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心/PRESENT  作者: りおぽん
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CHAPTER19:涼の告白

手を繋いでいる間が嬉しくて恥ずかしい。

涼は彩音に言われるままについていき、

まずはテニス部主催の「お化け屋敷」に入ることにした。


「これ……マジにやってるな……」


涼は飾りつけを見上げて呟いた。彩音も共感する。


お化け屋敷は窓も教室の中も全面真っ黒で、

扉の窓は特別に張り替えてもらったのか割れていた。

入り口あたりにくると、中から奇妙な叫び声が聞こえ、震える笑い声が聞こえる。


「俺は別にいいけど、お前大丈夫なの?」


涼は彩音に問うた。そもそも、涼にとって一番怖いものは人の死だから、

こんな子供だましは怖くない。それに比べて彩音は入る前からぶるぶると震え、

いかにも怖いと言いたげな格好をしていた。


「うん、平気」


無理につくって言う。でも、と躊躇った涼だったが、彩音はそれを促した。


「いこっ!」


(大丈夫なのか……こいつ)


そう思いながらも涼は彩音の後についていった。



しかし、いつの間にか涼が先頭で彩音が後からついてくるようになっていた。

やっぱり怖いのか、と思いながら涼はひたすら前へと進んだ。


そのとき、涼の足首になんだかヌルっとしたような細い糸のようなものが絡みついた。

しかしすぐに足首から離れ、どこかへ行ってしまった。

(ヘビの人形か? まあ手作りにしてはうまいな……)


「きゃああ!」


「っ!」


ヘビよりむしろ、彩音の叫び声に驚かされてしまった。


「おい、どうした……?」


「なんか……なんか……巻きついてきて」


なーんだ、さっきのヘビか。ったく、驚かすなよ。


涼は腰を抜かした彩音を引っ張り起こして言った。


「普通あんなの上から落ちてくるよ。肩くらい狙って落とされる」


そしてあははと笑う。しかし彩音はさらに驚いたようだった。


「上……上って……」


震えている。ていうか、ヘビとかお化けじゃないだろ?しかも人形だし。


今度は涼が手を引いて歩き出した。


(しっかし生徒主催にしては上手く出来すぎてるよなー……)


途中であった飛び交うコウモリとか、血を流した女の死体が突然倒れ掛かってくるとか、

まあなんともマジなお化け屋敷の仕掛けをしているみたいだ。


しかし、やはり教室を迷路にしただけ。お化け屋敷は数分で踏破することができた。


「大丈夫か? 白石」


「いあ……怖かった……」


涼は全く平気な顔をしている。しかし、彩音はもうぐったりしていた。

あまりに怖すぎて疲れてしまったらしい。


「怖いの苦手なら、行かなきゃよかったのに……」


涼は言った。


「うん……後悔した」


だろうな。身震いってのはあんまり気持ちのいいものではない。



二人は少し休憩することにし、学校の非常階段四階(行き止まり)の壁にもたれて座った。

そのときにはもう彩音も落ち着いていて、ため息をついていた。


「はぁ……怖かった。ちょっとリアルすぎだよね」


「ああ。かなり上手くできてたよなぁ……」


そこで苦笑。


しばらく沈黙が流れた。涼は空を見上げ、彩音は黙って下を向いている。


やがて彩音は涼を見つめ、思い出したように問い掛けた。


「そういえばさ」


「ん?」


「お墓参り、行かなくてよかったの?」


突然の質問に、涼ははっとした。そういえば、そんなのあったっけ……。


行かなくてよかったもなにも、もう行っても遅いしね。


「まあね。最初は行くつもりで準備までしてたんだけど、なんか……」


そこで一瞬言葉を詰まらせた。彩音は黙って聞いている。


「お前が昨日さ、必死で俺のこと探してたって聞いてさ、

 文化祭行かなきゃダメなんだって思ったんだよ」


これはウソ。もっと大切なことに気付いたから、文化祭に来たんだ。


「ふ〜ん」


彩音は優しい微笑みを浮かべる。

どことなく嬉しそうにも見えた。


「あたしはね」


「ん?」


涼は彩音を向いた。彩音はただじっと前を見ている。


「あたしはね、単純に川村君に来てほしかったんだ」


それはわかってる。きっと、気遣ってくれたんだろ?


「あたしさ、最後のシーンね、多分失敗すると思ってたんだ」


涼はいきなり何を言い出すんだろうと思った。


「はっ? どういうこと?」


ちょっと理解しがたい。あれほど上手く成功してたのに。


「調子悪かったんだ。演技も、練習のときより上手くいかなくて、

 このままじゃ最後はマズイと思ってたんだけど……」


そりゃ、本番は緊張するし、練習のときより調子悪いのは誰だってそうだろ?


「でもね……川村君に頑張れって言われて、すっごくやる気が出た」


「……?」


「なんかとたんに上手くいきそうって思うようになってさ……すごく不思議だった……」


そうか、だってお前、団結力の影響強いもんな……。


俺が欠けていたせいで、心配させちゃって悪かったよ。


「ごめん」


涼は呟いた。


最終的には成功したけど、やっぱりちょっとした不満も持ってるんじゃないかな……


しかし、彩音はそんなことを言いたいのではなかった。


そして、謝ってほしいわけでもなかった。


ただ、涼が無理をおして来てくれたことに対する感謝。


今涼に伝えたいのは、感謝の言葉。


「ううん、違うの」


「……え?」


「あたしね、川村君に感謝してる」


そしてまた、嬉しそうな微笑み。


「本当はお母さんのお墓参りの日を潰したことに罪悪感とか、感じるべきなんだけど」


そうか、そうなんだよな。


「それ以上にすっごく嬉しかった」


この、胸が熱くなるような感覚のおかげで、今日俺は学校に来ることができたんだよ。


「だから、ありがとう」


暖かさって凄いよな……。


「なぁ、白石」


今しか伝えられないような気がする。


「あの……その……」


自分の今感じている想いを。


「え?」


「えっと……俺さ」


俺はさ、きっとお前以上に感謝してるよ。


「その……なんつーか」


もしさ、お前と出会わなかったら、俺ずっとあのままだったと思う。


「俺……お前の……こと」


言える。言いたい。


しかし、言葉がのどで詰まる。言えない。恥ずかしすぎて、言葉が出ない。


涼は頬が急に熱くなるのを感じた。


そして、自分の顔が無意識に赤くなっていることに気付いた。


彩音は黙って聞いている。もうとっくに気付いているだろうけど、


あえて待ってくれているのだ。そこまで気遣ってくれているのに……言えないなんて。


「……っ」


やはり口に出せない。たった二文字の言葉を伝えるだけなのに、


こんなに勇気がいるなんて思いもしなかった。


「……はぁ」


思わずため息をついた。やっぱり、無理っぽい。


「悪い……忘れてくれ」


こんな言葉なら容易く言える。でも、一番言いたいことが一番言えない。


涼は彩音を置いて立ち去った。


そんな涼を、彩音はあえて追いかけようとはしなかった。


(わかってたけど……やっぱりそれは、ちゃんと伝えてほしい)


彩音は微笑みを浮かべていた。少し頬が赤くなる。







最近の歌にもこんなのありますよね。

「花の名」だったっけかな。

簡単なことなのに言えない。でも言えなくたってちゃんと伝わってる。

まさにその通りだと思います!


でも、やっぱり言われたほうが嬉しい……?のかな(笑

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