CHAPTER13:隠された過去(1)
女性と彩音は、声のするほうを見遣った。
そこには、とても寂しげな表情をした涼の姿があった。
「由紀姉さん・・・ちょっと席を外していただけますか」
とても丁寧な物言いだった。しかも、この女性に言っているようだった。
(どういうこと? この女の人は、涼のお母さんでしょ?)
彩音の頭の中は混乱していた。
(それに、明日は涼の母の命日って・・・)
ますます意味がわからない。
だったら、自分の目の前にいるこの女性は涼の母親じゃないってこと?
「・・・わかったわ」
女性はくるっと振り向いた。
そのとき一瞬だけ見せた、哀しげな表情が気になる。
涼は、その女性が家の中に入ったことを確認すると、
彩音に近づきながら消えそうな声で聞いた。
「白石・・・由紀姉さんに、母さんのこと、聞いたのか?」
どうやら彼女は由紀という名前らしい。
涼は彩音のそばまで来ると、真剣な眼差しで彼女を見つめた。
彩音は何故か悪い気がして、涼から目をそらして頷いた。
「そうか・・・。由紀姉さんは、母さんの妹なんだ」
涼はいつもの淡々とした口調を失い、深い悲しみの目をして呟いた。
そういえば、あの女性――由紀さんもそんなことを言っていたような気がする。
『ちょっと、姉さんのことを思い出しちゃって』
彩音は事情がだんだんとわかってきた。
でも、これは深く聞いちゃいけないことだと思った。
明日、涼は本当に用事で来れないということがわかった。
それ以上は何も聞くことは無い。聞いてはいけない。
「あの、川村君―――」
あたし、帰るね。そう言おうとしたが、涼はその言葉を遮った。
「なぁ白石」
空を見上げる。
「・・・」
彩音は返事をしなかった。
いや、できなかったのだ。
涼は何かしらの決心をした口調でこう言った。
「母さんのこと、聞いてくれるか?」
「え・・・」
彼の表情を見れば、それがきっと辛いことなのだと予想できる。
空を見上げ、悲しみに潤む目を隠そうとしていることも安易にわかる。
どうしよう・・・。聞いちゃいけないってわかっていても、断ることができない。
何故か、断ってはいけないような気がする。
「うん・・・」
聞いちゃいけないことが、聞かなくちゃいけないことに感じられるのは何故?
好奇心でもない。別に聞きたいわけでもない。
でも、彼を見ていると、どうしても断ることができそうになかった。
「俺の母さんは―――」
そして彼は、衝撃の過去を語り始めた。
僕は自分の全てを彼女に話した。
何故彼女に話そうと思ったか、そのときは全然わからなかった。
でも、今ならわかるような気がする。
僕はきっと、彼女に自分の事を知ってもらいたかったんだ・・・。




