112 ちょっと 寂しい 公園です
日課。
ガルドスさんの反応に対してに抱いた感想はそっと胸の奥に仕舞っておくとしまして。
折角お会いで来た事ですし、幾つか聞きたいこともありますのでお伺いしてみましょう。
まずは山岳地帯へのルートを教えていただく所からでしょうか。
そんなの気にしないで道なき道を突き進んで北上すると言う手もありますが、道があるなら視界が開けて周囲の状況を確認しつつ移動出来るでしょうし、不意に魔物と遭遇する確率も少なく済むのでは。
「今日は前に言っていたように北部の山岳地帯に向かってみようと思うのですが、順路みたいなのはあるのでしょうか?」
「ああ、この門から出てあの見えてる道伝いに進むと、そこの森を迂回する形で道が続いてるよ」
門の外を指差して身振り手振りを混ぜつつ、ガルドスさんが説明して下さいます。
ふむふむ、ちょっと時間が余計に掛かりますが、迷ってしまったら元も子もありませんし……でもマップを使いつつ進行すれば森の中を突っ切って移動距離を短縮できるかもしれません。
……うん、ここは安定策をとって道なりに行きましょう。
こういった時にやらなくても良い無茶をするから色々とアレな事になってしまうんですよねきっと。
それに森の中には例の蜘蛛さんが闊歩しているでしょうからね! リベンジはそのうちね。うん。
それにしても、ちゃんと山岳地帯の方まで道が続いているようで一安心です。
「今から出掛けるのかい?」
「いえ、日課の素材集めとポーション作成を先に済ませようと思って」
「そうかい、山の方はこの辺りとは違う魔物が出るから山岳地帯に向かうときは気をつけてな!」
ガルドスさんのご忠告をありがたく受けつつ、素材集めをするためにガルドスさんに軽く手を振った後に北門をくぐります。流石日曜日だけあって早朝でも結構な人の入りですね。
まずは魔法からですね。武器と防具に魔法をかけて一応強化しておきます。小まめに使う事を忘れないようにね! ああそうだ、生産用スペースで思いついた換気扇魔法? を後でカスタマイズで作ってみよう! 上手い具合に機能してくれるといいけど。
身に付けている服と、腰に提げた棒が淡い光に包まれたのを確認しまして、森の方へのんびり移動しつつ道中で目に付いた素材を、何時も通りアイテムボックスへとホイホイ収納していきます。
今日はお出掛けが一番の目標だし、余り量を集めてしまうと生産に時間が掛かりすぎちゃうでしょうから、程よい量を採取したらポーション作成に取りかかりましょうか。
毎度お馴染みのルートを辿って森の端へ向かいつつ、大分慣れてきた採取行動に勤しみます。
地面にしゃがみ込んで、薬草とその横に生えていた魔力の花を毟って収納しつつ、ふと開きっぱなしにしているアイテムボックスの中身が目に付いたのですが。
そういえば【装備箱 ラビ】の中身を確認するの忘れてましたよ!
でもこれ、開けないで売った方が良いのじゃないかなー? なんて思い始めてるんですよね。
露店の価格でしたけれど5000ゴールド、と云うのは中々に魅力的であります。
それに、こういったランダムでアイテムが出てくる系統の品物には、実はあまり良い思い出が無いのですよ。おもに【ふわもこファーム】での記憶なんですけどね。福引系のイベントアイテムとかです。
どうも絶妙に使いづらい微妙なのが良く当たると言うか……
んー、でも折角拾った物だし思い切って開けてみようかな?
とりあえず一人で開けて孤独に微妙なアイテム入手するのも寂しいので、今度ラティアちゃんと一緒の時に開けてみよう! もしも何時も通りに微妙なアイテムを入手して私が深い悲しみに包まれても、ラティアちゃんで癒されればプラスマイナスでゼロになるはず! うーん強引な計算式!
あ、そうだ! ついでにイモムシ君からゲットした【虫の糸】の詳細も見ておこう。
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アイテム名 【虫の糸】
等級 一般
品質 ☆☆☆☆
破損度 問題無し
属性 ※物品『物理』 ※繊維『良質』
付加能力 ※色彩『白』
効果待機時間 10カウント
詳細 大陸全域で見受けられるイモ虫の魔物が出す糸。
主に布の材料に用いられる素材。丈夫である程度伸び縮みする。
スキルで加工することにより様々な形状に加工可能。
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ふむ、そのまんまの説明な糸なんだね。
詳細の内容を読んでみるに、コレは【革細工】じゃ加工出来ないでしょう。専用のスキルがあるのかな。あれかな、服を作ったりするスキルがあるのでしょうか。
ちょっと興味がありますが、糸関連を収集しないとスキルを育てられない可能性を考えてみると……例の蜘蛛くんと熱い戦いを繰り広げないといけない事態になるのでは。
これはあれかな、エスメラルドさんにご相談して聞いてみた方が良さそう。服とかも上手に作れそうな印象があるもんねエスメラルドさんって。きっと色々と詳しく教えて貰えるんじゃないでしょうか!
クッションを売りにいった時、ついでに聞けば良いかな? 等と考えつつアイテムボックスの中身を確認、平行してちゃんと採取は続けておりますよ! 今日は何だか薬草の数がちょっと少ない様な気がしますね? 誰かが重点的に探して毟って行ってるのでしょうか。
何時も通り森の端に到着した私は、手持ちアイテムの確認を切り上げて採取に集中する事にしました。
あまりノンビリしていると、エスメラルドさんのお店が開店する時間になっちゃうからね。
ちょっと早めに顔を出してみて、可能な様であればお店が開店する前にお話を聞こうと思ってますので。営業中に長話してるとお客様が来たときに迷惑だもんね!
