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2016年/短編まとめ

歪んでいようと愛は愛

作者: 文崎 美生

「ジンクス」


口の中でチョコレートを転がしながら、回転椅子の背もたれに寄り掛かっている彼女――(サク)は、ぼんやりとした様子で呟く。

きっと独り言だろうけれど、何の話か、視線を向けてしまう。


なになに?と無邪気な声を上げるのはソファーの上で正座をしていたMIO(ミオ)

くるり、体の方向を変えて、ソファーの背もたれに上半身を乗せて身を乗り出す。

その横で本を読んでいたオミは、僅かに眉を寄せただけで何も言わない。


「んふふ。バレンタイン及びにチョコレートのジンクスだよ」


気味の悪い笑い方をしながら、回転椅子を回してこちらに体を向ける作は、結い上げたポニーテイルを揺らしながらチョコレートのラッピングをゴミ箱に投げ入れる。

本日はバレンタインデーということもあり、いつもより校内は浮き足立ち、甘い匂いが広がっていた。


別段、私達以外に親しい友人がいるわけでもない作ですら、紙袋一つがいっぱいになる程度にはチョコレートを貰っている。

斯く言う私達もそれなりだが、やはり一番多いとなると唯一と男でもあるオミだ。


「チョコレートに髪とか血とか入れて、片思いの相手に食べさせると両思いになる」


僅かに乗せていた笑みを消し去り、抑揚のない声で吐き出された言葉に、オミが本を閉じる。

MIOの笑顔がなくなり、口を開いたまま動かなくなる。

何となく、ろくでもないことを言う気がしていた私は、小さく溜息を吐き出して珈琲を啜った。


固まっているMIOを見ながら、新しいチョコレートへと手を伸ばして、そのラッピングを解いていく作。

悪気があるのかないのか……確実に前者だろう。

性格が悪いと言うよりは、空気が読めないと言うか、自分のペースを貫き過ぎなのだ。


「作ちゃん、食べるの止めよう」


ガシッ、と作の腕を掴んだのは、ソファーの背もたれを飛び越えて、作の目の前に立ったMIOだ。

目の痛くなるような赤く長い髪が揺れる。

こちらからは顔が見えないけれど、たまにしか見せないレベルの真顔をしていることだろう。


流石にオミも首だけそちらを向けて、成り行きを見守っている。

ただ、その閉じた本は栞が挟められていないことを私は知っていて、そっちの方が気になるのだけれど……珈琲の入ったマグカップ片手に見守るしかない。


「やだなぁ。ボクは女の子、相手も女の子。同性愛を否定する訳じゃないけれど、まぁ、有り得ないよ」


「有り得ないは有り得ないよ」


珍しいくらい真面目な声を出すMIOだけれど、そういうのが作のツボにハマっているのが分からないのか。

私からしたら、作がMIOをからかって遊んでいるようにしか見えない。

きっとオミもだろう。


「うん。そうだねぇ。有り得ないは有り得ない、ボクも良く使うからなぁ。そうだよねぇ、世の中に百パーセントってないし、それに近付こうとするのは難しいもんねぇ」


ふわりふわり、確信を持たせるような言葉を投げずに、うんうんと頷きながら吐き出す作。

酷く間延びした声が、薄い膜を纏っているようで欠伸が漏れた。


哲学的な面倒な話になると、作は決まって間延びした話し方をする。

それにどういう意図があるのか、私にはまだ分からないが、無意識にそうなっているのではないかとも思う。

あくまでも、推測の域を出ないが。


「お前ら、面倒だからその話止めろ」


カチャリ、音を立ててソーサーの上にカップを置いた瞬間に、重なるようにオミが二人に声を掛けた。

横目で二人を見ながら目を細めて威嚇する姿に、私は軽く肩を竦める。

甘ったるいチョコレートの匂いがする一室で、何故にこんなにも殺伐とした空気が出せるのか。


「でもさ、ボク達はずーっと四人だよ。きっと、この中にジンクスみたいなのが混ざってても、そんなものじゃ、変えられない関係があるんだよ」


「……気持ち悪い」


「知ってる?オミくん。キモイ、よりも、正式な気持ち悪い、気色悪いの方が、人は傷付きやすいんだよ」


ふふ、小さく笑う作は楽しそうだ。

今日は随分笑う、良く笑うな。

そんなことを考えながら見詰めていると、ゆっくりと作の手を離したMIOが、しょんぼりと俯いてソファーに戻る。


ごめんね、小さな謝罪を耳にして、作がボクもごめんね、と言った。

口の中にチョコレートを放り込みながら言っても、誠意の欠片もないのだが。

オミもそれを見届けてから、読書に戻る。

閉じたページを見て、眉を潜めて、溜息を吐き出して、ぱらぱら探し出す元のページ。


「ボク、三人のなら食べれるけどなぁ」


ころり、赤い舌の上で転がされたトリュフ。

私と視線が合った瞬間に、今日一番の笑顔を見せて、二人が振り返ってその笑顔を見る。


あぁ、そうだね、私達も同じだろうよ。

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