113 似たもの同士の お二人 と 騎士棒術改
技術指南。
カイムさんに色々と説明した後、お馴染みの日課であるポーション作成を進める私なのであります。
調子に乗って毒キノコをまた取りすぎたので、昨日消費した分がまた元に戻ってしまっていますね。
毒液を作ることでスキルのレベルが上がるのは確認済みですので、また今度生産用スペースを再度借りて毒液作成に勤しむ事にしましょう。生産オールタイム毒液で。目鼻喉に優しくない。
明日は色々とアップデートがあるというお話でしたので、実行するのは火曜日以降になるかなーと思います。この後目指す山岳地帯で何か生産に活用できる様な、面白い素材を見つけられると良いですね。
一番の目的はフワモコ生命体を発見する事ですけど! そこは譲れません!
等と考えつつも私の手はポーションを作る作業に専念しております。
もはや定番となった3種類ポーションならば、カイムさんと会話しながらでも失敗しないようになって来ましたよ! 完成したポーションも、一定のクオリティを確保出来ている状態の様なので色々と一安心です。
ああそうだ! 棒を武器にして戦っていたと言うカイムさんなら、毒液を棒につけて戦うとかやった事あるかな!? 毒と棒の組み合わせは如何なものかちょっと質問してみましょう。
「カイムさんカイムさん! ちょっと質問が!」
「うん? なんじゃ? スリーサイズ以外なら返答可能じゃぞ!」
休憩場の横で、色々と確かめるように身体を動かしながら棒の素振りをしつつ、私のポーション作成を眺めていたカイムさんに声をかけると、どこかで聞いた事のある返答が返って来ました。
うん、カイムさんとリーナさんは似たもの同士な所があるのかな。
「……その台詞リーナさんも言ってましたよ?」
「なんじゃと!? ネタ被りとは不覚を取ったわ!! こうなったらスリーサイズを教えるしか!」
「何故にそういった思考になりますかね!? 大いに遠慮しますよ!?」
私の返した返答に愕然とした表情を浮かべたカイムさん、ちょっと意味の判らない事を口走り始めましたよ!? カイムさんのスリーサイズとか、どこからどう見ても『スッ スッ スッ』っていう擬音が当て嵌まる感じの、普通にスレンダーな細いご老体スタイルじゃないですか!
むしろアレだけ激しい運動能力をお持ちになっていること自体に、凄い違和感を感じるほどですよ!?
私からの激しい拒絶の言葉に、言葉を詰まらせたカイムさんがガックリと肩を落としました。
えええええ……そこまで凹むような事だったんですか?
「昔っからリーナとは色々とあってのぅ……今回はネタ被りでその因縁を感じる事になるとは……」
「類は友を呼ぶという奴でしょうか」
「あまり嬉しくないのぅ……それでワシに質問というのは何じゃ?」
口の端をグニュっと歪める様な苦いものを口に入れた様な表情で、鼻から息を吐いてヒゲを擦り始めたカイムさんが、改めて私に向き直って声をかけてこられました。
ああ、そうそう! 毒、毒ですよ毒! キノコの液体ですよ!
「あのですね、赤キノコを材料にして【赤キノコ毒液】を作ったのですが、コレを棒の武器に塗って敵を攻撃したりするとソレっぽい効果があるのかどうか、お聞きしてみようかなーと思って」
「ほほぅ? 毒殺とな!? 生産と棒術が合わさり、至極えげつなさ満点じゃ! ほっほ!」
私の質問を聞いたカイムさん、何だか非常にご機嫌な状態になって、腰に携えている棒をパシパシと叩き始めました。何だか非常に遺憾の意を表したい表現を使われている気がするのですが!?
何で一々物騒な感じの発言が出てくるんでしょうかね!
このまま所持していても仕方がないから使い方を考えているだけじゃないですかぁ!
