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001 読書中の私は 聞き耳を立てる

初投稿です どうぞよろしくお願いします。

「いつも ありがとうねぇ」


 さまざまな形や大きさの商品が置かれた店舗の中。主に置かれているのは、青や赤、黄色などといった色とりどりの液体の入ったビン、回復や体調不良などを治療する効果のある液状の薬の入ったアイテムだ。

 店内にはハーブのような香りが漂っており、ポーション作成で疲れた身体に薬効が染み渡るように感じる。


 カウンター向こうで、先ほど売却したポーションをしまい込んだおばあちゃんは、にこにこと笑顔を浮かべながら私に小さな布袋を手渡してくる。

 このお店を経営している薬師さんで、年齢は70歳くらいでしょうか?


 今度ポーションを売りに来たとき、さりげなーく年齢をきいてみようかなぁ……女性に年齢の話題はタブーかな……?


「こちらこそ、いつも買取ありがとうございます! とても助かっています」


 ジャラジャラと硬貨のぶつかり合う音のする布袋を、何時も通り腰のポーチに大事にしまいこんだ私は、ペコリと頭をさげてお礼を言います。


 手に入ったお金で、取りあえず次回作る薬の材料でも購入しようかと思案していると、カウンター向こうにある椅子に腰を落ち着けたおばあちゃんが、ゆったりと声をかけてきます。


「そういえばぁ……お嬢ちゃんがうちに来てくれるようになって、もう一週間くらいねぇ」

「一週間……もうそんなになりますか?」


 そんな風にのんびりと会話しながら、材料の棚にある薬草に手を伸ばす。


 購入するつもりの商品の数を確認しながら、このゲームを始めたきっかけに思いを馳せるのでした。


 


「来週新しいVRMMOがスタートするらしいぜ?」

「え? 本当かよ!?」

「そんな話きいたことねぇぞ? 新VRゲーム、しかもMMOならネットでも話題になるだろうよ?」

「それが話によるとVRMMOの開発? から招待メールがくるらしい」

「なんだか胡散臭い話だなぁそれ」

「いや、実際俺の知り合いのHMDにメールが届いてたって話でさぁー」


 学校の昼休み、手作りというのもおこがましい割合で冷凍食品比率が絶大なお弁当(お米は自分で炊きました)をさっさと胃袋に詰め込んだ私は、のんびりと読書をしていたのですが。


 少しはなれた場所で、数人の男子クラスメートが会話している内容が耳に飛び込んできました。


 VRゲームというのは分かりますが、MMOというのは何の略なのでしょうか。


 私も最近までVRゲームをプレイしていたことがあったので、彼らの会話内容がちょっと気に掛かります。視線は手元の小説に固定しつつ、彼らの会話に聞き耳を立てることにしました。


「ええ? ってことは先着でも抽選でもなく、ゲーム開発からの指名待ちってことかよ?」

「その知り合いはガンシュー系のVRゲームプレイしてたらしいんだけどさ、そのゲームが先月サービス終了しちゃって意気消沈してたわけだ」

「先月終わったっつったら、マルチプルガンあたりか?」

「そそ、んで面白いVRゲーム発売しないかーなんてため息しつつ愚痴ってたんだが、その一週間後くらいにさっき言った新しいVRMMOの運営からメールが届いたんだってさ」

「それってあれじゃね? マルチの続編的な位置付けのゲームの招待メールだったとか」

「いや、それがさ、そうでもないらしいんだよ」


 その後、色々と聞いたことのない単語を交えた会話が続きましたが、要約&予想すると。


 その1 ※一月前にサービス終了したゲームが多数存在する。


 その2 ※その後、期間は前後するものの、終了したゲームをプレイしていたプレイヤーに新しいVRMMOの運営からメールが届く


 その3 ※終了したゲームをプレイしていた人なら必ずメールが来る、という訳では無いらしい(何かしらの抽選?)


 その4 ※添付されたアドレスに飛ぶと、先行でログインIDとパスワードを設定できる


 といった感じの内容のようです。


 さて、この会話の中で出ている『一ヶ月前にサービス終了したゲーム』という単語。

 私がプレイしていたVRゲームも、悲しいことに一ヶ月前にサービスを終了しているのです。


 しかしながら、私のゲームの機械にメールが届いたことなど一度もありません。

 ええ、一度もありません。


 ゲーム機でメールをやり取りするようなVRゲーム友達なんて、一人たりとも居ませんから。

 いえ、寂しくないですよ? 本当ですよ?


