CHAPTER10:初めての昼食
一週間と三日が経った。
月曜日。彩音は相変わらずギリギリの時刻で、教室の扉を開けた。
この一週間、彩音は劇の練習でいっぱいいっぱいであった。
授業中考えることといえば劇の演技のことばかりで、
とてもじゃないが勉強に集中できる状態ではなかった。
そのかいあって、今ではラストシーンを除いた全部のストーリーをこなすことができる。
しかし、問題はそのラストシーンだ。ヘイル役の山本と、
キスギリギリで照明を消していき、当たる寸前で終幕するというもの。
これは練習の段階からとても危ないものである。
下手をすればあんなことにもなりかねないからだ。
というか、一年生にこの劇の内容は不適切ではないのか、と思わされるときがある。
といっても先生に何の落ち度もないし、生徒がつくったオリジナルストーリーなのだから
こんなドラマチックな仕上がりになったのだと思う。
第一、ストーリーを知った上での立候補だったのだから、今更彩音に何も言う資格はないが。
「おはよう」
生徒たちは口々に言う。彩音は元気良く返事をした。
その中に、嬉しくも涼の姿があった。
涼は相変わらず無口だったが、だんだんと彩音に心を開いてきていた。
英語もたくさん教えてもらったし、読書についても色々話し合った。
それでもやはり大きな壁は取り除かれていないように思うが、
今はまともに話してくれるだけで十分嬉しかった。
「おはよう、川村君」
彩音は涼の前に立ち、殆ど頭の上から呟いた。
「ああ、おはよう」
無愛想だったが返事をしてくれる。彩音はそれだけで十分だった。
彩音はご機嫌で配膳台のプリントを取り、さっそくそれを始めていった。
―――昼食の時間。
涼は、いつものようにパンを取り出し、一人で昼食をとろうとしていた。
別に寂しくは無かった。一人なんて、何ヶ月も経てば慣れてくる。
最初は周りがうらやましく思ったりもしたが、今はもう平気だ。
自分の周りに、他を拒絶する壁をつくればいい。ただそれだけのことだったのに・・・。
「川村君、今日は一緒に食べよ!」
あいつがくる。あいつはいつも、自分の一人の時間を邪魔しようとする。
そして、あいつはとうとう自分の昼食の時間まで侵食しようとしていた。
「ああ、うん」
しかし断れない。断ろうとしても、口がきちんと働いてくれない。
だが、最近は彼女といる時間がまんざら嫌でもなくなっていた。
ううん、むしろ何よりも大切な時間のように感じられる。
なぜだかわからないが、自分の中で完全に彼女を受け入れるようになっていた。
(なんでだろうな・・・。こいつといると、何故か楽しい)
彼女と会うことだけが、学校での唯一の楽しみ。
彼女と共に話すときだけが、唯一心が落ち着く瞬間である。
彩音の綺麗な瞳が、涼の目を見つめる。
涼は、恥ずかしくなって無意識に目をそらした。
「川村君は、文化祭の劇で何やるんだっけ?」
彩音は無邪気に質問した。しかし、涼は一瞬ドキっとする。
「え、ああ、俺小道具だよ。だから劇には出演しない」
ウソをついた。だって、{当日休むから何もやらない}なんて言えるわけが無い。
「ふーん。じゃ、応援しててよね! こう見えても、けっこうきついんだよ?」
(なんとか誤魔化せたな・・・)
「ああ、確か、セリフ二百以上あるんだったよな」
涼は心の中でふうっとため息をついた。
しかし、彼女にウソをついたことは、たとえ仕方ないといえども胸が痛んだ。
その後は、殆ど文化祭のことで話が進んだ。
涼は上手くその場その場で作り話をし、なんとか昼食を終えることが出来た。
(危なかった・・・。ほんと、バレてたらショック受けるだろうな・・・)
でも、なんだかんだ言って、涼は嬉しかった。
そして、心の中で初めてこう呟いた。
(ありがとな)
これからどうなるんでしょうね・・・。
涼もだんだんと心を開いてきて、彩音を意識してき始めましたが、彩音は涼のことをどう思っているのでしょうか?・・・
まだ誰にもわからない状態です。ええ、私にも^^




