装備ってこれもでしょ!
私はずーっと付けっぱなしで普段は存在を忘れてしまっているペンダントを、襟首の部分から引っこ抜いて親方さんに見せます。危ない危ない! これも確認してもらわないとね!
これにも何だか色々と沢山能力が付いていた筈! 活用出来てないからあまり把握できてないけど!
「すみませんコレ! コレもありました!」
「おお!? 装飾品の類か! 小物類は専門じゃないんじゃが……ちょいと失礼!」
親方さんが私の胸元に顔を近づけて、ムムゥと唸りつつ【緑石のペンダント】を睨み付けています。
「おおお……こりゃまた……遺物級とは!」
親方さんは、填め込まれた石の部分を指先で撫でつつ『お前も拝見させてもらっておけ!』何て言いながら、私の胸元を指差してアルさんに声をかけております。
アルさんも興味津々で私のペンダントを眺めています。確か図書館で読んだアイテムの本に書いてあった内容を思い出すに、このペンダントもとんでもない価値になるんでしたっけね。確か可能性としては億単位あるんでしたっけ……ううむ。
「それにこの素材! なんという貴重な金属と石を使っとるんじゃ……こりゃぁお嬢さんの身につけてる装備だけで一財産じゃな!」
「そ、そうなんですか!? コレも貰い物なのでイマイチどういった感じの素材なのか……」
「専門外の物じゃから、ちょっと判明しておらん所が幾つかあるんじゃがの。素材の判別はバッチリじゃよ!」
ニヤリと渋い感じの笑みを浮かべた親方さん、人差し指でペンダントの石部分を軽く撫でると、メモ帳に文字を書き始めました。これで全部の装備見てもらったかな?
なんだったら素材の詳しい説明をしようか? という親方さんのお言葉に、了承の返事を返しました。
鑑定で名称が判っても、どういった物なのかっていう所は全然なんですよね。
「まずは鎖と台座部分に使われておる金属『心応鋼』じゃな。こいつは普通に入手する手段も無く、人工的に精製する事も出来ん金属でのぅ。あれじゃ、俗に言う神の奇跡とやらで作り出される素材じゃよ」
「あーはいはいなるほどぉ! これを譲って下さった方が巫女様だったんですよ!」
「さぞかし大きな力を持った名のある巫女様なんじゃろうなぁ!」
と言う事は、このペンダントってもしかしなくてもリアさんお手製なのでしょうか。
一人暮らしが長そうでしたし、色々と手慰みで作っているのかもしれません。
生活の為と言うよりは趣味で小物を作っている感じで。
「それでこの金属の凄い所は、なんと傷ついても放っておけば勝手に修復されるという点と、加工に特別な器材が必要ない所じゃな!」
「器材が要らないっていうのは、どういうことでしょう?」
「この『心応鋼』という金属はのぅ、精製した直後は柔らかいんじゃよ。硬めの粘土をこねる感じで形成できる訳じゃな。この鎖部分はよーく見ると判るんじゃがちょっと荒いじゃろ? 作成時に型を使用しないとこういった細かい部品部分は荒くなってしまうんじゃ」
恐らく粒で丸めた玉に穴を開けて、端を切り取って繋げて切開部分を閉じるという作業を繰り返したんじゃろう、なんて事を親方さんが仰っておりました。細かい作業だー! 目がチカチカしそう!
と言う事はリアさんが暇をもてあましたりしてる時に、時間つぶし位のノリで粘土工作的工程でコレを作ってたという事か。
ペンダントの台座部分に填め込まれてる石も、あの島で取れるものだよーって確かリアさんが残してくれていた覚書に書いてあったもんね。
「ほれ、この最後の方に作ったと思われる台座の根元部分は、鎖の大きさがちょいと歪で大きめじゃろ?」
「あー本当だー! 後半になって疲れてきたんですかね!」
「そうじゃろうなー 細かい手作業になるからのぅ」
ワシはやっぱり金槌で行く方が楽じゃな! なんて親方さんが笑いながら右腕を曲げて力瘤をつくり、そこを左手でペシペシと叩いておられます。うん、筋肉ムキムキですものね。
「後は時間が経つと完全に固まり、その時の形状を金属が記憶して、破損したときに大気に漂う魔力を吸着して、自動的にその記憶された形状に修復される、と言う訳じゃ!」
「なんと言う便利金属! 凄いですね!」
「とんでもない金属なのは確かじゃが、強度は鉄と同等程度でコイツは神職のみが加工できる金属、ワシみたいな鍛冶職では扱えないからのぅ……あとこの金属で出来た装備品が巷に溢れたりすると、ワシ等は商売上がったりになってしまうしな! ガッハッハ!」
メンテナンスや修理も大事な収入源なのだ、と親方さんが笑いながら仰っていました。
壊れても勝手に直っちゃう装備品ばかりじゃ、そりゃお仕事なくなりますよね。
あれですね、ある意味で加工が難しい金属でよかったと言うべきでしょうか。
「それでこの台座部分に嵌っておる宝石の『緑楔石』じゃが、こいつは宝石であり鉱石である珍しい物じゃな。主に神力と魔力濃度が高い場所に凝縮精製される鉱物じゃ!」
「ふむふむ……これも普通に探していたら見つからない系の物なんでしょうか?」
「極まれに、楔の守りで覆われた場所の付近に精製される場合があるみたいじゃがのう」
その楔の守りというのはどの辺りにあるんでしょうか。名称だけは何度か聞いたことがあるんですけれどね。安全地帯の様なモノだと言う事だけは判っております。
「この石も重要な祭具等に使われる代物じゃな! 超貴重品じゃよ!」
「ぬぐぐ、これは今まで以上に大事に扱わなければ……」
改めて色々な人達から託されたアイテムの大切さが身に染みて判りました。
盗まれたり落としたり壊したりしないように気を付けないと……
たとえ私が【死に戻り】する事になってもアイテムは死守です!
