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35/38

#35

黒い輪は消された。黒い子供のような姿のものは塵に(かえ)った。転がるものは完全に動きを止めている。霧状のものは燃やし尽くされて跡形も無い。工場の壁の内側には蜷局(とぐろ)を巻いたものが鎮座し、黒い柱状のものはあちこちに跳び回ってはいるが、それらも調伏されるのは時間の問題に思えた。余りに容易(たやす)く仲間たちが掃討されていく様を、膝から下が固定されてしまい動けない漆嘉遍(しっかへん)は、ただ呆然と眺めることしか出来なかった。

何故(なにゆえ)何故(なにゆえ)…」

独り言、というより声にもなってい思考だったが、聞き留めた昂美(あび)童子が笑い出した。

()うたであろう、()れが(げん)、そのままじゃ」

漆嘉遍(しっかへん)の思考に、直接(ささや)きかけてきた。漆嘉遍(しっかへん)は力なくつぶやいた。

「あれが、あの者が、人の()であると思っていたからこその()いです。人の()でないと知っておれば、食らうなどと、とても…」

「…()れ、どこまで(くる)うておる。あれが人の()以外に見えるのか?(やしな)い子と言うたろう。あれの生母は()()()で勝手に()きおって、あれはまだ生きておったから拾った、拾い子じゃ」

「なれば、何故(なにゆえ)貴殿の身を明かしてくれなかったのです。私が問うたときに教えて下さえすれば」

もはや懇願と言って良い口調だった。ただ、願ったとしてもどうしようもない。全ては既に過ぎ去っていた。昂美(あび)童子は呆れた様子で応じた。

阿呆(あほう)が。わざわざ人の()の振りをしておるのに、明かすか。それを抜かしても、()れが(けしか)けたとは言え、人の()の権力争いになっておるのに、関わることなぞ御免(ごめん)じゃ」

漆嘉遍(しっかへん)は更に言い(つの)ろうとしたが、昂美(あび)童子が遮った。

()れこそ、何故(なにゆえ)(ともがら)の変わり様をそれほど嘆くのじゃ」

心底不思議そうに尋ねられ、漆嘉遍(しっかへん)は反射的に怒鳴り上げた。

「仲間が、あのような、意思の通じないものなったのだぞ!何もかも忘れ去っている。私のことも、我らがどのように、御前(みさき)を務め、戦い、(まも)ったか、全て忘れておるのだぞ!哀しまない筈がなかろうが!」

「その果てに、人里にまで引き連れてきたのかえ?」

「そうさ。元いた場所では、皆、我らを討とうとする。人の()であれば容易に我らに手出しは出来ぬ。それに、元に戻す(ほう)があると言うなら、どこにだって(めぐ)り行く」

昂美(あび)童子は再度不思議そうにつぶやいた。

「分からぬなあ。(ともがら)は忘れたとて、()れは覚えておるのだろう?何故(なにゆえ)それで良しとせなんだ。さすればこのような場所で人の()に狩られることもなかったであろうに」

その狩りを命じたのは昂美(あび)童子自身である。己で命令しておいて、この言い様に、漆嘉遍(しっかへん)は怒りで身を震わせた。

()れは、()朋輩(ほうばい)が、たとえ()れを忘れようとも、少しでも長く、安寧に過ごしてくれれば良いと思うたがな。叶わなんだが」

漆嘉遍(しっかへん)の憤怒の情など毛ほども気にかけず、昂美(あび)童子は(ひと)()ちた。と、無感動に、つぶやいた。

()まいじゃ」

その言葉に、漆嘉遍(しっかへん)は工場内に注意を戻す。(まさ)に黒い柱状のものが討たれるところだった。蜷局(とぐろ)を巻いたものは既に消失していた。

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