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02◆勇者集結a

02◆勇者集結



 現在、人類は滅亡の危機に瀕している。


 サラウエー大陸に八つあった国のひとつ、天乃国(あまのくに)で行われた召喚実験の失敗がその引き金となった。


 異世界の生物を召喚するために創り出された『異界門』は、『深界生物』と呼ばれる屈強の化け物を呼び出すことには成功した。

 だが、兵器として扱われるハズだったそれは、人間の制御を受け付けず暴走。

 それを呼び出した者たちを最初の犠牲者とし、その数を拡大させた。


 その結果として、天乃国が滅びたのは自業自得というやつだろう。

 だが、事態はそれだけで終結しなかった。


 深界生物は、異界門を基点にこの世界への侵略をはじめたのだ。

 いや、侵略なんてそんな上等なものではない。

 やつら深界生物は、異界門を餌場への道であると認識し、この世界の人間を食らうためにやってきているのだ。


 さらに悪いことに、異界門から現れるのは深界生物だけではなかった。


 異世界から流入した空気は、大気を濁らせ空を薄く覆うことで太陽の力を弱めた。

 そのせいで、春を迎えても空気は冬のように冷えたままで、いままだ大地はロクな実りを与えようとはしない。


 このままでは、人類の未来は深界生物に食われて死ぬか、飢えて死ぬかのふたつにひとつだ。

 この窮地に対して、残された七つの国はそれまで繰り返していた争いを中断し、驚異の排除に全力を尽くすことを誓たのだった。


   ◇


 風呂と着替えをすませた俺は、月兎子つきとことともに会議室へと向かう。


 そこにはすでに他国の勇者たちが集まっているという。

 果たしてどんなメンツが集まっているのか。

 期待とわずかな緊張を胸に、両開きの扉を押し開ける。


 その瞬間に一筋の光が走った。

 俺は光の軌道を見切り、ソレを人差し指と中指で挟んでとめる。


 それは投げナイフだった。

 すると、茶化すようにヒューと口笛の音が聞こえた。


「意外とやるじゃん」

 入口から声のする方へ視線を移す。


 近年、他国の文化を取り入れた日乃国(ひのくに)の会議室中央には、大きな円卓が置かれている。

 そこに並べられた椅子の、扉に一番近い場所に脚を組んで座っていたのは褐色の肌をした大柄で筋肉質な女性だった。


 年のころは兄貴と同じ……二十代半ばくらいだろうか。クセのある赤毛を逆立てた女は、意味深げな笑いを浮かべている。


「まぁ、このくらいはな」

 ナイフを投げたのは犯人で間違いないだろうが、悪びれる様子はまるでない。


「たしか、火乃国かのくに火音ひおんさんだったよな」

 彼女は勇猛な火乃国の戦士たちの中でも、もっとも攻撃的な将軍だ。

 直接剣を交えたことはないが、その勇名は聞きおよんでいる。


「そうだよ。あんたは日神(にっしん)の弟だよな」

日輪(にちりん)だよ。これから仲間になるんだ、覚えておいてくれ」


 とりあえず、ナイフを防いだことで俺の査定は合格だろうか。

 そんなことを思いつつ、投げナイフを返そうとすると横から不機嫌な声が割ってはいった。


「なにをいい気になっておる」

 それは火音の右隣に座る青いサファイヤの瞳をもった幼子だった。

 腰の下まで伸びた髪は瞳と同じ輝きを持ち、いっさいのクセがない。

 妖精と見間違うほど儚げで美しく、背中に羽が生えていないのが不思議なくらいだ。


「キレイ……」

 俺の隣では月兎子もその姿に見とれている。

 だが、この場にいるということは、まさか彼女もどこかの国から選出された勇者なのだろうか。


「君は?」

「儂は水乃国みずのくに水仙すいせんじゃ」


 儚げな容姿とは裏腹な年寄りじみた名乗りに、俺と月兎子はおどろきを隠せない。


「水乃国ってことは、まさか君が大賢者スペシャル・セージか?」

「そう呼ぶ者もおるようじゃな」


「うそっ」

 水仙の応えに、月兎子が思わず声をあげる。


「嘘などではない」

「二代目とかじゃなくて?」

 否定の言を聞いてなお、月兎子は幼女に確認をせずにはいられない。


「賢者の名は周囲が勝手に呼びはじめたものだ。誰かから引き継いだ覚えはない」

「ってことは……」

 俺と月兎子は顔を見合わせる。


 大賢者の噂で有名なものがひとつある。

 水乃国の大賢者はすでに一〇〇年を生きる人外であると。


 一〇〇年というのは噂に尾びれがついただけかもしれないが、それにしてもこんなに幼い姿をした子が大賢者だとは。


「考えておることはわかるよ。正確なところは自分でも覚えておらんが、お主らの曾祖父よりは先の産まれておったろうな」

 これまで同じような説明を繰り返してきたのだろう、水仙はため息まじりで答える。


「ところで、さっき日輪くんに言った、いい気になるな、っていうのは?」

「まだ気づいておらんのか。そのナイフの柄を確認してみるのだな」

 水仙の指摘に、火音が「あちゃ」と、イタズラが見つかった子どものように笑う。


 言われるままにすると、ナイフの柄が通常より不自然に太く、そこから細い導線が伸びていることに気づく。


「これは……」

 俺に投げられたこのナイフは中に火薬を仕込んだ爆発式のものだったのだ。

 火は点けられてはいないが、もし点いたら俺が受け止めた瞬間に爆発していたのだろう。


 もちろん、火に気がつけば俺も受け止めたりはしなかったが、指摘されるまで細工に気がつかなかったのだ。

 注意力の不足と指摘されても仕方がない。


「能力はあるようじゃが判断が甘い。まだまだ経験不足のようじゃな」

 実際年齢はどうあれ、幼い姿の水仙に指摘されると複雑な気分だ。

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