色々とご教授が済んだのでペンダントを懐に戻して襟を正します。
普段は人目につかないようにしておかないとね。
というか装着している事すら忘れるくらいに、懐で馴染んでたから大丈夫だと思う。
「おっと、長話になっちまった! ついつい楽しくてなぁ……いやぁ申し訳無いお嬢さん!」
「いえいえ! なんだか色々とお話が聞けて楽しかったですよ!」
物の価値というのは難しい、という事がじみじみと判りました。
大体が全部無料で頂いているものばかりなので、価値を推し量るものさし代わりになる物が無いのです。嬉しいやら恐縮やら。
その後、簡易キャンプセットや寝袋の代わりになると言っていたポンチョも一緒に見てもらいました。
テントは展開すると、詰め込めば3人位までなら利用できるサイズだとか。
ちょっと古い型で使い込まれているけど中々良い物らしく、そこそこ名のある冒険者が使っていたものじゃなかろうか、と親方さんがアゴヒゲを擦りながら教えて下さいました。
この親方さんのお墨付きが出たなら安心して使えそうですね!
ポンチョも耐寒能力が付いているらしくて、コレとベルトの併用で大分寒さは軽減できるとの事でした。これなら小型の暖房具でも十分賄えるだろう、というお話になりまして。
「では、装備品の能力と照らし合わせてお嬢さんにお勧めするのはコイツ! 手にとって見てくれ!」
「ほほー! なんだかパッと見は小物入れ? っぽい感じですね」
親方さんから、手のひらに乗る程度の大きさの金属製品を受け取った私は、振ってみたり裏返してみたりしてその暖房具を確かめます。なんと言うか、あれです、あれ。
キャンプで使う飯ごうでしたっけ? あれを手のひらサイズにして横に小さいダイヤルみたいなのを装着した、って感じの形状です。
使い方としては、地面に置いてそのまま温まることも出来るし、普段は取っ手部分をベルトに括りつけた状態で携帯、腰からぶら下げて使用することも可能とか!
飯ごうみたいにゆるーいカーブを描いているので、腰と太もも辺りにもフィットしますよ!
なにより小さくて可愛い! 小物! っていう感じが凄くて好き!
焚き火みたいなエンブレムが小さく彫ってあってアクセントになってます。
色はつや消しの入った黒っぽい色です。
落ち着いた雰囲気でなお良し! 思わず腰の辺りに試着しつつニヤニヤしてしまいました。
「うむ! 気に入ってくれたみたいだな!」
「はい! 使い方は先ほどアルさんが持って来てくれたのと同じ感じでしょうか?」
「大体の暖房具は同じ使用方法で統一されてるから安心じゃ! その上蓋を開けて魔石をポイっと投入、横についてる捻りで起動と停止、さらに出力調整も出来るようになっとるよ!」
そう言いながら懐からなにか小さい石を取り出して、私の持っている暖房具の蓋を開けて中に放り込む親方さん。触ってみてくれぃ! と言われたので暖房具に手のひらを向けてみると……わー! もう既にホンノリ暖かい!
「その魔石はクズ石の余りでな、サービスで1個進呈じゃよ!」
「あ、でもその、お値段の方は……」
「色々と見せてもろうたでのぅ! 定価5500ゴールドを3000ゴールド丁度でどうじゃ!!」
「買わせていただきまーす!」
半額近い割引をしてくださいましたよ! これは買いです! あっ……お昼代大丈夫かな!?




