013 お姉さんとの邂逅 スープ美味しい
普段よりちょっとだけ長め。
石版と花壇の傍を離れて、もと来た道を引き返します。戻りは歩き採取を再開!
大体同じ種類っぽいものは10個位の量を目安にしてアイテムボックスに放りみます。
流石に幾らでも取り放題! って言われても根こそぎとかは……申し訳ないもんね。
でもこの採取してるアイテム、リュックとか手提げ袋とかにドバっと纏めて入れた状態でアイテムボックスに収納したらどうなるんだろう? 中で自動仕分けしてくれるのかな。
それとも【手提げ袋 アイテム入り】とかになるのかな?
そうだったら容量節約とか出来そうだけど。
などと思考を重ねつつ、アイテムボックス欄を出しっ放しにして回りの草や花を毟りまくる。
ふぅはははは! 入れ食いだー!
……というかこの採取方法、傍から見たら絶対にアノヒトナニ!? って思われるよね。
此処が町じゃなくて良かったね。私がいきなり街路樹の葉っぱ毟り始めてるみたいな感じだもんコレ……
採取をしながら、行きの倍ほどの時間を費やしつつY字路へとたどり着く。
ここでちょっとチャレンジ精神を出してみることにしました。
そう、あえてYの中央部分を進んでみる選択です。邪魔な物は掻き分けるのです。
実は採取しつつ回りの景色を見ていたのですが、なにやら妙なのですよ。
遠くに山とか森とか、本来見えるはずのモノが全然見えないんです。
なんというか、ぐるっと回り一帯の景色をみると、絵に描いてある空が一定の法則をもって動いているみたいな。上空を見上げるとプラネタリウムの丸い天井を見ているような。そんな違和感があるのです。
VRゲームの違和感なのか、ゲームの不具合なのか。それとも他の要因が?
などと疑問が疑問を呼んでもう居ても立っても堪らない状態になってしまったのです。
魔物とか全然みかけないし、道から外れても大丈夫だよね! ……だよね?
そんなこんなで。その違和感の原因を探るべく、道から外れて私の胸ほどの高さの生い茂った草を掻き分け、立て札の真後ろへ突入し両手をつかって強引に進みます。
さほど時間も掛からずに、恐らく外周と思われる場所にたどり着きました。
目の前には水面のように私の姿を映し出し揺らめく壁のような、鏡のような何か。
遠くを見ようと目を凝らしてみますが、フォーカスが合っていないかのように滲んで良く見えません。
「うん? コレ一体どうなってるんだろ?」
ゆっくりと手で触ると揺らめいて波紋を広げますが、金属のような冷たくて硬い手応えがあります。
ふと、足元に何かが当たったので、しゃがみ込んで確認してみると小さな棒のような物が地面に突き刺さっていました。大分錆付いているので良くわかりませんが……何かしら金属棒みたいですね。
視線を壁伝いに巡らすと、何かの目印のように金属棒が等間隔に突き立っています。
引っこ抜けるか試してみましたがビクともしませんでした。
マッチョだったら行けたのかな? 素材的に気になりますがココは諦めましょう。
これ以上考えても何もヒントがない現状では打開策があるはずもなく。
取得できる情報は入手したと考えて、Y字路まで戻ることにしました。
幸いなことに掻き分けてきた草はそのままになっていたので、戻るのに苦労はありませんでした。
まぁ草むらを掻き分けつつ突き進むのは、小柄な私にはちょっと大変でしたが。
では、先ほどの分岐点まで戻って今度は未探索の方向……つまり【■■■■の家】の方角ですね。そちらへ進んでみましょう!
一応周りを警戒しつつ歩を進めますと、少々土地がくぼんだ場所があり、柵に囲まれた小さな菜園がありました。きっちりと手入れされている様子です。
視線を先に巡らすと一軒の木造の家が。ログハウスっぽい感じです。
傷んでいるところなんて全然見当たらなく、新築っぽい綺麗さです。
立て札はあんなに痛んでたのに、このお家は頑丈ですね?
実は普通に最近建設したとかかな?
……おお!? 煙突からほんのり煙がでてる! これは絶対誰か住んでるぞ!
「あのーごめんくださーい!」
扉は何故かちょっとだけ開いていたのですが、流石に問答無用で進入する気にはなりません。
取り合えず開いた木製の扉の内側をゴンゴンゴンと手で叩き、家の中にお伺いの声をかけます。
あ、何か良い匂いがする。ポタージュスープ?