 私とVRゲームとの出会いは、確か高校受験が終わった頃だったでしょうか。


 大分久しぶりに、私の住んでいるマンションの部屋に吶喊して来たお父さんが、テレビのCMなどで見かけたことのある、ゲームの機械を小脇に抱えて持ってきたと思ったら。


 それを勢い良くズボっと私の頭にかぶせてきたのです。


 いやいや、お父様父上様。よく見てください私いまお茶碗もってご飯食べてますよね? これ食事できないですよね? とジトーっとした目でお茶碗をテーブルに置いて、テンション高めのおとうさんに視線を向けると。


 ちょっとしり込みした様子で後ずさった後に、それはもう怒る気も起きないようなまぶしい笑顔で、こうのたまったのです。


 お得意さんから頂いたからこのHMD、お前にプレゼントしよう! とか何とかドヤ顔で。


 あ、うちのお父さんは単身赴任のプロで(いやな称号ですね) あっちこっちへと軽いフットワークで住む所を変更するほど忙しいらしいのです。私が一人暮らしになった理由は主にソレですね、うん。


 ああ、母は私が小さい頃に病気で亡くなっております。寂しい食事もなれたものです、ええ。


 VRゲームなんて最初はまったくこれっぽっちも興味がなかったのですが。

 父が帰った後、ものは試しと装着して最初から内部に入っていたVRゲームを起動してみたのです。


 それが私と【ふわもこ! メェと生活のんびり育成ファーム】との出会いでした(VRゲームの名前ですよ?)


 このとてもファンシーな名前のVRゲームは、学校の校庭くらいの敷地にある箱庭のなかで動物を育てたり、果物やお菓子などを食べてのんびりと過ごす! というのがコンセプトのゆるゆるーなゲームでした。


 話によるとVRの処理領域? を味覚と触覚という2種類のパラメーターに対して鋭敏に反応するように特化されたゲームだ! とお父さんはこれまたドヤ顔で、私に後日説明してくれました。


 正直、ちょっとウザかったです。

 いえ、お父さんのことは尊敬していますし嫌いとかではありません……本当ですよ?


 お話を戻しましょうか。


 つまり、略して【ふわもこファーム】では『メェ』と呼ばれるヤギ? ヒツジ? と首を傾げたくなるような外見の、ふわっとしてもこっとした生き物をファジーかつアグレッシブ(?)に育成するゲームなのです。


 まぁその【ふわもこファーム】の売りのひとつである『メェ』は、描画の領域の確保? が少なめだ! とかいう話で、絵本のなかにでてくるような線の少ない、非常に簡潔な見た目のモコモコっとした綿毛のような生き物(VRですが)でした。


 しかしそんな見た目とは裏腹に、さわり心地は最高なのです。


 そう、触覚に力を入れていると豪語しているのは伊達ではなかったということなのです。


 ふわふわのもこもこは正義なのです。


 その素晴らしいふわもこっぷりに一発でやられてしまった私は、一年半という長い間、空いている時間を見てはログインする生活をしていたのでした。


 ゲーム性もある程度気合が入っており、ちゃんと餌を与えたりブラシでお世話をしてあげると、それはもうモコモコと『メェ』は成長してくれたのです。


 最大2メートルくらいのサイズまで。でかい。


 そして、このVRゲームに私がはまってしまったもう一つの理由は、事前にデータとして小説などの内容をスキャンしておくと、VRゲーム内で読書をしたり、なんと学校の教科書データを読み込めば勉強だってできる。そんな機能があったのです。


 そんなこんなで、もこもこの肌触りで大人しい『メェ』に背中を預けてソファーのかわりにしつつ、VR内部でVRお茶とVRお菓子や自作した畑でとれたVR果物などをかじり、VR小説を読むのが日課となっておりました。


 いくら飲食しても、VR内なのでカロリーの心配がないのがグッドです。経費は電気代。


 流石に触覚の他に味覚にもこだわっている! と豪語するだけあり、ちゃーんと果物やお菓子の甘みを口の中に感じることが出来るようになっていました。まぁ味だけでしたが。

 お茶も味だけで香りはなかったのです。嗅覚も頑張ってほしかった。残念。


 香りがなくて味だけだと、やっぱり違和感を感じてしまう今日この頃なのです。


 そんな【ふわもこファーム】ですが……前述の通り。

 悲しい事に約一ヶ月前にサービス終了のアナウンスが。


 そう、そだてに育てた2メートルの『メェ』との蜜月の日々も先月末で終わってしまったのです。


 おっと説明が長くなってしまいました。


 つまり、先ほどの要約&予想のその4から推察するにですね。

 もしかしたら、数日のうちに私にも初のメールが届くのではないか。とそう考えたのです。


 そして。その考えは早々に現実のものとなるのでした。

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[良い点] メェとの別れで泣いた(´;ω;`)
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