6.ここは何処
目が覚めると、白い天井。
(あの香りは、一瞬で気を失うように仕向ける薬。)
シマッタ!!リュカは飛び起きた。
「く、くらくらする。」
思ったより疲労している。眩暈が収まるまで目をつむって、そして、そーっと開ける。
「ココハドコデスカ~。」
またもや気が遠くなりそうだ。
部屋はリュカの部屋が三つほど入りそうな広さで、リュカの寝ていたベッドもリュカのベッドが二つは入る。いや入れないけど。
ベッドの他は、何も置いてない机と、壁に立て掛けた弓と剣が辛うじて見えた。部屋の内装は飾り気ない、というか余計な物が何も無い。ベッドが置いてあるのが部屋の奥まった所なので、視界は悪い。
「ロランさんに誘拐されたのでは?」
「人聞きの悪い。」
ベッドから見えない位置の壁から声。ひょいと、ロランがそこから顔を出す。
「ぅわあぁー!」
声は認識してたのに、顔を出したロランさんとノエが重なって、叫んでしまう。
「リュカ!?」
逃げようと焦って、ベッドから転げ落ちる。
「・・・い、痛ぁ~。」
情けない声がでる。
ロランは落ちたリュカを助け起こしてくれる。
「君はいつもそうだな。」
呆れたような顔をしている。
ヒドイ。忘れてませんよ。気を失わせたこと。今もワザと隠れていたでしょう?
恨めし気に、じろりと睨むリュカ。
ロランはちょっと笑う。笑うところじゃないよね。
「まだふらふらしてる。」
ひょいとロランに抱っこされて、リュカは固まった。ぼふっと顔が沸騰したように赤くなる。
ロランさんの方は何でもない事のようにリュカをベッドの上にもどすと、よしよしと犬にするみたいに頭を撫でた。
リュカががっくりうなだれる。
ベッドに座らせたリュカをロランが質問攻めにしたのだ。どのくらいあそこに居てどんな働きをしたか、あの男とはどんな知り合いか。名前以外の家族構成。これまでの事。もろもろ。
「尋問ですか?」
「まあ。そうなる。」
「家に帰りたい。」
「無理だな。」
簡単に言うので、どうして!と叫んでしまう。
「言っただろう。使用人宅は捜査対象だ。」
「た、ったった、三か月ちょっとですよ?!」
ロランさんは、ぽす、とベッドの端に腰かけた。顎に手を当て、考える仕草。
「三か月か。ラジェルもそれなら許してくれるかな?」
ラジェルて誰?捕まる前提なの?あ!その前に。
「ロランさんって一体何なんですか!」
今更である。
「ああ。」
ロランは少し考えて、「騎士。」と答えた。リュカが渋いものでも食べたような納得のいかない顔をした。彼女に自分の素性を知られるのはまだ早い。
しかし、そのお蔭でリュカは口を聞いてくれなくなってしまった。当然だな。
そう思ったから、この彼女を連れ込んだ(保護した)屋敷での彼女の立場だけは解って貰う事にした。
1.リュカはロランの家(屋敷)に保護されていると届けるつもりなので、安全が確認されるまで、この家から出ようとしない事。
2.とにかく極力この部屋から出ない事。食事はここに運んでくる。屋敷の中は自由に歩いていいが、詮索しない事。使用人に話しかけない事。
3.捕縛後の査問が終わるまで、リュカの部屋には帰れない。必要な物はこちらで揃え、どうしてもいる物はロランの使用人が取りに行く。
4.新しい仕事はロランが探す。
どう見ても、監禁みたいな文言だが、最後のはリュカが無職になったじゃないか、と涙目で訴えたので付け足された。リュカはホッとしたようだった。
リュカはもう一言も喋るまいと口をへの字に結んでいたが、ロランがあんまりにも「親御は?」と聞くので「一人暮らしで親は別の国で働いてる。」と言った。
ロランの驚いた顔が忘れられない。可哀想な子を見る眼だった。
ロランは閉じ込めたも同然のリュカを気の毒に思う。そんな自分が偽善者のように感じた。あんな小さな子供が親元を離れて一人ぐらしか。とため息をつく。
この国では貴族間の女子の結婚年齢が政治的な思惑含め早い為に、成人は女子十二歳・男子十五歳になっている。民間ではそうでもない。だから成人同様働き結婚する王国の民の子供は、政治的な意味ではなく、貧しいからだ。
リュカは十二歳ぐらいだろうか。歳を偽っている可能性もある。無理やり腕に押し込めた雨の夜。肉付きの悪い小さな身体が震えていた。可哀想な事をした。
ロランはリュカの年齢を激しく誤解している。




