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心/PRESENT  作者: りおぽん
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CHAPTER6:二つの不幸と一つの幸福

(あー、また遅刻しちゃうよ〜)


彩音は走って学校に向かっていた。ふと公園の時計を見ると、針は8時15分の少し前を刺していた。もし8時15分以内に学校に入らなければ、日直日誌にチェックを入れられて先生に叱られてしまう。


生徒たちの前で立たされて怒鳴られるのは恥ずかしいことである。

しかもその様子を面白がる生徒もいるため、余計にだ。


彩音は公園を右に、そのまま直進し、少し先に見える学校に目をやった。

門を閉めようと手を触れる教頭先生の姿が見える。


そしてすぐそこまで来たとき、教頭先生も彩音の姿に気付いたようだった。


「急ぎなさい! まったく・・・」


彩音は学校に入る直前で立ち止まり、息を整える。

もう閉門ギリギリであった。


「すいません・・・」


ポツリと呟く。教頭は不機嫌そうにフンと鼻を鳴らして「早くいきなさい」と言った。



彩音は急いで教室に向かった。階段を駆け上がり、渡り廊下を右に曲がる。

そしてすぐ右手に見えるのが、教室だ。


彩音は教室の扉を開けた。もう既に生徒は席に着き、朝学習プリントを始めていた。

生徒たちの視線が扉に立つ彩音に向けられ、彩音は少し恥ずかしい気持ちになった。


そしてゆっくりと歩きながら、配膳台にある朝学習プリントを取ろうとした。

だが、手を差し伸べる寸前で彼女の動きが止まった。


「あれ、英語・・・?」


小声で独り言。何か嫌な予感がして、前の黒板に目を移す。


{今日の朝学習は数学となっていましたが、急遽変更で英語になりました}


(えー!! そんなのってないよ・・・。あー、もう居残り決定だ・・・)


彩音は心の中で叫び、そしてガクっと落ち込んでため息をついた。


(遅刻に居残りって、今日は災難続きだなぁ・・・)


意気消沈中の彩音は、英語の朝学習プリントを持って席に向かった。


その途中、裕子の呆れた顔が目に入る。

裕子はそのまま通り過ぎようとする彩音の服を掴んで思い切り引っ張った。

急に強い力に引かれたせいか、彩音はびっくりして転びそうになった。


「わわっ! ちょっと何!?」


彩音は裕子のすぐ顔の近くに寄せられた。


裕子はニヤニヤ笑いながら、彩音の耳元でささやく。


「今日お前の楽しみにしてたことあんだろ? なのに遅刻したくらいで何しょげてんだよ?」


(楽しみにしてたこと? え、なんだっけ?)


彩音は不可解な顔をする。

裕子はガクリと首を落とし、ため息をついてから呟いた。


「あのなぁ!」


裕子はなんで忘れてんだよと言いたげに目を閉じ、

はき捨てるように教えてあげた。


「文化祭の劇の役決めだろ!? ほら、{総合}の時間楽しみだーとか言ってたじゃないか」


彩音はまだ不可解な顔をする。そして少し頭の中を探った後、あっと呟いて思い出した。


「あ、あー!! 思い出したよ。そうだったね。裕子、ありがと!」


少しでもやる気の出ることがあれば気分が戻る。

裕子は彩音にピンとウインクした後、引っ張っていた服を放した。


彩音が机に着いたことを確認した裕子は、

隣の席の男子に{朝学習プリントの答えをよこせ}と言った。



彩音はもう手遅れだとわかっていたが、とりあえずプリントを始めることにした。

筆箱を取り出し、お気に入りのシャーペンを手にしてプリントに向かう。


一問目、{貴方は犬を何匹飼っていますか、を英語に直しなさい}


(・・・ちょ、一問目からハードすぎじゃない!?)


まず「飼う」の単語とか習った?というところから疑問だ。


彩音はしばらくプリントとにらみ合っていたが、

すぐに頭の中がごちゃごちゃしてきてばっと顔を上げた。


(わからないに決まってるよ!)


