CHAPTER20:知恵への頼み
―――翌日、涼は普通に学校に来た。
文化祭は三日続き。よって本日は二年生劇から開会する。
(あー、めんどくせえな……)
そう思いながら体育館に入る。
正直、文化祭自体はやはり全く楽しくない。
他の生徒たちはきっと授業がなくて幸せだろうけど。
涼は体育館に入ってまず、舞台の前を歩く彩音の姿が目に入った。
でも、向こうはこちらに気付いていないらしい。
(まぁこの距離だもんな。仕方ねえか)
ていうか会えばまた緊張してしまうかもしれない。
あー、やっぱりあのときちゃんと告白しとくべきだったか。
そう思いながらぼーっと突っ立っていると、
何か後ろから強烈なものに押されたような気がした。
「っ!」
「久しぶり」
(あっ……笠原……?)
再度確認しておこう。笠原とは、知恵のことだ。
「な、なんだよ。いきなり……」
そういえばこいつは入学してからまあまあ喋ってるヤツだよなぁ……。
彩音よりは消極的だけど。
「いえ、ただ昨日のデートは楽しかったか聞きにきただけ」
(……はっ?)
「え、ちょ、なんで俺とあや……」
「あや……? よく聞こえなかったわ。もう一度言ってくれないかしら」
危ない。思わず彩音と言ってしまうところだった。
「白石といたってこと知ってんだよ?」
「私の情報網をナメないでほしいわね」
ただ一緒にいたところを見掛けただけだったが。
涼はため息をついた。はぁ……そういえば、こいつどうでもいいこと調べるのスキだったっけ。
「いや、まぁ途中で別れたよ。ってか、デートじゃない」
涼は訂正した。知恵はじろじろと涼を見ている。
(ったく、なんだよこいつ……)
「ふーん、結構イイカンジだったんじゃない?」
「べ、別に」
(まさかアレ見られたか……? だとしたら最悪だな)
「てかよ、そんなことのためにいちいち喋りかけてこないでくれよ」
結論。うっとうしい。
そんなことで俺をわざとらしく問い詰めて楽しいか?
「彩音だったらバリバリOKするのにね」
真面目キャラが{バリバリ}とか言うとなんだか強調しているように思える。
「黙ってくれ。つーか、話しかけてくるな」
涼はそういうと、クルっと振り返って立ち去ろうとした。
(あいつはいっつもあんな情報ばっかだよな……もっと役に立つ……?って、あれ)
涼は立ち止まった。
(そういえば、あいつ、クラスのヤツの誕生日くらい余裕でチェックしてるよな!)
そしてまた振り向く。そして知恵に近づき、今度はこっちから話しかけた。
「あのさ、笠原。お前、クラスメイトの誕生日知ってるよな?」
「黙ってくれ。つーか、話しかけてくるな」
即座に言い返された。しかも、さっき涼が言った言葉で。
(こいつ……やりにくい……)
知恵はさらに付け加えた。
「てかよ、そんなことのためにいちいち喋りかけてこないでくれよ」
(しかもなんでそんなくだらない言葉ばっかり覚えてるんだよ)
「真面目に頼むよ」
「ふふ、わかった。で、なに?」
知恵はいつもの辛辣な知恵に戻った。調子の変化が激しすぎる。
だが、涼は少し安心したようだった。
「白石の誕生日教えてくれないか?」
「えー誰のって?」
(はっ? なんだこいつ……)
「だから白石の!」
てかこいつ、こんな性格してたっけ。
俺が知ってる限り、こいつは真面目で無頓着で辛辣で冷静なはずなんだけど。
「まぁいいけどね。ただし……条件があるわ」
知恵のテンションの変化にはとうていついていけそうにない。
からかっていると思ったら真面目に戻るし、なんか疲れるな……。
「{俺の大好きな彩音の誕生日を教えてください}って言えば教えてあげる」
「はっ!?」
「当然よ。ただで個人情報教えるわけにはいかないわ」
知恵はにやにやと笑っていた。
涼はムっとする。
「ってか無理に決まってんだろ? そんなの冗談でも言えない」
「じゃぁ教えない」
「む……」
言いたくないけど、誕生日は知りたい。
こいつに聞かなきゃ、他の生徒には頼みにくいし、ましてや彩音に聞くなんて不可能だ。
「ちょ、ちょっと来い」
「はいはーい」
涼は人が多い体育館から離れ、グラウンドの端に向かった。もし言うとしても、体育館とかで言って他の生徒に聞かれていたら、本気で勘違いされるかもしれない。
それにしても、知恵の様子がおかしい。知恵はもっとおとなしくて、人間不信だったはず。涼と喋っていたころだって、涼と同じくらいに単発な発言しかしなかったし、こんな意地悪な女のようなことは決してしなかった。
やがて二人はグラウンドの隅、高いフェンスのそばにきた。
「さき言っとくけど、俺別にあいつのこと好きじゃないから」
そういっても、知恵はニヤニヤと笑っている。ほんとにやりにくい。
「なんでもいいけど、早く言いなさいよ」
涼はうつむいた。他人に言うにしてもさすがにこれは言いにくい。
「俺の……だいす――」
「なんて言ってるの? 全然聞こえないわ」
知恵はわざとらしく耳を近づけ、あたかも聞こえないようなフリをした。
「俺の大好きなあや――」
ここで声が詰まる。やはり言えない。いくら知恵が相手でも、そんなこと言えないよ。
というよりも、こんな冗談じみたことでスキだなんて言いたくない。
(知恵……わかってくれよ)
「なーにそんなに必死になってるの?」
気軽に聞いてくる知恵。涼は、もういいといわんばかりにその場に座り込んだ。
「やめてくれよ……」
ボソっと呟く。
「もういいだろ? お前だってもうわかってんだろ?」
「ええ。もちろん」
知恵は相変わらずニヤニヤと笑っていた。
「はぁ……わかったわ。からかってごめんなさい」
苦笑しながら言う。
涼は顔を上げた。
「彩音の誕生日は今週、明後日の土曜よ」
淡々とした言葉。涼は思わず声をあげた。
「……はぁ!? 明後日って、早すぎるだろ?」
「人間いつ生まれたって勝手でしょ?」
今週土曜……そんなすぐなのか……。
「わかった。笠原、ありがとな」
涼は苦笑いを浮かべて言った。
やっぱり、なんだかんだ言って知恵の性格はいつもと変わらない。
「どういたしまして」
次回、涼は誕生日プレゼントを買いにいきます。
ってか、途中で気付いたんだけど文体がおかしくなってきたかも;;




