CHAPTER9:意識
涼はどの役にも付くことはなく、その二時間を終えた。
正直、文化祭なんて興味なかった。面倒くさい。つまらない。だるい。
当日も休もうと思っている。どうせ役はないんだ。休んだって迷惑にはならない。
今日も本当は学校なんて来るつもりはなかった。
あの女に、あんなことを言われてなければ・・・。
あの女はまだ会って数日しか経っていない。
なのにあんなに馴れ馴れしく、ほんと意味不明だ。
でも何故かうっとうしいとは思わない。むしろホっとする。
ああ、これが友達というものなのか。だったら早めに切り捨てたほうがいいかもな。
友達は昔、何十人といた。その中でたった一人だけ親友と呼べるやつがいた。
でも、俺と別れる数日前、交通事故で死んだよ。
それ以来友達なんて作る気はなくなった。どうせ、友情を刻んだ分だけ別れが悲しくなる。
そしてその都度、涙というものを流さなくちゃいけない。
だったら、最初から友達なんか作らなきゃいいってことだろ?
今は誰とも話す気なんてない。そっとしておいてくれればいい。
どうせ後二年ちょっとの付き合いだ。それが過ぎたらみんな泣く。
自分はその悲しみを味わなくて済むのだ。
だいたい学校に来ている意味ってなんだろう?
こうして一人でいると、その答えを見つけたくなる。
友情を分かち合う場とか、人間形成をする場だとかいうのは所詮キレイゴト。
だったら勉強の場?将来生きるための学歴を残す場?
ああ、少なくともそれが最も近い答えなんだろうと思うな。
次の授業は英語だ。涼の一番得意な教科。だけど、なんだかつまらない。
そう感じることが最近多くなってきていた。
多分、授業内容がワンパターンだからだろう。
挨拶をし、前回の単元の復習、そして本文を読む。ノートに写す。終わり。
毎回この流れだから疲れる。たまには何かすればいいのに。
「good morning everyone!」
内藤先生の挨拶が始まった。隣にはALTのエイレナがいる。
生徒たちは元気良く返事をした。涼は相変わらずのこと、全く口を開かない。
そして挨拶が終わった後、予定通り前回の単元の復習を始めた。
(ワンパターンすぎてつまらないなぁ・・・)
涼にとっては英語の復習なんてオマケの時間でよかった。
他の生徒に合わせていると、英語の授業なんて進むはずが無い。
「白石さん。答えてください」
白石彩音・・・。そういえばこの子、いつも当てられているような気がする。
「は・・はい。ええと・・・」
いつも答えられない。
そしてそのたびにまた先生が呆れたように言う。
「白石さん、貴方本当に勉強しているんですか?」
内藤先生は黒板をゴンゴンと叩きながら、続けて言った。
「この程度の範囲は、出来て当然ですよ。入試にもでます」
「はい・・。すみません」
周りの生徒はクスクスと笑う。いつもならどうでもいい笑いだ。
でも、今日はそれが何故か腹立たしく思えた。
涼は彩音のほうを見遣った。彩音は困ったようにうつむいている。
反省か、恥か、涼にはわかるはずがなかった。
英語の授業は相変わらず刺激の無い状態で終了した。
チャイムが鳴り、英語の挨拶を済ませ、休憩時間に入る。
(またつまらない休憩時間がはじまった)
涼は思った。でも、暇つぶしのスキルなら習得済みだ。
涼は{死ぬとき人は何を思うのか}という題名の本を手にとって読み始めた。
「川村君、何読んでるの?」
と、彩音の声。
(せっかく人が本を読もうと思っていたところを)
涼は本の題名を見せた。彩音はその場にしゃがんで、ぎこちない口調で題名を読んだ。
「死ぬとき人は何を思うのか?・・・変わった本読むんだね」
(なんか悪いか?)
彩音といると本を読む気がなくなってくる。
以前も図書室で邪魔をされたが、あのときも本に集中できなくなってしまった。
涼は本を片付けた。そして無愛想に言う。
「いつもいるけど、俺になんか用?」
そして彼女の目を見つめる。綺麗だ。とても澄んだ、とてもきらめいた・・・。
(やめよう)
涼は自分自身に言いかけた。また発作が出てしまうかもしれない。
「別に用はないけど・・。なんか喋ろうと思って」
彩音はニコっと笑った。
涼は彩音に言いたいことがたくさんあった。
そうやって話しかけてくるのやめてほしい、一人にさせてほしい、
相手にしないでほしい、余計な気を遣わないでほしい、
変な約束をしないでほしい、俺はお前の事を友達ともなんとも思っちゃいない。
でも、いざ彼女と向かうとその言葉が言えない。
彩音が傷ついてしまうのが怖い。
何故か自分の中で、考えとは別の意思が邪魔をし制限をかけてくる。
「ふーん、で、何喋るの?」
(なに話進めようとしてんだ俺は)
「そうね・・・」
彩音は視線を宙に泳がせて考えた。
「あ、川村君て英語得意だよね!?」
(なんでそんなこと知ってるんだよ?)
「ああ」
涼はなんとか自分を維持しようと意識した。
拒絶的な発言や、内気な発言をするといったことに意識をしているのではない。
これらの言葉は彼女に対して言うことはできないだろうから。
むしろ話につられて、一緒に楽しんでしまわないようにする意識だ。
「今日の昼休み教えてくれないかな? あたし英語全然ダメなの」
(さすがにそれはできないよ。悪いけど)
「え・・・」
でも、嫌と言えない。
「あ、うん。わかったよ」
(何をしているんだ俺は)
意味がわからない。なんで拒否できないんだろう?
涼は、嫌だと思う反面、嬉しいと思っている自分がいることに気付いていなかった。
ただひたすら自分を責めることしかできない。
「彩音っちー!」
そのとき、近くで何者かの声がした。
「一緒に遊ぼーよ!」
見たことはあるが、名前はわからなかった。
「うん、わかった」
彩音は返事をした。そして、涼に「じゃあね」と言い残して去っていってしまった。
(なんだよ・・・。なに残念そうにしてんだよ・・・俺は)
これはストーリーではなく文章的にマズかったかも、と思います。でも、なんか、書いちゃいました(汗)
この後、だんだんと二人の関係が深まっていく!?
次回、お楽しみください。




