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心/PRESENT  作者: りおぽん
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THE FINAL:心/PRESENT

涼の動きが一瞬止まった。でも、すぐ我にかえってこういう。


「じゃ……これ……」


涼は手袋を彩音に手渡そうとした。しかし―――



―――違う



また誰かの声。周りを見渡しても、誰かがいる気配もない。


(誰なんだよさっきから!)



―――違う



ゆっくりゆっくり、プレゼントが彩音の手に近づいていく。



―――違う



冷え込んだ風が吹き抜ける。髪がユラユラ揺れた。


この一瞬、涼はその消えそうな声と闘っていた。



(誰なんだよお前は……)


―――違う


(何が違うんだよ! 意味わかんねーって!)


―――違う


(うるさいんだよ! 同じことばっかり言いやがって)


―――違う


(話しかけてくんな!!)



耳に響く声。涼は震えながら手袋を前に差し出した。


しかし、声は止まない。



(なんなんだよ……いったい)


―――違う


(何が違うっていうんだ?)


―――違う


(お前はどこから話しかけてきてるんだよ!)


―――違う


(なぁ……おい!)


―――違うだろ


(……!)




その瞬間、涼の身体の震えが止まった。


「……っ!」


突然何が起こったか理解できなかった。

手袋は彩音の手には行き渡らず、空高く舞い上がっていた。


涼は手を振り上げていた。顔はうつむいている。暗くて、寂しくて、でも、強気だ。


「違う……俺がお前に渡したいものは……」


身体中が熱い。誰かを許せないときに髪の毛が逆立ち、感情が湧き上がってくるような、そんな感じ。歯はガチガチと震え、身体はシーンと肌寒く、肩には力が入っていた。


何故だろう。何故こんなに、懐かしい感じがするんだ。

胸がひんやりとした、この懐かしさ。

こんな経験、初めてのはずなのに、でも何故か、懐かしい……



そして、涼は気付かぬ間に彩音を抱きしめていた。

暖かくて、優しくて、懐かしい。

思いやりがあって、いつも気を遣ってくれて、時には怒ってくれた、

そんな彼女の心が、涼の胸に接触した。


「モノとか、そんなものじゃないんだ。俺がお前に渡したいものは……」



―――好き。



その言葉なんだ。その、たった一言なんだ。

ありがとうのほうが相応しいかもしれない。

ありがとうのほうが今の自分に似合っているかもしれない。


でも違う。俺がお前に渡したいプレゼントは、

モノでもなく、ラブレターでもなく、告白のメールでもなく、ありがとうでもなく、

何よりも短い言葉で、何よりも身近な言葉で、何よりも大きい言葉。


好き。



涼は、彩音に突き放されると思った。

突然こんなことをして、平気な女なんていない。


でも、そうではなかった。

彩音は、抱きしめる涼を、抱き返してくれていた。


彩音の優しい心が、涼の心にできた穴を塞いでくれる。

閉ざされた心を、ゆっくりと開いていってくれる。


痛みが引いていく。


心が温かい。



「あれ……泣いているの?」


彩音は涼を見て聞いた。言われるまで気付かなかったが、涼の頬には涙が零れ落ちていた。


「あ……ほんとだ……なんでだろうな」


涼はクスっと笑った。涙声だった。


ずっとこらえてきた、ずっと心に溜めていた、溢れるほどの涙が、一気に零れ落ちていった。


そして不思議なことに、その涙は止まる様子がなかった。


寂しくもなく、哀しくもなく、ただ嬉しいだけなのに、涙が止まらない。


まるで彩音の心の優しさが、涼の切ない思いを奪い去ってしまったかのようだった。








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