CHAPTER22:緊張の対面
夜になった。
空には月が昇り、星たちが煌々と輝いている。
家の中、電話の受話器を持ち、電話番号を押している一人の少年がいた。
「えっと……白石の電話番号はっと……」
電話帳を見ながら、彩音の家に繋がる番号を押した。ただそれだけのことなのにとても緊張する。
涼は受話器を耳に当てた。プルルという音が鳴っている。それが三、四回続いた後、パチっという音と共に、女の人の声が聞こえてきた。
「はい、もしもし?」
どうやら彩音ではないらしい。
「あ、川村という者ですけど。彩音さんいませんか……?」
少し焦ったように涼はたずねる。
「あ、はいはーい」
涼はしばらく受話器を耳に当て待っていた。だんだんと緊張が高まっていく。
そして、彩音の声がした瞬間、びっくりして叫んでしまった。
「は、はい!」
でももっとびっくりしたのは彩音のほうだったかもしれない。
「え、どうしたの!?」
なんだか心配そうに聞く。涼はなんとかそれをごまかした。
「あ、いや、ボーっとしててさ、急に話しかけられてびっくりしたよ」
そういうと、涼は一瞬受話器から耳を離して、ふうっと息をつく。
「えっと、急に呼び出してごめんな」
涼は落ち着いて謝った。
「ううん、ちょうど暇だったから。それで、何か用?」
涼はいつもと同じ調子に戻って呟いた。
「ああ、今からちょっと会えないかなって……」
結構すんなり言えた。やっぱり電話だと間接的で安心できるのか。
「あ、うん。いいよ」
優しい声。涼は満面の笑みを浮かべて言った。
「え、じゃ、学校前の公園に今から来て!」
「わかった」
「じゃ!」
涼は受話器を置いた。なんだか胸が躍っている。とても嬉しい。
でも、それ以上に緊張し、心臓が鼓動していた。
涼は朝方購入した手袋を持って、さっそく出かける準備をした。
「涼、どこに行くの?」
由紀姉さんが扉から顔を出し、たずねた。しかし、涼はぶっきらぼうな返事をし、
殆ど相手にしないで玄関を飛び出した。
「急いでるなんて、珍しいわね」
涼は走って公園へと向かった。気温は寒い。ふっと白い息が吐き出される。
空には月と星たちが集会をしており、いつも以上に綺麗に見えた。
涼の手にはしっかりとピンクの手袋が握られていた。
(急がなきゃ)
手袋を見つめて言う。やっぱり、こういうときは男が先に行って待っているべきだろう。
ここから公園はけっこうの距離がある。だから、涼は走っていった。
やがて学校を横切り、公園の前へと出た。この時間の公園は、騒ぐ子供たちの姿や群れて何かをする中学生たちがいないため、不気味なほどに静まり返っていた。
涼はふうっと白い息を吐き、公園のベンチに腰を下ろした。
「寒いな……まだ10月だったっけ……」
空を見上げてそう言う。震える身体をさすった。
涼は彩音が来るまで、片時も手袋を手放さなかった。せっかくの誕生日プレゼントなんだから、綺麗なままで渡したかった。
やがて公園の前に自転車が止まった。そのものはそこで自転車を降り、ベンチに座る涼に近づいた。
「遅くなってごめんね」
全然遅くは無かった。むしろ、速いくらい。
彩音はひざにダメージの入ったジーンズを着て、上半身には白いショールを羽織っていた。
とても可愛らしい服装で、その姿を見た瞬間ドキっとさせられてしまった。
「あ、いや。俺も今来たとこだよ」
涼は立ち上がった。そして、彩音と向き直る。
まじまじと見つめてくる彩音に、目を合わせられなかった。
「えっと……その……」
やはり直接会って言うのは勇気が要る。でも、まずはこの言葉から言わねば。
「誕生日……おめでとう」
遠くのほうを見遣りながら、さりげなく言った。
彩音はニコっと笑ってありがとうと言う。
「あの……それで、これ……」
涼は手に持っていた可愛らしい手袋を見せた。
そして、彩音の顔をチラっと見る。
「これ……お前への誕生日プレ――――」
――――違う。
「え?」
今度は確かに、誰かの声が聞こえた。
「……?」
「あ、いや、ごめんごめん。これ、誕生日プレゼントだ」
涼は両手で手袋を持ち、大事そうにそれを見つめる。しかし―――
―――違う
「っ……?」




