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心/PRESENT  作者: りおぽん
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CHAPTER3:連絡便り(前編)

翌日、彩音はいつもより十分早く学校に行き、教室の扉を開けた。


教室には、まだ十人ほどの生徒しかいなくて、

いつになく静かな雰囲気だった。人気ひとけが少ないため、

透き通った涼しい空気が流れ込んでおり、息を吸うととても気持ちいい感じがした。


少ない生徒たちの中の、サッカー少年と人気の、山本隆一が叫ぶように言った。


「白石じゃん! おはよう!!」


「おはよう」


彩音は微笑んで返事をした。山本は身を乗り出して聞く。


「今日はなんでこんな早いの!?」


彩音は答えた。


「目覚めがよかったからかな」


そして彼の横を通り過ぎ、彩音はかばんを机に掛けた。


(さて、朝学習しないと。今日は英語だから、急がないとね!)


朝学習とは朝の約十五分間、配膳台に置かれている{朝学習プリント}というものを取って、

問題を解いていくという勉強の時間のことである。

もちろん、全て終わらせ丸付けをしたあと、教卓の上に提出しなければならない。

そして終わっていなかったもの、また、不十分な終わり方をしているものは

居残り&やり直しという罰が待っているのである。


今日、彩音が学校に早く来たのもそのためだ。本日の朝学習は英語プリントである。

英語が苦手な彩音にとって、十五分でそれを終わらせるのは厳しいものがあった。


(えっと・・・「彼」はHeだから動詞は・・・あれ、どっちだっけ?)


彼女は一問目から手が止まった。三単現なんて何がなんだかさっぱりわからない。

英語プリントを凝視する彩音を見て、山本は優しく言った。


「それは三単現の否定文だからdoes'ntだよ。ちなみに動詞は原型のまま」


あ、そっかと呟いた彩音は、間違いを消して正しい答えを書き直した。


「山本君は頭良いんだね」


彩音は顔を上げて言った。山本は少し赤くなり、ひょいっと目をそらす。


(うわぁマジ可愛い! あんな目で見られたら直視できないって!)


「あ、いや。ってか、それ基本問題だからさ。・・・白石は英語苦手なのか?」


その質問に、少し苦笑いを浮かべた。


「あはは・・・バレちゃったか。あたし英語ほんとダメで・・・」


(おお!! これは彩音ちゃんと親睦を深めるチャンスだよな!? よし、ここは・・・)


「じゃさ、俺でよかったらいつでも聞いてくれよ。英語は得意だからさ!」


山本は頭をかきながら言った。さりげに自信気な表情を見せながら。


「え、ほんと!? でも、あたしわからないことだらけだから、いっぱい聞いちゃうかも?」


「ああ、質問ならいくらでも受け付けるぜ!」


(やったーーーー!!!! ついに俺にも青春きたーー!! てか、あの顔やばいって!)


心の中で大絶叫の山本は、上機嫌で自分の席に戻った。

その様子は、近くから見てもよくわかるくらいだった。



彩音は続いて二問目に取り掛かった。


(あ〜これもわからないよ〜。えっと、Whatの形だから・・・)


相変わらず苦戦中であった。



朝学習時間が終わるまでには、なんとか丸付けまで終わらせることができ、

無事に提出することができた。そして安心のため息をついた後、心の中でこう呟いた。


(はぁ、朝から疲れた)


担任の松倉先生は入ってくるなり山本の異変に気付いてこう呟いた。


「おい、山本! やけに機嫌良さそうじゃないか! なんか嬉しいことでもあったのか?」


「はい・・すっごく!」


こういう一見何の変哲もないトークでも、生徒たちの前でやると

何故か笑えるものである。


彩音は一時間目{数学}の教科書を取り出しながら、担任の話を聞いていた。


「えーと、今日の欠席は、千倉ちくらさんと、川村君か。

 二人とも連絡はまだだなぁ・・・」


彩音はピクっと一瞬反応した。千倉はともかく、涼には思い当たる節があったからだ。


(川村君、今日休みなんだ・・・。昨日頭おさえてたし、やっぱりそれが原因なのかな)


担任は特に何も話すこともなく、トントンと書類を整理した後、

早々と教室を去っていった。


まるで交代するかのように、ほぼ同時に数学の川岸先生が入ってきた。


「はい、ではまず、挨拶しましょーかー!」


彼女の特徴は会話中、異様に「はい」という言葉が多いこと。

ある日生徒が回数を数えてみた結果、五十分間で七十回も「はい」と言っていたらしい。


何気ないことなので大して気にも留めていなかったが、

実際それだけの回数を口にしていると聞くと、改めて凄いと思わされる。


生徒たちは、日直にしたがっていつもの挨拶を済ませたあと、

遅くも数学の教科書を取り出し始めた。


「はい、では今日の授業は何かと言いますとー、

 今日は新しい範囲の{一次関数}というところをやっていきたいと思いまーす」


先生は{一次関数}という部分を特に強調して言った。


(一次関数か・・・。なんか難しそうなタイトルだなぁ・・・)


「では教科書の百二ページを開いてくださーい!」



その後先生は、はいを連発しながら授業を進めていった。

ちょうど[a]が傾きで[b]が切片という説明を終えたくらいに、

授業終了のチャイムが鳴り響いた。


「えー、みなさん、今月は中学に入って初めての文化祭がありますね!

 そして残念なことに、その一週間後に中間テストがありまーす。

 行事やテストなどで忙しいこととは思いますが、頑張って乗り切ってくださーい。

 はい、では終わりまーす」


(そういえば、今月は文化祭があるんだったんだ・・・)


彩音はそう考えながら終わりの礼をした。



この桜平岡中学校は、文化祭は一年生から三年生まで劇をする。

それも各学年の生徒が考えた、オリジナルストーリーである。

文化祭は十月の下旬にあり、今はまだ上旬で、劇の役さえもまだ決まっていない状態だった。

既に劇の台本はできあがっているため、おそらく金曜日の{総合}の授業で役決めの授業があるだろうと思われる。


また、劇が終われば各クラブによる催しがあり、

劇が終わった後から夕方まで遊び尽くすということである。


毎日勉強やら何やらで刺激がないぶん、彩音にとってはとても楽しみな行事なのだ。





Q&A 山本って、ほんとに英語得意なの?


回答:五教科の中では最も得意とのことです。

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