「うぇ!? はいはぁーい!? どうぞー上がって待ってて頂戴ねー!」
数秒後、奥のほうから大きな声が上がります。
なにやらドカンバカンと何かを落としたりぶつけたりする音がしています。
ああ、焦らせてしまいましたでしょうか!?
怪しいものでは御座いませんのでどうか落ち着いて!?
言われたとおり、周りを確認しつつ部屋にお邪魔した私は、置いてあったテーブルと椅子に近寄り腰かけました。何の変哲もない木製の椅子ですね。
暫くすると奥から頭に三角巾を付けて、両手にミトンを装着した女性が両手にマグカップを持って飛び出してきました。緑色の髪と青い目がとても特徴的な美人お姉さんです。ファンタジーです。
「御免なさいねー、まさかお客が来ると思わなくて。お芋のスープ作ってた所で手が離せなかったの。あ、お茶飲む? マグカップしかないけど」
お姉さんはゴトンとマグカップをテーブルの上へ置くと、パパっと両手のミトンを取り外し、テーブルにポイっと投げた。
なかなかワイルドというか大雑把?
と、そんなことを思っていると、お姉さんはテーブルの上に置いてあったガラス製の紅茶ポット? に右手の人差し指をトン、とくっ付けました。
とたんにポットからフワリと溢れるお茶の香り。
あれ? これ見た目に反して玄米茶? っぽい香りだ!
っていやいや!? 今何やったの? 魔法? これが魔法か!?
ドバドバっとお茶がポットから注がれます。雑っていう感じはしないです。
一人で暮らすのに慣れてしまっている感じがします。私とご同類ですね!
お茶を注いだ後、お姉さんも椅子に座り込んでお茶を口に付けているので、それでは私も、とマッタリお茶をいただきます。
ふぅー。お茶の温度がぬるめで飲みやすい。
ここでは汗とかかかないけれど、やっぱり身体を動かした後のお茶は美味しいねぇ。
「って、違う違う! 貴女、祝福の冒険者よね?」
一緒になってマッタリしていたお姉さんが、頭の三角巾をバサっと取り外して私のほうへ顔を詰め寄らせます。緑色の髪がきらきらっと輝きます、なんという美麗エフェクト。シャンプーのCMか。
髪の長さは大体腰の辺りまでありますね。手入れ大変そう。
「祝福の冒険者? ですか?」
そしてお姉さんが発した聞き覚えのない単語に、私は首を傾げます。
【ガイド】さんからも教わってないですね。
「あぁー違った、えーと、こことは違う場所から【依り代】を使ってこの世界に来てる冒険者っていえば判るかしら?」
「あ、はい判ります! そうですそうです!」
ああ、要するにプレイヤーって事ですね!
この世界ではプレイヤーのことを【祝福の冒険者】っていうんですね。覚えておこう!
でもこの世界の人たちのことは何て呼べばいいんだろう?
原住民じゃちょっとニュアンス違うよね。
NPCって言うのもなんだか……この世界の住人さん、とかでいいかなぁ?
「祝福の冒険者がこちらに顕現し始めたのって今日でしょ? まさか今日いきなり訪ねて来る人が居るなんて、夢にも思わなかったからビックリしちゃったわぁ」
などと言いながら、手のひらをヒラヒラっと前後に動かして笑う女性。
今日からこのゲームが始まったとか知ってるっていう事は、この方ってそれなりに重要人物なのでは無いでしょうか……
「あのですね、実は普通に町へ戻るはずだったのですけど、ここのアイテム採取したり付近を見回っても良いですか? っていう要望をチュートリアルで説明役をしていただいていた【ガイド】さんにお伺いしたら、話が巡り巡って【黄昏の大神】様から「OK!」という思し召しを頂けまして、ハイ」
とりあえずここへ来ることになった経緯を簡単に説明します。
でもこの女性の反応を見るに、やっぱりこの場所って初日じゃ到底到達できないような場所にあるんじゃないかな? 周りの様子も変だったし。
ラッキーだというべきか、厄介ごとを抱え込んでしまったと思うべきなのか。
まぁ生産職的にはラッキーなのかな? 素材万歳。
「あぁー……【黄昏の大神】様の指示なら色々納得したわ」
有る意味とんでもない来訪理由でしたが【黄昏の大神】様の名前を出したら、何故かあっさりと納得されてしまいました。
おお神よ。あなた絶対前科もちですね? やらかしてますね?
