114 受け継がれる? 笑う鬼神
名を継ぐ者の誕生(無駄にカッコ良く
落ち着いたとは言え、お歳を召した今でもコレだけ元気なのですから、若い頃は一人でドンドン突っ込んで魔物を蹴散らしていたんだろうなぁと想像出来ます。
ああ、地に倒れ付した魔物を足蹴に武器を掲げて喜んでいるカイムさんの姿が脳裏に浮かびますね。
まぁあれですね、若い頃のカイムさんがどういった容姿だったのか知らないので、今現在のお歳を召したオジイチャンバージョンでの想像ですが。
武器が2本あれば攻撃回数も倍に出来ると思いますし。
2倍疲れそうですけれど。
私が選択した種族である所の狐人は持久力にちょっと難があった記憶が有ります。
同じような事をしたら動悸息切れで眩暈を起こしそうなのですが。
まぁそもそも、剣を使うためのスキルを所持していないと言う理由もあります。刃物ですし。
「そうなると、私も剣と棒を所持して戦う感じになるんでしょうか……?」
「いやいや、お嬢さんにワシの戦闘方法そのままを教えるつもりは無いから、安心するといいぞぃ」
あれ、そうすると両手に棒とかなのかな?
お祭り太鼓の達人でしょうか。ダブルステッキ。
視覚情報的には凄い痛そうですね、両手でボコボコする光景は……流石にそんな猟奇的な戦闘方法を取りたくは無いんですけれど……大丈夫だろうか。
私が不安たっぷりにカイムさんの授業の続きを待っておりますと、カイムさんが腰に提げていた棒武器を流れるような動きでスルっと取り出し、私の頭に向かってゆっくりと振り下ろす、というか近づける感じで攻撃する真似? をしてきました。
「お嬢さんには棒での戦い方だけ教えるつもりじゃよ。防御や行動阻害を主軸にした戦法じゃよ」
「防御と、行動阻害、ですか?」
うーん? 言葉の説明だけだとニュアンス的なものしか判りません。
私のイメージで防御凄い! と云う言葉で表現される対象は、硬そうな鎧とか兜を身につけて歩いている、筋肉マッチョな男性の映像が脳内に出てくるんですが。
それっぽいファンタジー映画の知識。偏りが半端ない。
私が首を傾げているのに気がついたカイムさんが、私から数歩離れるとこちらを振り向いて。
ビュン! という風切り音と共に、私のオデコの辺りにカイムさんが右手に持った棒が、ピタリと寸止めされている事に気がついたのは、事が既に全部終わった後でした。
……えええ!? ま、全く見えなかったんですが!?
「とまぁ、棒はリーチは少々不安が残るが小回りが利くんで素早く行動できるし、刃の切れ味を考えずに強引な攻めを行う事が出来るからの」
その様な事を言いつつ、カイムさんがビュンビュンと音をたてて棒を振るい、私の首、肩、肘、膝等の場所へ連続で寸止めの攻撃を振ってきます。非力な私でも何とかなる戦い方っていう事なのかな。
私にも棒を手に持つように促してきたカイムさん、言われたとおりに私も腰に提げていた棒を引っ張り出して右手に持ちます。
「それでじゃ、ワシが教える棒術は相手の行動阻害誘発点を強打して、隙を作るのを目的としとる」
「ふむふむ……普通に攻撃するのとは違うんですか?」
「まぁアレじゃな、被害を与えるのを第一とせずに、気絶に眩暈、痺れや怯みに転倒その他諸々……つまり相手の動きを止めたり妨害する戦い方、という感じじゃ」
なるほど、つまりカイムさんの戦い方は『棒で殴って動きを止めてから、剣でザクっと倒す』っていう流れなのでしょうか。右手と左手の武器で役割分担して大量の敵を捌いていたのかな。
私がやると頭の動きと体の動きがこんがらがって、めちゃくちゃになりそうです。
右手と左手で同時に違う図形が描ける人とかなら大丈夫なのだろうか。
状況が全然違うからそうでもないのかな。
「お嬢さんは別に戦いで生計を立てていくつもりは無いんじゃろ? むしろ生産のための戦闘といった感じじゃなかろうか? とワシは思っとるんじゃが、どうかの」
「はい、そんな感じです。素材とかなるべく自分で入手できれば良いなー、とは思っていますけれど」
「うむ! ならば身を守るために適した棒術を覚えればバッチリじゃろう!」
私の返答を聞いてご満悦のカイムさん、私の手を取って握りを確かめたり、腕の角度を調節したりし始めます。私の横についてカイムさんが武器をゆっくり振りながら『基本は頭や関節を狙う感じじゃ』という説明を口にします。
ある程度カイムさんの動きをなぞって棒を振り続けておりましたが、試しに私がカイムさんを攻撃するという流れに何時の間にかなってしまいました……あれー!?
