123 図書館脱出 お役所突入
図書館退出、だがしかし。
ああ、『年内に山へ出発』の奴は……死んじまったよ。
いい奴だったのに。
ざっとですが必要なページを全て読み終わったと判断した私は、ハードカバーの表紙を閉じて、ふぅと一息つきます。
この本を読んで判った事は、意外にも好戦的な魔物が少ないという事です。
想像では狼とか熊のような魔物は、此方から近寄らずとも向こうから襲い掛かってくるだろうなーと思っていたのですよね。
本の説明によりますと、基本的に街道沿いには姿を現さずに少し街道を逸れた地域に出没すると。
戦う事を目的として街道を逸れて移動しない限り、山岳地帯へ到着までの道中で発生し得る戦闘回数は、北門前でラビ君と戦うよりも少なく済んでしまう可能性が高いです。
これはあえて街道を逸れて移動しつつ、魔物の動きや反応を肌で直に感じ取りに行った方が良いのでしょうか。失敗すると漏れなく町へと強制帰還する可能性のある魔物とのスキンシップですね。うむ刺激的過ぎる。
一応の目的は山岳地帯の探索ですし、途中でサヨウナラしてしまう可能性はなるべく避けたほうが良いかなぁ……うん決めた、街道を移動中に運悪くそういった相手に出会った場合だけ、対応する事にしましょう。
積極的に打って出るほど私は凄腕ではありません。
初見の素材発見等に釣られて、無意識で街道を逸れる可能性は否定できませんが。
そういえばまだ未体験ですが、このゲームって【死に戻り】したら所持アイテムを落としてしまったり、所持金が半分になったりするのでしょうかね?
特に説明が無かった部分なので、少々気になります。
復活後はスキルの成長や効果に制限が掛かるというのは覚えているのですが、その他のペナルティが存在するのか。特に説明が無い様なので大丈夫だとは思うんですけれど……今だに【死に戻り】経験ゼロですからね、出来るならばこのペースで行きたい。
手触りの良いハードカバーの革張り表紙を手で撫でつつ、あれこれと考え込んでおりましたが、あまりノンビリしている場合ではありませんでした。本を返却して目的地へ出発しなければなりません!
あと、またお腹の虫が反応を始める可能性があるので、そこも考慮して行動せねば。
色々と可愛らしい絵が描かれたメモ帳とペンをとりあえずポケットに捻じ込んで、本を手に持って椅子から立ち上がります。えーっと……本の返却はどうしようかな。
ちょっと周囲を見回してみましたが手頃な場所に司書さんが見当たらないなぁ……と思っていたのですが、私がキョロキョロしているのを見てなのか、カウンターで何かを弄っていたファルトゥラさんが、此方に笑顔を向けて右手でチョイチョイと手招きをして下さっております。お呼びでしょうか。
読書スペースから出た私は手招きに応じてカウンターへ足を進めました。
「本のご返却でお困りでしたら 私がお預かりしますよー」
「あっ、どうもありがとうございます!」
両手で持っていた2冊の本をファルトゥラさんへとお渡しします。お願いしますね。
ついでにお尻のポケットから入館者カードを取り出して、ファルトゥラさんへ返却します。
何時も通りカウンター下にカードを収納したファルトゥラさん、改めて笑顔を顔に浮かべてゆったりと頭を下げます。
「それではー またのご来館をお待ちしておりマース」
「はい、失礼します!」
私も軽くお辞儀を返しまして、図書館から退出しようとしたのですが。ちょっと気になることがあったので、足を止めて振り返りファルトゥラさんに質問してみる事にしました。
「あのー、ちょっとお聞きしたい事があるのですが良いでしょうか?」
「あらー なんでしょうかー?」
微妙に口を尖らせる感じの不思議な表情をしたファルトゥラさん、フニャっと首を傾げております。
「館内でのメニュー使用についてなのですが、どの辺までなら許容されるんでしょうか?」
「なるほどー えーっとですね 先ほどの様に司書が見ている場合やー 入り口付近ならば一応問題ありませんよー それ以外の場所でもー 加護の使用で警報等が反応する事はありませんが 疑惑をもたれる可能性がありますのでぇ 出来ればご遠慮いただけるとー ですねー」
指を動かしてメニューを表示させるジェスチャーをしたり、人差し指であちこちを指し示しながら、何時も通りの独特な喋り方で色々と教えてくださいました。
罰則の発生する事案ではなくマナーとしてみたいですね。
何かしらメニュー操作する場合は、カウンターから見える場所である読書スペースで行う事にしましょう。あそこなら一安心ですよね。
疑問が一つ解消されて良かったですね。うんうん。
それでは、と改めてお辞儀をして図書館を出る事にします。
扉を押して表に出ますと、日の高さを確認します。まだ……お昼にはなっていないかな?
行動を始めたのが大分早い時間でしたので、まだまだ大丈夫な様です。
あとはお出掛けするだけですが、食べ物に少々不安がありますので屋台で何か買っていこうかな!
買いだめしておいた食べ物で空腹を凌いできていましたが、今までで結構な量を消費してしまっていまして……備蓄が大分減ってしまっているのです。そろそろ補充しなければ私が飢えてしまう。
という事で、毎度お馴染みになりつつ噴水周りの屋台乱立スペースへと向かう事にしました。
中央通りを北上しつつ、何となく周囲を見回した時に視界に大きいギルドの建物が見えました。
あー……そういえばリーナさんに一番ボール君を見せに行ってあげても良いかも知れません。
でもギルドの本部ってこの建物で……良いんでしょうかね?
