01◆至高の剣士f
「ちょっとまて、日輪」
闘技場を去ろうとする俺を兄貴が呼び止める。
「なんだ?」
「これを持っていけ」
兄貴はマントの内側を虚数空間に繋げると、中から長い棒状の武器を引き出した。
それは見たことのない二叉の槍だった。魔法が込められているのだろう、漆黒に塗られた槍からはただならぬ雰囲気を感じる。
「これは?」
差し出された槍を受け取ると、手の平に吸い付くように馴染む。
「餞別だ」
「俺に?」
一応、刀剣類以外の武器も一通りは使える俺だが、剣状の武器の使用にこだわっている。めったなことで剣以外を手にすることはない。
そのことは兄貴はおろか、国中の人間が知っていることだ。なのに、どうして槍など渡すのだろうか。
「使わないならそれでもいい。だが、必要になったら躊躇わず使え」
「そんなに強いのか、これ?」
真面目な顔で言う兄貴に、槍のことをたずねる。
魔法の武器であることしか俺にはわからない。
だが、武器から感じられる魔力は火車の方が強いくらいで、それほど大した武器とは思えない。
「ああそうだ」
正邪を問わず万の武器を所有し使いこなす兄貴に、そこまで言わせるとはいったいどんな効果があるのだろうか。
隣では月兎子も槍をじっと凝視している。
だが、赤味を帯びた瞳には、らしくない脅えが含まれているような気がした。
「この槍は神威という。俺の知る中で最悪で最狂の武器だ」