117 図書館突入 と アルシェさん
図書館ではお静かに。
朝の空気をなんとなーく堪能しつつ道を歩きます。この辺りはギルドの建物が多いので朝からプレイヤーさんが多いですね。ソレと同じくらいに住民さんも色々と動いているのが見えます。
丁度施設が稼働し始める時間なんでしょうかね。
まぁ私が利用するのはギルドではなく、この先にある国営図書館なのですが。
この時間から図書館が開放されているのかちょっと不安だったのですが、先ほどエスメラルドさんと話している最中に聞いた所、大丈夫だという事でしたので一安心です。
先日ダブル串焼きを食べたときに座った、丸い形状の植え込みというか、輪っか状ベンチの中央にモサっと生垣がある感じのオブジェを避けて、国営図書館の回転扉をぐるりと押し込んで中にはいります。
二度目の来訪となったわけですが、左に設置されているカウンターには見覚えのあるウサギ耳の司書お姉さんが座っておりました。
眠そうな顔をしてぼんやりと空を見詰めつつ、右手でペンか何かをグニグニ弄繰り回しております。
まだ早朝だし利用者が来なくてお暇なのかな?
サクサクと音がなる感じの不安になるほど柔らかいカーペットを踏みしめつつ、司書のお姉さんにお声を掛けるべくカウンターへと近づきます。
私が出入口のタイルの上からカーペット上に足を踏み入れた瞬間、ピタリと全身の動きを止めた司書のお姉さん。前回と同じように微妙にフンワリとした印象の動きで此方に顔を向けてこられました。
数秒間目と目が合う状態が継続し……口の両端をニュイっと上げる感じの笑みを浮かべた司書のお姉さん……えーっとお名前なんでしたっけ? 前回貰ったカードに書いてあった筈。
ちょっと怒られるかな? と思いましたが司書のお姉さんに見える場所でメニューを開いて、一拍置いてからアイテムボックスを開き、視線をお姉さんに戻してみましたが。
チラリとアイテムボックスのメニューに視線を落としたお姉さん、一度頷いて右の手のひらを上に向けた形で何かをスイっと差し出すようなポーズを取りました……これは『どうぞどうぞ』的な意味と取って良いのかな。相変わらず動きが独特でなんともいえない感じです。
アイテムボックス使用を容認していただけたようなので、中から先日受け取った割引のカード? を取り出します。ありましたありました! そうそう、これです【再入場者用チケット】ですね!
記載されているお名前はー……【ファルトゥラ=ティルワイア】さん!
ウサギ耳司書さん……ファルトゥラさんは私が取りだしたチケットを見て、スイっと毎度お馴染みである木製のトレイを差し出してこられます。はい、よろしくお願いします。
カウンター下で私が差し出したチケットを何かに読み込ませる様な動きを見せたファルトゥラさん。
一度ゆっくりと頷くとチケットを私に返却して下さいます。
「再度ご利用ありがとうございまぁーす ご利用費用はなんと半額のー 5ゴールドでーす」
「はい! えーっと、お願いします!」
魔法のポーチからお金の入った袋を取り出して、穴の開いているコインを一枚トレイに置きまして、お支払い完了です。お金の確認を済ませたファルトゥラさん、取りあえず念のために確認してみた、と言った感じで右手人差し指を例のペンとメモ帳に向けて、カクリと首を傾げてこられました。
あ、大丈夫です! 前回のが残ってますハイ!
首を横に振って必要ない事をお伝えしますと、再度ニンマリ笑顔になったファルトゥラさんが『どうぞごゆっくりー』と言いつつ例の【入館者カード】を差し出してくださいました。
カードを受け取りまして、それでは早速と山岳地帯に行くまでに出会いそうな魔物の資料を探しに、膨大な本棚の海へと繰り出す私なのでありました。
えーっと、魔物魔物ーっと……?
ソレっぽい棚を発見する事はで来ましたが、量が多すぎてどれがどれやら?
うん、ここはアレですね、司書の人にお伺いした方が良さそうですね。
何方か近くにいらっしゃらないかなー?
近くに居ないようならカウンターのファルトゥラさんに聞けば良いかな。
取りあえず本棚を迂回しつつ見える範囲で辺りを見回してみますと、あっ居ました!
あの小柄な身体にチョコマカ感の迸る動き!
えーっと確かエルフの……凄い名前が長くて覚え切れなかったアルシェさんですね!
前回の様にいきなりお声を掛けると、また今も激しく昇降している踏み台から落下して危ない可能性がありますので、本棚の周りをちょっと大きめに迂回して、自然にアルシェさんの視界の端に私が入っていく形で近寄る事にしました。
コレならば見えている私からの挨拶になるはずですので、ビックリして踏み外す事はないはず!