「物騒じゃないです! 作ったものだから使いたいなーって思っただけなんですぅ!」
「そうかのぅ? まぁアレじゃよ、やっぱり毒物系の効果を高くしたいのならば、刃物に付着させた方が効果は高いのぅ」
「棒に塗りつけても余り効果ありませんか?」
「全くないというほどでも無いがのぅ……結局毒ビンを投げつけるのと大差ないからの」
ふむふむ、攻撃と同時に相手の表皮その他に毒物を付着させる! っていう感じでしょうからね、棒に毒液つけてアタック! というのは。それならそのまま毒のビンを投げ付けた方が早いのか。
でも話を聴くに、全く効果がない訳じゃなさそうですから、何か有事の際にちょっと毒攻撃入門といった感じで、棒に毒液塗り塗り攻撃を実行してみましょうかね。
ポーション作成ラストのマナポーションを作るための準備をしつつ、ついでにカイムさんに山岳地帯はどの様な場所なのか聞いてみることにしました。
私の問いに対して返って来た答えは、余り参考にならないものでしたが。
「普通ーの山じゃよ? 魔物はそこそこ出てきたような覚えがあるのぅ」
「えええー……何かこういった素材が取れるーとか、ああいった魔物がいるーとか、そういった感じの為になる薀蓄は無いのでしょうか」
「そうは言ってものぅ? 出現する魔物の傾向としては獣系のものが多いと言う感じじゃの」
「獣というと、平原に居るラビみたいな動物っぽい感じのでしょうか」
虫系の相手じゃなければ精神的被害は抑えられるかな? 無理して戦闘を行なうつもりはないので、なるべく魔物に会わないよう避けて進むつもりではあります。
初めて会った相手なら一回くらい戦ってみてもいいですが、未だに戦闘に慣れて来たかな? という様な……そう、なんと言いますか強くなってる実感のような物が沸いてこないんですよね。
ラビ君との戦闘は回数をこなして慣れたので、多分完璧に近いと思うんですけど。
すでにほぼ一発で終わるようになりましたからね、ラビ君達相手ですと。強い武器万歳です。
私が今まで倒してきたラビ君達に対しての戦闘方法を思い出しておりますと、カイムさんが山岳地帯近辺で出てくる敵の傾向を教えてくださいました……
「まぁそのまま動物系じゃな。狼や猪に熊と色々揃っておるし、肉や皮の素材も手に入るのぅ」
「ええええ!? なにやら凄い強そうなんですけど!?」
「なんのなんの! 落ち着いて対処すれば、お嬢ちゃんならどれも問題なかろうて!」
そんな事を気楽に口に出しつつ、カイムさんがポーションの作成作業をしながら話を聞いていた、私の肩をポンポンと叩いてニッコリ笑顔を向けてきます。えー胡散臭いです。
覚えている魔法スキル等をしっかり活用していけば何とかなるのかなぁ……
戦う戦わないの前に、相手の見た目で萎縮してしまいそうな気がするんですけれど……ううう。
相手の見た目が、フワっとした縫いぐるみでファンシー&チャーミーだったら戦えそうなのに。
それを棒でボコボコっと叩くとなると、それはそれで私のハートに違う意味で打撃が来そうですけど。殴るとワタが出る。
色々とお話を聴いていたせいで動揺して、マナポーションの温度調節を失敗しそうになりましたよ、危ない危ない! 魔力の花は入手量が少ないから失敗すると勿体無いですからね。
初期の3種ポーションとは言え、折角未だ一度の失敗もしていないのですから、このまま記録を伸ばしていきましょう! 地味ーな記録ですけど。心の持ちようですね。
その後、無事マナポーションの作成を終了させた私は、今日もカイムさんに棒での戦闘をご教示してもらうのでした。
先日は取りあえず形だけからという事で、カイムさんの動きに倣ってエイヤーと棒を振っていたのですが、今日はカイムさん的棒術の本質というか特徴? を教えてもらいました。
「ワシの使ってる棒術は『局地型 聖騎士流 制圧戦闘棒術』という物でな」
「先生ー名前が長くて言いづらいデス!」
「なんじゃと!? ええぃ! それならば通称の『騎士棒術改』でどうじゃ!」
「凄い判りやすくなりました! メモメモ!」
何だか無茶苦茶ながーいお名前だったので、念の為に省略名称がないか言ってみましたが、やはり存在したようですね。こういうのは正式名称で覚えておけとか言われそうですが、長すぎて脳内記憶だけでサラっと口に出すのは無理っぽいです。
でも一応両方ともメモ帳に書き記しておきましたよ! 予習復習用。
「それでどういった棒術? なのでしょうか先生!」
「うむ、良い質問じゃな! それを説明するには、まずこの『騎士棒術改』を発案したのがワシだという所から説明せねばなるまい!」
「そこからなんですか!? もしかして、凄い長くなりそうですか!?」
「むむ!? そうかお嬢ちゃんは午前中には出発して、山岳へ向かうんじゃったのぅ」
意気揚々と何かしら説明を始めようとしていた、カイムさんの動きがピタリと止まりました。あーやっぱり時間が結構かかる予定だったのでしょうか。悪い事をしてしまいましたね。
「それならばソレっぽく掻い摘んで説明じゃな! 臨機応変も騎士の嗜みよ!」
「さすが! 【笑う鬼神】は違いますね!」
「だからその名前で呼ぶでない! どこかで聞かれてたら大変じゃろう!?」
「むごもご!」
カイムさんがあたりをキョロキョロと見回して私の口を右手で塞ぎます。
そんなに若かった頃のカイムさんは凄い事を実行しまくっていたのでしょうか。
本人がこういった反応を示すという事は、色々とアレでアレな感じなのかな。
でも若い騎士さんには人気があるみたいですし。悪名ではないのでしょう。
「ごほん! それでじゃ、ワシは右手に普通の騎士が使うものより少し短い直剣、左手に棒を装備した双剣使いというか一剣一棒使いというか、そういった戦闘方法をとっておったんじゃよ」
「おお、何だか達人な雰囲気を醸し出す戦闘方法ですね……!」
「勿論両手に剣でも両手に棒でも問題なく戦闘出来る技術は持っておるがの! 違う武器2種を使って、臨機応変に戦闘しつつ大量の敵を引っ掻き回す、という感じで昔はやっとたんじゃよ」
うわー、聞いてるだけで凄い事をしていたんだなぁ……といった感じがヒシヒシと伝わってきます。
魔物の群れに突っ込んでビシバシやりながら、両手の武器を振り回して楽しそうに笑顔で戦っていたんでしょうか。
ううむ、まさに戦闘狂。今でも元気だなーと思いますけれど、大分落ち着いてるんですねカイムさん。