凄い大きい建物だから多分正解だと思うんだけれど。人の出入りも激しいし。
ちょ、ちょっとだけ覗いてみようかな? プレイヤーさんらしき人たちが凄い出入りしてるし、私が入っても大丈夫だよね? よし、行ってみよう! そして駄目そうなら即退出しよう!
という事で食料補充をちょっと後回しにして、初めてのギルド? 訪問にチャレンジです。
近づいて建物をよく観察してみましたが、出入口が全面ガラス張りで凄いお役所感満載なんですけれど。スッゴイ量の受付カウンターがずらーっと並んでいるのが見て取れます。
あああ何だか無性に緊張してきた。お役所に一人で行くとか苦手なんですよ! 私未成年ですし!
開放状態で固定されている出入口の扉に手を当てて、ちょっと中を覗き込み……意を決して進入してみました! ギルド内は色々と看板や案内版が設置されていて、初めて訪れた私でも何処に何があるのか凄い分かりやすい構造をしていました。これは助かります!
というかさっさとリーナさんにお会いしてお暇しましょうかね!
ギルド自体に用事があって訪れた訳ではないので。
広く取られている出入口正面のスペースで立ち止まった私は、頭上に吊り下げられている案内板を一つ一つ確認します。えーっと鑑定、鑑定はーっと?
ありました、鑑定カウンターの場所は入り口から右奥のほうみたいですね。
色々と見たことの無い様な装備を身につけた方々を楽しく眺めつつ、建物の中を進みます。
皆さん何処からあんな凄そうな鎧とか、綺麗な服をゲットしてるんでしょうかね。
生産ギルドとかで販売したりしてるのかな?
さっき案内板で見かけた物では、他に冒険者ギルドとか商人ギルド、それに生産ギルドの名も書いてありましたし。自作だったら凄いなぁ……私も皮の防具とか作りたいね!
何か他の生産用スキル覚えても良いし!
あっスキルで思い出した、私まだ【従魔】スキル取得してないよ!
食事購入の事に気が行き過ぎて、またスポーンと忘れてたよ! どうなってんの私!
いやこう考えるのだ。仲間にしたい魔物に出会ったときに『あれ!? スキルがないよ!?』ってならなくて良かったと。気が付いただけ成長したのだと。ええ、迂闊なのはデフォルトです。
なにやら沢山の張り紙が着いている場所を通りぬけ、さらに奥へと進みますと。
人通りが少なくなってきました。あれ、鑑定って人気のない部署なんでしょうかね?
あれかな、鑑定が必要なほど凄いアイテムがまだ出てないのかな。
ゲーム開始からそんなに経ってないもんね。鑑定ってしなくてもアイテムとしては使用出来るし。
妥協してそのまま使っちゃう人も多そうです。
現に最初手に入れた武器の【硬い木の棒】だって、半分以上アイテム詳細判らなかったけど、ちゃーんと武器として使えてましたし。
そう考えると必ず必要じゃない【鑑定】スキルって本当に趣味色全開なスキルなんですね。
そういうコアな感じのする物って嫌いじゃないですけどね!
一番ボール君をゲットしたときにも思いましたが、ナンバーワンよりはオンリーワンを重視していきたい今日この頃なんです。出来ればあまり目立たない方向で。
まぁ、リーナさんのポンコツ具合はリスペクトしたくないですけれど……うん。
アレコレと考えながら歩いていきますと、プレイヤーっぽい人達がワイワイと会話しながら並んでいる場所へ到着しました。頭上に張り出されている案内表示を確認しますと……バッチリと【アイテム鑑定カウンター】と書かれております。
と云う事はココにいらっしゃる方々は、何かとても凄い系アイテムを入手したプレイヤーさんという事ですね……私みたいに運ではなく実力でゲットしてきたのでしょう。尊敬です。
鑑定を頼みに来た訳では有りませんが、横からいきなり声をかけると他の皆さんにご迷惑でしょうし、列の最後尾に並んで待つことにしました。一応、アイテムボックスから一番ボール君を取り出して持っておきます。
他の方々もその手に煌びやかな短剣っぽい物や綺麗な指輪、クネクネっとした杖の様な物や悪魔の像みないな置物を持ってる人も居ます。真っ黒で重そうな鎧を抱えた人まで。
何だかどのパーティの皆さんも凄そうなアイテムを持っていらっしゃる!?
一体何処で見つけてきたんだろう?
そんな確実に凄い系プレイヤーが集う列に、どうみても①マークが書かれたバレーボール、という見た目のアイテムを持った私が並ぶと言う。とんでもない違和感。
しかも一人で並んでるの私だけですよ。私、だけですよ?
いいんだ、尻尾でもモフモフして待とう。
うん、お手入れもちゃんとしてるからフワフワだね。あはは。モフモフ。
……現実逃避じゃないですよ? 私が釣り合うプレイヤーさんとお知り合いになれれば、きっとチャンスが到来するのです、挫けなければきっと大丈夫だと信じて。モフモフ。