「ほれ、思いっきりやれとは言わんが、ある程度の速度を持って攻撃するようにの!」
「だ、大丈夫なんですか!? っていうか魔物と戦うよりハードル高いんですけれど!?」
大丈夫大丈夫じゃ! なんて笑顔で言いつつ、私に攻撃を仕掛けてくるように手招きをしているカイムさん。うぐぐぐ! ええーい! 頭をボコっとするのは流石に無理なので、腕を狙って見ます!
カイムさんの教えの通りに、腕というか肩関節辺りを狙って棒を振り下ろしました……が。
当然の結果なのでしょうか、カイムさんが手に持った棒で呆気なく防御されてしまいました。
「うむ、速さは問題なさそうじゃ。後はしっかり意識して攻撃する事が大事じゃからの!」
「そ、そうですか?」
カイムさん的にはオッケーをくれる感じの様ですね。練習あるのみかな?
なんて自分の戦闘センスはどの程度なのだろうか、何て首を捻りつつ武器をベルトに収納していたら、目の前にポン♪ という音と共に何やらメッセージ板が出現しました。
あれ? 何かクエストっぽい感じでしょうか?
「おぉ!? なんじゃなんじゃ? 何か『神託』が届いたのかの!」
突然出現したメッセージ板に興味を持ったのか、カイムさんも武器を腰に戻して私と一緒にそこに記載されている文章を覗き込みます。えーっと、突然何事でしょうかね?
期待よりも不安を抱きつつ、書かれている文章に目を通しますと。
『ネイティブスキルに対する理解度が一定数値に達しました 【基礎 棒スキル】を【騎士棒術改】に置換しますか? はい いいえ』
んんー!? コレは一体どうしたものでしょうか!? 理解度が一定数値にというのは何事でしょうか。私が首を傾げて唸っていると、カイムさんも表記されている文章を読み終わったのか、ヒゲを擦りながら首を捻って考え込んでおります。
カイムさんも良く判っていらっしゃらない様ですね?
取りあえず、このまま放置している訳にも行きませんので『はい』か『いいえ』のどちらかを選ばねばなりませんね。多分ですが、文章の内容から予想するに【基礎 棒スキル】がカイムさん的棒スキルである【騎士棒術改】に変更できるので、変更いたしますかーっていうアナウンスだよね。
「これ、どう思います? カイムさん」
「コレはあれじゃよな? もうお前さんが【騎士棒術改】スキル取得の取っ掛かりに達したという事じゃよな?」
「はい、多分そうだと思います」
私の返答を受け、両目を瞑った状態で考え込むようなポーズを取っていたカイムさんが、顔を上げて非常にニコヤカな笑顔を私に向けました。
「つまりワシの正式な弟子! 【笑う鬼神】を継ぐ者ということじゃな!?」
「えー!? それ余り嬉しくないんですけど!?」
カイムさんは嬉しそうな笑顔を浮かべておりますが……そんな大仰な表現は要らないと思うんですが。
むしろ笑顔で戦闘とか出来ませんよ?
とりあえず目の前に出ている選択肢ですが『はい』を選んでおきます。
カイムさんとの特訓の成果が出たという事でしょうし、お断りする理由がありませんからね。
念の為スキル欄を確認して見ますと……【騎士棒術改】のレベルは0になってました。
あー、本当に入門編を抜けましたーっていう感じみたいですね。これから頑張っていけば大丈夫かな。
その後、終始ご機嫌なカイムさんにお別れの挨拶を済ませまして、次の目的地であるエスメラルドさんのところへ向かうことにします。クッション査定頼まないとね!
別れ際にカイムさんが『ラティアちゃんにも宜しく伝えておくから、安心して死闘を繰り広げてくるがいいぞぃ』と縁起でもない言葉を発していましたが、気にしない事にします。
お出掛けする前からプレッシャーを与えないで下さいますかねカイムさん。
ああああーラティアちゃんで癒されたい。