前回のリーナさんとの会話で色々と悟りましたよ。
まぁあの長話の原因は8割方リーナさんにあると思うんですけどね! リーナさん元気してるかな。
例のハイテンション鑑定お姉さんの勇姿を何となく思い浮かべつつ、今日も元気に両手でキノコを毟ります。そういえばキノコも栽培できたりするのでしょうか? 薬草とか魔力の花はいけそうな雰囲気があるんですけれど、キノコって菌類的なくくりなのでしょうか。植物じゃーないよね、流石に。
両手に持った2種類の色違いキノコを眺めながら、うむむと考え込みます。
このままズボっと地面に突き刺しておいたら、次の日にニョキっと増えてたりしないかなぁ……駄目かなやっぱり。となると胞子? みたいなのから増やしたりするんでしょうか。
そもそも木の根っことかにくっ付いてるから地面に直接はニョッキしないのかな?
あれかな、家庭栽培のシイタケ栽培キットみたいに手頃な木材っぽいヤツで栽培とか!
そのあたりの再現度はどんな物なんだろう?
想像すると何だかちょっと楽しそう! やりたくなってきました!
キノコのお世話の仕方とか、お手入れの方法とかも全然判らないけど!
ゲームのキノコなら一晩でニョッキニョキしてくれるかも。
移動の手間が省けて凄い楽になるんじゃないでしょうか? でもそれを実行するには、私がある程度自由に出来る土地を確保する必要があるわけで。
小型のキノコ栽培キットみたいなのがあるとしても……アイテムボックスに収納してたらニョッキしないよね。うーむ、大人しく天然物をゲットしておけって事なのだろうか。悩ましい。
しかし、土地の購入はどこで手続きするのか……お役所かなぁ?
何処かにそれっぽい建物ありましたでしょうか。全然覚えていないというか、必要に駆られなかったので興味が無かったと言うか。
……うん、心のガルドスさん案件メモにチェックです。お金が溜まったら検討ね!
いやーそれにしても、今日も毒キノコの採取が非常に捗っています。というか多分私のほかに採取しているであろうプレイヤーさんは、毒のキノコはあえて採取していっていない可能性が高いですね。
そりゃ使い道が微妙でしょうから仕方ないのかな。
さて、昨日よりちょっと少ないくらいの採取量ですが、これ以上森の奥に進むと蜘蛛くんが『コンニチワ』してきそうなので、ここで引き返すことにします。
採取自体は山岳地帯への移動中、片手間程度なら出来るでしょうし。
あまり採取にかまけていると山に付く前に日が落ちてしまうかもしれませんから、時間には十分に気をつけていきましょう。
アイテムボックスを閉じる際にメニューを確認すると、水濡れのアイコンが消失しておりました。
うん、時間で乾燥してくれるのは確定みたいですね。良かった良かった。
手早く装備を【冒険者の服】へと戻し、ついでに効果が切れていた強化魔法を武器と服へかけなおします。一通りやる事を済ませた私は少々早歩きで北門へと戻りました。
私が北門をくぐった直後の丁度いいタイミングで、口を大きく開けて眠そうに欠伸をしていたガルドスさんへ、挨拶代わりに軽く手を振って応援の意思を籠めてグッとガッツポーズ。
早朝で眠いでしょうがお仕事頑張って下さい!
ガルドスさんも手のひらで顔をゴシゴシと擦った後に、ヒラヒラと手を振り返してくださいました。
何時も通り路地裏の道へと進み、マップを眺めながら生産作業をする前にエピルのカットフルーツを口に放り込みます。ん、美味しい。
特に何事も無くいつもの公園へとたどり着きます。例の怪しい覗きプレイヤーさんは居ないよね……?
一応あたりを警戒しつつ公園へ進入しますが……私なんかの警戒がどの程度役に立つのかは謎です。
何もしないよりは? という感じでしょうか。
まぁシステマさんからキツーイ運営告知が届いている筈ですし大丈夫かな?
特に怪しい人物は見当たらないようなので、何時も通り公園の休憩場へと足を向けますと、のんびりとそこで煙草をふかしている先客が一人。ああ、カイムさんですね。
「おはようございますー」
「おお、おはようさん! 例の怪しい者の動きが何か判るまで、ラティアちゃんはあまりお出掛けしないでお家に居てもらう事にしたでな。今日はワシ一人で寂しく散歩じゃよ……およよよ」
しょんぼりとした表情であからさまな泣き真似をしつつ、フワっと煙を吐き出すカイムさん。
あっそうだ! GMさん……というかシステマさんにお願いして、一応覗きプレイヤーの事案に対して手をうって貰いましたよ! ってカイムさんにも伝えておこう!
「その事でですね! 運営さんに報告して、その茂みから覗いていたというプレイヤーさんに、GMさんから警告文を送ってもらいました!」
「なんじゃと!? 『運営』の命でこの世界を守って下さっている『GM』様に直接頼んでくれたのか!」
「一応祝福の冒険者全員、GMさんに連絡できるようになってますから!」
「はー! 流石じゃのぅ! これでひとまずは安心と言った所かのぅ?」
笑顔に戻ったカイムさんがほっと息を吐いて、ウンウンと数回頷いておられます。
そして何やら無駄に荘厳な表現をされていた運営とGMさん。この世界ではそう呼ばれるんですね。
あの時聞いた、カイムさんに見咎められた後の覗き見プレイヤーの反応から予想すると、多分その場の勢いでやってしまった感のある動きの様でしたし。
ゲームID消去が確定してしまうような事は恐らくもうしてこないでしょう!
これで山岳地帯から戻ってきたら、またラティアちゃんと公園で楽しく遊べるかな?
※ 追記 誤字等ご意見を頂いた場所を修正いたしました。




