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心/PRESENT  作者: りおぽん
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CHAPTER2:虚ろな瞳

4時間目も終え、昼食の時間になった。

彩音は弁当を取り出し、今日は誰と一緒に食べようかと思った。


クラスの生徒たちは分散し、仲の良い子と昼食を楽しんだ。

その中で、一人で食べている涼と、細くて大きい眼鏡の笠原かさはら知恵が目に入った。


知恵は物知りで頭も良いが、少しヒステリックな女子ということで

友達といえる人はそう多くない。

しかも、彼女のヒステリーをケラケラとあざ笑う者も現れ始め、

それ以来彼女は人間不信となってしまったのである。


しかし、この日は彼女に聞きたいことがあった。

彩音の目は彼女で留まり、少しの間じっと考えた。


そのとき、彩音は背中をバンと押されびっくりした。


「彩音っちー! 弁当一緒に食べよっ!」


この陽気な声は、早苗さなえだ。


彩音は振り向いた。


「ごめん。今日はちょっと無理かも」


申し訳なさそうに言う。早苗はニコっと笑って「わかった」と呟いた。


そして彩音はピンクの弁当箱を持って知恵の机に近づいた。


「ねえ、知恵。今日一緒に食べない?」


彩音は既に弁当のごはんを食べ始めている知恵の、顔が見える位置にしゃがんで言った。

知恵は少しびっくりして不思議そうに彩音の目を見つめた後、ぶつぶつとこう言った。


「本当は一緒に食べたいわけじゃないんでしょ? 私に何か用?」


とても尖った口調だった。彩音は一瞬戸惑った後、正直に本当のことを言った。


「ええ、実は、ちょっと気になった子がいて・・・。

 その人について知ってることを教えてほしいんだ」


「ふ〜ん、やっぱりね。でも、プライバシーに関わることは教えられないよ」


知恵は得意げに言った。彩音はこくんと頷く。


「それで、誰のことを知りたいの?」


「川村君のこと」


彩音は周囲を警戒しながらささやくように言った。

しかし、知恵は少し困ったような顔をする。

しばらく考えこんだ後、彼女は箸を置いて呟いた。


「彼のことは私もあまり知らない。家庭環境も、性格もね。強いていえば謎の子かしら」


その言葉を聞いて、彩音は残念そうに俯いた。

しかし、すぐに顔を上げる。


「少しでも知っていることがあったら教えて!」


知恵は箸を握るようにして持った。


「そうね・・・」


そして弁当のおかずをかき混ぜる。肘をついて、その手を頬に当てた。


「とても目が怖いときがある。まるで、魂が抜けてしまったかのような・・・」


顔を上げて、付け加えるように言った。


「たまにだけどね」


そしてまた顔を弁当に戻し、タマゴ焼きをグサっと刺してから口にはこぶ。


(魂が抜けてしまったような目か・・・)


彩音は自分の弁当を見つめた。

それを見た知恵は、気に入らなかったのか、そっぽを向いて言った。


「結局、それが聞きたかっただけなんでしょ。食べたいなんてウソついて。

 もう用が済んだんだったら、他の子と食べてきなさいよ」


そう言いながらも彼女は、寂しさを我慢しているようだった。


彩音は彼女の机の上に弁当箱を乗せて、その包みを開け始めた。


「ううん、せっかくなんだし、一緒に食べよう」


そして、ふたを開けて箸を持った。

彩音は、知恵の目をまじまじと見つめて、確認するように付け加えた。


「ね!」



そして二人は色々話をしながら、昼食をともにした。

話しながらわかったことなのだが、彼女はとても我慢していたそうだ。

無口になれば自分のヒステリーで笑う者もいない。

そう考えた彼女は、猫を被ったように話すことをやめたのだという。


だから、少なくとも彩音と過ごしたその一瞬の時間は、

彼女にとって和らぎの与えられた時間だったろう。




昼食を終えた彩音は、弁当をかばんの中に片付け、図書室に向かうことにした。


図書室は、今いる新館とは逆の、旧館の三階端にある。

新館は旧館と向かい合って建っており、その間には中庭があるのだ。

だから彼女はいったん中庭に出て、旧館の非常階段から三階に上ることにした。


右手には以前から借りていた{赤髪の少年の学園物語}という

小さな本を持ち、左手にはえんぴつを一本持っていた。


非常階段を抜けた先の廊下の奥、そこに図書室がある。

彼女はゆっくりと図書室へ向かった。


図書室の扉を開けた。カウンターでは、厚生委員の人たちが

本の処理や貸し出しを行っていた。

すぐそばにある縦長の机には読書を楽しむ男女が座っており、

また、窓際で立ち読みをする人もいた。


彩音はまず、借りた本を返すことにした。

カウンターで待ち受ける太田真由美先輩の前に立ち、本を差し出した。


「先輩、この本すっごく面白かったです。すぐに読み終わっちゃいました!」


嬉しそうに言う彩音に、真由美は本を回収しながら微笑んだ。


「そう、それはよかった。もし、もっとそういう系統の本を読みたいっていうなら、

 そっちの{感動}っていうところの本を探せば面白いのはたくさん出てくると思うわ」


殆ど片手間で話す真由美に本を渡した後、彩音は言った。


「ありがとうございます、先輩。ちょっと見てきますね」


軽く会釈をした彩音は、{感動}という看板が掲げられた本棚の通路に入っていった。

彩音は自分の気に入りそうな題名の本を探しながら通路を歩いていると、

前方で本を片手に真剣そうに読む男の子の姿に気がついた。


「あれ、川村君」


彩音は声をかけた。しかし、涼は返事をしない。


「川村君もこういうの好きなんだ」


彩音は涼に近づいて言った。そのとき、初めて涼は彩音のほうを向いた。


「君、さっきもいたね。確か、白石さんだっけ?」


(名前、覚えててくれたんだ)


こんな時期に覚えられるのは普通恥ずかしいことなのだが、何故か嬉しく感じられた。


「で、俺に何か用?」


本当に淡々と、無愛想な物言いであった。


「え、あ、いや、たまたま見掛けたから、声かけてみただけ」


彩音は答えた。


涼はまた視線を本に戻すと、何事もなかったかのように読み始めた。


彩音もそれ以上はなすことはないと思い、涼の隣で何か良い本はないかと探し始める。


そんなとき、ふと彼女の目を見つめた涼が、いぶかしげに呟いた。


「君、やっぱり壁があるよ」


「え?」


彩音は何かと思い、涼のほうを見た。



涼は、さきほど話しかけたときの目をしていなかった。

彼の目は、だんだんと色を失ってきて、

黒かった瞳が、まるで意識が遠のいていくかのような灰色の瞳になる。

やがて彼の目は、虚ろとした、放心状態になってしまったかのような目になった。


『魂の抜けたような・・・』


彩音は咄嗟に知恵の言葉を思い出した。

そしてだんだん怖くなってきて、後ずさりした。


「うっ!」


そのとき、涼は頭をおさえて苦しんだ。

すぐにその場にしゃがみこむ。


彩音は少しびっくりしたが、すぐに彼のそばにつき、彼の名前を呼んだ。


「川村君! ねえ!」


彩音は半ば混乱状態で、涼を支えるように叫んだ。

しかし、涼は大丈夫だと言いたげに立ち上がり、彩音にこう言い返した。


「なんでもない。忘れろ」


そして、急ぐように本を棚に戻し、早々とその場を立ち去っていった。



なんとか名前を覚えてもらえた程度、って感じですね

あと、彩音の純粋な優しさにちょっぴり感動・・・(笑


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