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心/PRESENT  作者: りおぽん
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CHAPTER5:約束

彩音は地図通りに道を進み、とうとう涼の家の前まで来ていた。


涼の家は、いかにも2007年と感じさせるような白くて綺麗な家だった。

二階建てで、屋根は赤色。外には小さな庭があり、周りは塀に囲まれている。

そして石彫りの表札には、確かに『川村』と書かれていた。


彩音は表札の下のチャイムを押した。


「ピーンポーン ピーンポーン」


チャイムの前に立ちながら、じっと返答を待っていた。

すると、パチっという音と共にそこから女性の声が聞こえてきた。


「・・・・はい?」


とても可愛らしい声だ。


「あ、桜平岡中学校の者です」


彩音はチャイムに顔を近づけて言った。


「あ、はーい」


そこで一度、通信が切れたような音がした。

しばらく待っていると、家の玄関扉が開き、中から涼の母親と思われる人が出てきた。


その女性は、まだ二十歳くらいではないかと思われるほど若く綺麗な人で、

スタイルもよく、身長も彩音より少し高いくらいだった。


女性は青い門を開け、彩音に向き直った。


「わざわざ涼のために、ありがとうございます」


チャイムで聞いたときより、さらに可愛い声であった。


「あ、いえ。・・・あの、これ連絡便りです。涼くんに、渡しておいてください」


彩音はそう言いながら連絡便りを取り出し、女性の手元に差し出した。


しかし、その女性は連絡便りを見つめただけで、それを受け取ろうとはしなかった。

そして優しい目を彩音に移し、少し寂しげな表情でこう言った。


「それは、直接あなたの手から涼に渡してくれないかしら。

 そのほうがあの子も喜ぶと思うの・・・」


彩音は一瞬紙切れに目をやった。どうしようかと迷い、下を向く。

そして、小さく頷いた後、顔を上げて返答した。


「・・・はい。わかりました」


彩音は門をくぐり、家の中へと迎え入れられていった。

玄関で靴を脱ぎ、床に上がったところで女性は言う。


「そこの階段を上って右側の扉が、涼の部屋よ」


女性は階段を指差した。彩音は縦に一回頷く。

そして、女性に軽く会釈をしたあと、その階段をゆっくりと上っていった。


トントンと階段はよく響いた。階段のカーブを曲がって、二階に上がった。


(えっと、右側の部屋・・・)


二階に上がってすぐ右側には、『涼』と彫ってある板が掛けられた扉があった。

彩音はその扉を軽くノックし、取っ手をグっと倒した。



部屋は六畳くらいの広さで、床にはカーペット、奥には勉強机にベッド、

すぐ前にはテレビが置かれていた。

全体的に整理された部屋で、ガチャガチャと物が転がっているわけでもなく、綺麗だった。


彩音は、壁にもたれて座る涼に、小さな声で挨拶をした。


「こんにちわ。川村君」


涼は少し驚いた様子だった。彩音を見上げて呟く。


「君は・・・」


まさかクラスメイトがやってくるとは思わなかったのだろう。

涼は口をぽっかりあけて彼女を見つめていた。


彩音はそんな涼に、手に持っていたお便りを彼に差し出した。

涼はスッと手を差し伸べてそれを受け取る。

そしてお便りと彩音を交互に見たあと、いつもの無愛想さを取り戻した。


「風邪って聞いたんだけど、大丈夫?」


彩音は心配そうに聞く。涼は目をそらして答えた。


「ああ、もう治ったよ」


「そっか、それはよかった!」


彩音はニコっと微笑んでそう言い、涼の前に腰をおろした。


涼は、全く興味ないと言わんばかりにお便りを未開封のまま机の上に置いた。

そして彩音に向き直り、なんだか不思議そうな目で彼女を見つめた。


「白石は、学校楽しい?」


突然で、しかも意外な質問だった。彩音は一瞬「え」と声を漏らす。

しかし、驚いた以上に、白石と呼んでくれたことが嬉しかった。


「うん、楽しいよ。面白い人とかいっぱいいるし」


彩音は笑顔で答えた。今の学校生活に不満はない。そんな表情だった。


「そうか・・・。俺は正直、楽しくない」


「え・・・」


「授業もつまらないし、友達もいないしな」


そのときの彼は、とても哀しげな表情をしていた。

苦しいとか、寂しいとかではなく、ただ哀しげな。


そんな様子を見ていると、こっちまで哀しくなってしまうようだった。

彼が言うと、それが特に強く感じられる。


彩音は少し胸が重くなり、暗い表情をする涼を呼びかけるように言った。



「あたしはやっぱり、川村君に友達って思われていないのかな・・・」



涼は顔を上げた。そのとき、二人の目がピタっと合ったような気がする。

しかしすぐに涼は視線を落として、彩音の言葉に対する答えを返した。


「さあな・・・」


低く、今にも消えてしまいそうな声だった。



彩音はショックを受けた。でも、まだ関係もそれほど深くないし、仕方ないとも思った。


彩音にとって、クラスの中で、学級がつまらないと感じている生徒がいるというのは

何よりも寂しいことのように感じられた。

そして、きっといつか皆が楽しいといえるようにしようと強く思った。

だってそうしないと、本当のクラスとは言えないでしょ。


「川村君、明日は学校来るよね?」


彩音は立ち上がった。涼は彼女を見つめる。


「ああ、多分な」


相変わらずの無愛想な返事だった。


彩音は優しさに溢れた微笑みを浮かべて言った。


「絶対来て! 約束。・・・待ってるから」



涼は自分の顔が赤くなるのを感じた。

そして咄嗟に目をそらす。しかし、既に彩音は振り向いていた。


彩音は扉を出て、帰っていってしまった。



(約束、か・・・)


一人残された涼の中で、何かが少しずつ変わり始めていた・・・。




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