と、今だ見ぬ傍若無人な神様の姿を夢想しつつ眉間を顰めていると、ぐぐぅーっと胃袋からの警告。
うわぁ! お腹とかなったりするの!? スープの良い匂いに反応しちゃったのかな!?
「あら、お腹減ってるようだったらお芋のスープご馳走するわよ?」
「なんだか催促してしまったようでスミマセン……」
「良いの良いの。どうせ暫くはこんな辺鄙な場所にだーれも来ないし、暇してたのよ」
ああ、なんと優しいお姉さんでしょう。ありがたやー
折角なのでご相伴に預かることと致します。
お姉さんから聞いたのですが、お腹がなるのは空腹度が一定値以下になってるよ、という警告らしいです。良い事を聞きました。
「あの、一人でここに住んでいらっしゃるんですか?」
「あー、一応もう一人ココに出入りしてるのは居るんだけどね? 今は忙しいらしくて」
他に誰かいないのかと、小さめのお鍋からお芋のスープをよそって貰いつつ、お姉さんに聞いてみますと、他に住み着いている人は居なさそうです。
普段は一人で暮らしてらっしゃる様ですが、ある程度の頻度で来客はあるみたいですね。
「はぁい、お芋のスープどうぞー。味はまぁそれなりだと思うけど、熱いから気をつけてねー」
木のスプーンと深めのお皿にたっぷりと注がれたお芋のスープが目の前にコトリと置かれます。
うん、やっぱりポタージュっぽい香りです! いただきます、と両手を合わせると一口。
んんー! 五臓六腑に染み渡る! おっさんくさいぞ私!
それ以降手を止めることなくモリモリとスープを頂きました。
料理できる人は尊敬できる人です。
私だってお米炊くとか、ベーコンと目玉焼きくらいなら行けますけど……
などと思考を散らしつつ、気がつくとスープのお皿は空っぽです。ふー満足ー
「ご馳走さまでした! 美味しかったです! 身体もなんだかポカポカ暖かい感じがします」
身体の芯から温まってる感じがします。心なしか動きが軽くなったような?
「ああ、そのスープは、体力と持久力に効果がある食事なのよー」
「あ、【ガイド】さんに教わりました! 【食事効果】っていうのですよね!」
早速【ガイド】さんからご教授していただいた知識を活用するチャンスが巡ってまいりました!
なるほどーこういう風に効果がでるんですね。
思わぬところで食事効果の実演を受けることが出来て僥倖です。
「お! 流石祝福の冒険者ね。ちゃーんと勉強してるのねぇー」
といってお姉さんはうんうんと何度も頷きつつニコニコ。運よく山が当たった様な物ですけどね。
そうだ、知識の話で思い出しました。
先ほど確認した、周囲に張り巡らされている妙な壁のことを聞いてみましょう。
「そういえば、この辺り周辺に揺らめく壁みたいなのがあって、その先に進めなかったんです。チュートリアルの時にまわりに張り巡らされていた物とは、また違う様な感じだったのですが……」
「ああ、鏡みたいに姿が映りこんだでしょ。あれは一応結界っていうか不可視の壁っていうか、まぁ近寄ると鏡みたいにこちらの姿を映すから、不可視って程でもないんだけどね。あれって外側から内側に対して通りぬけ可能な一方通行の障壁なの」
進入は可能、脱出は不可能、っていうことですか。
何の準備もせずに、唐突にここにはいったらビックリするでしょうね。
まぁ魔物は全然いなかったですけど。
出入りが制限されているからこそ、始まりの町へ直帰できる移動石版があるのでしょうけれどね。
「なるほど……じゃあやっぱり町に帰るには、分かれ道の逆にあった石版の力を使うしかないんですねぇ」
【ガイド】さんの助言によって帰還する手段は把握していますので、安心ですね。
などと食後のお茶をもういっぱい頂きつつ、両目を閉じて一息ついていると。
「ふっふっふ……祝福の冒険者なら【依り代】の【死に戻り】機能を使うっていう手段もあるけどね!」
お姉さんから、スパイシーかつアバンギャルドな帰還方法を提示されました。
「あまりお勧めされたくない戻り方です!?」
わたしは いきて まちへ かえるのだー!
次話までちょっと日にちが開きますー