本の積み上げられたカートと本棚の間を、機敏な動きで往復しつつ本整理をしていたアルシェさんが、私の姿を見つけて『あっ!』という感じの表情になり……
踏み台から降りてわざわざ此方まで来て下さいました。
「これはこれは! フワモ様! 図書館のご利用ありがとうございまーす!」
「おはようございますアルシェさん、ちょっと本の事についてお伺いし」
「はいはい! 何なりとお申し付け下さいませ!」
相変わらず被り気味のタイミングで返答して下さったアルシェさん。
朝早くから非常に元気ですね。
何処からそのパワーが溢れてきているのだろうか。
小さい体に高出力エンジンが組み込まれているのか。
とりあえず今日この後、北の山岳地帯へ向かうつもりである事と、道中や山岳で出会う可能性のある魔物がどんな相手なのか確認する為の本を探している旨を伝えます。
「ふむ! 北の山岳と平原から森の西端あたりに分布する魔物の傾向と対策ですね、把握です!」
数秒目を閉じて考え込んだアルシェさんが、音をたてない素早い動きで先ほど私が眺めていた魔物関連の本がある棚の前に、両手で踏み台を抱えつつ移動されます。
慣れた動きで踏み台にあがったアルシェさん、一冊の本を抜き出して私に差し出してくださいます。
本の題名は『魔物の分布とその生態 始まりの町北部編 その2』となっております。
「この本に詳しく記載されている筈です! どうぞ!」
「わぁ! どうもありがとうございます!」
凄い記憶力ですよね! 一発で判るとか一体どういった脳内構造をしているのでしょうか。
エルフの方ですし、実は長年勤務していて知識豊富だったりするのかもしれませんが、それでもすごいですよね。
ああそうだ、先日からずっと疑問と言うか気になっていた事をお聞きしてみようかな?
先日アルシェさんが踏み台から滑落するのを阻止するべく抱きかかえた時、アルシェさんの身体が凄い軽かった理由って何なのか、ちょっと聞いてみたかったんですよね。
体重とか動作が軽くなるスキルか何かなのでしょうか。動きが軽快ですしアルシェさん。
という事で、先日抱きかかえたときに凄い軽かったというお話を、実はスキルだったりするんでしょうか? 何て事を付け加えつつアルシェさんに振ってみたのですが。
「え!? 体重に関するスキルなんて私持ってないですよ?」
「あれ!? じゃあ私の筋力が実は予想外にもマッシヴで、小柄なアルシェさんをフンワリ羽毛な軽さに感じただけなんでしょうか!?」
返って来た返答はまさかの当人に心当たりなし、という不測の事態。
試しに持ち上げてみてくださいーとアルシェさんが仰るので、僭越ながらアルシェさんの私より小柄な身体の両脇に腕を添えて、よいしょと持ち上げさせていただきました。
あれ、普通に重いっていうか体重を感じるぞ?
アルシェさんも『そういえば先日は軽々と支えて頂けてましたデスネ?』と、私と一緒に首を傾げつつ微妙な表情をしていらっしゃいます。
「先日は何か大幅に筋力が上がる装備を身につけていたとかは……ないでしょうか?」
「んーっと、今も昔もそういった装備は付けてない筈ですね……」
恐らく変わった事といったら、毒薬作ったりクッション作ったしした位ですよね多分。
スキルのレベルが関係しているのならば、昔より今の方が重く感じるって言う事自体おかしい筈ですし。
私が色々と心当たりを考えている最中に、何か思いついた感じでアルシェさんが私の身体をペトペトと触り始めました。ん? 何事でしょうか?
「んー遅延発動や条件発動系の魔法気配はしないですねぇ……となると装備品に何か特殊能力が……」
「遅延? 条件?」
色々と聞いた事の無い単語が入り混じっておりますが……特殊な装備は幾つかありますね。おもに頂き物ばっかりなので細かい性能の把握は出来ておりませんので、そこの辺り何かが影響したのかな。
「んー? ……ああ! もしかして『落下制御』能力装備をお持ちじゃないですか!?」
「ふぇ!? えーっと!?」
ちょ、ちょっと待ってくださいね? えーっとどこかで見た記憶が……ああー!
思い出しました! 私持ってますよそのえっと『落下制御』のやつ!
「はいはい! このペンダントです!」
そうそう、確か付いてましたよ! これですよこれ!
私は首に下げた状態で懐に仕舞いこんでいた【緑石のペンダント】を取り出して、興味津々の表情で待っているアルシェさんに見せます。
ペタペタと【緑石のペンダント】を触ったアルシェさん、納得したように数回頷きます。
「能力条件に記載されている定員が複数設定ならば、私が落下しそうになった所にそのペンダントで制御が入って、その結果私の身体が軽くなったという感覚を覚えたという事でしょう!」
「えーっとつまり?」
「私落ちる フワモ様が掴む 落下中の私に制御が掛かる ゆっくり落ちる 私軽い! です!」
なるほどぉ! 中々便利な能力じゃないですか? あれ、でもそれなら今朝ドボンと噴水に落ちたときは何で発動しなかったんだろう?
状況を思い出してみて……あれなら発動しても良い様な気がする様な?
ちょっと気になったので状況をアルシェさんに話してみた所。
何やら『ログイン直後』は装備の効果待機時間とやらがリセットされていてカウントし直し? になるらしいです。
つまりログイン直後は装備効果が発動しない可能性が高く危険である、と云うことでしょうか。
うむぅなるほど……何も対策せずに外でログアウトしないほうが絶対良いですよ! とお勧めしてきたアレイアさんのお言葉が、さらに納得できる物になりました。
あれでしょうか、ログインログアウトの機能を悪用出来ないように、見たいな理由なのでしょうか。
単純に、データ処理的な理由があるのかもしれませんけれどね。
何時の間にやら累計PVが500万突破しておりました。
感謝感激。
これからも、良ければたまに覗いてやって下さいませ。