そう思って前のほうを見つめた。カキカキという音が聞こえる。

気持ち良さそうに丸付けをする姿が見える。


(みんな凄いよ・・・こんなの普通できないよ)


普通ならできる。彩音自身が極端に苦手なだけだった。


彩音はクラスを目で一周させた。そのとき、彼女の目がある一点で留まった。


(あ、来てくれたんだ)


前のほうの席、黒板の正面の位置に涼の姿があった。

彼はいつもどおり黙々と英語のプリントをしている。

それを見た彩音は、少し安心したように微笑んだ。


約束とかじゃなく親に言われてただ仕方なく来たのかもしれない。

そうも彩音は思ったが、だけど来てくれただけでもよかった。



やがて松倉先生が教室に入ってきた。

「ではそろそろ朝学プリントを提出してください」


もちろん、丸付けまで終わった人限定。

自分は丸付けどころか一問目さえも終わっていない状態だ。

だから、もし提出すれば、逆に怒られるだろう。


ゾロゾロと提出に向かう生徒の中で、彩音だけが席についたままだった。

特に注目を浴びたわけでもなかったが、それはそれで恥ずかしい。


「二日連続英語は辛かったんじゃないですか?

 もしもこれが二日連続国語ならみんな大喜びでしたのにね!」


松倉の担当教科は国語。だから調子に乗ったふうにわざとこんなことを言う。


生徒たちは{どっちも嫌だ}とか、{朝学自体ダルイ}などと叫んだ。

そんなとき松倉は、やれやれといった顔をし、また普通の顔に戻ってから

何事もなかったようにこう言うのだ。


「はいではきりーつ!」


なんだよと呟き、よろよろと不機嫌そうに立ち上がる生徒たちに、

松倉はニっと白い歯を見せた後、叫ぶように言った。


「ではこのまま体育館に移動!」


この言葉に、生徒たちは一気に態度を変え、不思議そうな顔をした。


「はっ!? どうしてですか、先生」

「一時間目国語ですよ? みんなの大好き・・・な!」

「また急遽変更!? しかも、体育館ってさ、ウチ体操服もってきてないんですけどー」


生徒たちは口々に言う。松倉はワッハッハと変な笑いをして答えた。


「じゃお前らは文化祭でたくないんだな! あーそうか。

 せっかく一時間目に劇の役決めようってことで{総合}の時間もってきてあげたのに。

 こりゃ中止だな、よかったよかった。安心して授業できるよ!」


生徒たちはまず驚いた。もともと劇の役決めは5,6時間目の予定だったからだ。

本当に1時間目からそれをやるなら嬉しいが、

またこいつの悪ふざけじゃないのか、とも思い、生徒たちは互いに顔を見合わせた。


しかしすぐに期待の笑みを見せると、先生に視線を戻してまた口々に言い出した。


「マジですか!? 先生!」

「さっそく行きましょうよ! 体育館でしょ!? じゃ体育館シューズが要りますね!」

「って・・先生なんで戻っているんですか!?」


「え、だってみんな国語がしたいんだろ? ちゃんと抜き打ち用のテストは用意してあるぞ」


松倉のくだらないトークを無視して生徒たちは体育館シューズを手にした。

そして私語を発しながら早々と教室を出て行ってしまった。


「まったく愉快なやつらだなぁ! あっはっは」



彩音はポツンとその場に突っ立っていた。

何故かため息をつく。そのとき、背後から近づくあの・・気配に気がついた。


「バレたか! チッ・・・彩音! 元気取り戻したろ? 早くいくよ!」


裕子だ。というか、もう背後から来る友達は全て裕子だと思ってもよい。


「ねえ、なんで1時間目になったのかな?」


彩音は振り向いて聞く。裕子は面倒くさそうに答えた。


「ああ、5,6時間目、体育館使えないんだとさ。

 んで、1,2時間目は担任の担当の教科だから、特別にそこにいれたらしいよ」


早口言葉のようにサササと答えた裕子は、彩音の手首をつかんで続けて言った。


「もうみんな行ったよ! はやくいこ!」





題名が謎です(汗)このまま劇の役決めまでいっちゃったらかなり長引きそうなので、ここでいったん区切ることにしました!

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