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01◆至高の剣士c

 新たにとりだした刀は、火車のように魔法のかかったものではない。

 通常の長刀よりも二回りほど短い脇差しだ。

 同時に二本扱おうとも、これでは遠距離攻撃もできなければ、雷を防ぐこともできない。


「まだ諦めぬか」

「いいや諦めたさ、連続した遠距離攻撃でも、隙をみせても兄貴を誘い込むのは無理だ。

 だから……俺から飛び込んでやるぜ!」


 無事な足場を選んで駆け、兄貴との間合いを詰める。


 この剣で兄貴の大槌と打ち合いになればあっさりと折られるだろう。

 だが、この短く小回りの利く剣は俺の動きを阻害しない。


 兄貴の聖銀の鎧は恐ろしく頑丈だが、俺の剣技ならただの脇差しでも、それを断つことは可能だ。間合いにさえ入り込めればだが……。


 兄貴が間合いを詰めようとする俺に向かい雷をまとった大槌を振りあげる。

 振りおろされるタイミングを見計らい、俺は身体を射線上から右に外す。


 大槌から放たれた雷は、予め俺の逃げる先を予測したように曲がり追いかけてきた。


「こんなこともできるのか」

 髪を焦がしながらも、さらに身を沈め雷をやりすごす。


「さすが兄貴。まだまだ奥が深いぜ。だけど、連射まではできないだろっ」


 第三射が放たれるよりも先に、俺は懸命に兄貴の側へと詰め寄る。

 だが、俺が剣を振るうよりも先に、兄貴は武器を小ぶりの剣に持ち替えていた。


「それは破剣牙っ」

 兄貴の持ち出した武器に、俺は嫌な表情を作る。


 破剣牙は見た目は直刃の小剣だが、そこに触れた相手の剣を呪い、破壊するという魔法がかけられている。

 剣同士の刃が交っただけで折られてしまうのだから、通常の武器破壊武器よりも何倍もたちが悪い。


 間合いはこちらよりもさらに短いが、その分小回りが利き、防御に回られればやっかい極まりない。

 剣士にとって最も使われて欲しくない武器だ。


「あくまで、剣技比べはしてくんないのかよ」

 それでもかまわず、強引に踏み込みで斬りかかる。


 俺が右の刃を振るうと、兄貴は小さな動作で破剣牙を操り受けとめた。それだけであっさりと脇差しの刀身は砕かれる。

 すかさず俺は右手に残った柄を手放し、左の脇差しを振るう。兄貴は破剣牙をスライドさせるように動かし受け止めると、間髪入れず二本目も破壊した。


 だが、連撃はそれで終わろじゃない。


 自由な右手は、マント内に用意しておいた三本目の脇差しをすでに掴んでいる。

 右手に力を込め、抜刀と斬撃をひとつの動作でおこなう。


 鞘走りで加速した三撃目が兄貴を襲う。

 それでも破剣牙はその一撃を受け止め、脇差しを砕く。


 だが、ここまでくれば俺の手の内だ。


「勝機到来っ、無双連刃アンリミテッド・ウェイブ!」


 俺は折れた剣を手放すと、逆手に抜いた四本目の脇差しを振るう。

 当然その剣も折られるが、後手に押しやられた兄貴は防戦に回る以外、選択の余地はない。


 抜刀と斬撃と次弾準備を一体化させた連撃を、俺は絶えず繰り返す。


 右の脇差しが折られたら左の脇差し。左の脇差しが折れたら右の脇差しと、継ぎ目のない抜刀術。

 いかに兄貴といえどもこれを正面から突破する手段はない。


「うぉりゃうぉりゃうぉりゃうぉりゃうぉりゃうぉりゃ!!

 うぉりゃうぉりゃうぉりゃうぉりゃうぉりゃうぉりゃ!!

 うぉりゃうぉりゃうぉりゃうぉりゃうぉりゃうぉりゃ!!」


 振るえば振るうほど剣は砕かれ、あたりに破片を散らしていく。


 上段、中段、下段から中断と変化をつけ左右六方向からの絶え間ない反復攻撃を兄貴は防ぎ続ける。


 間違いなく劣勢に回っているのに、それでも隙をみせない。この胆力、四神の称号はやはり伊達じゃない。


 無理に反撃に回らないのは、俺の武器切れるのを狙っているのだろう。


 だが、しかし!

 九九本目の破片が飛ぶと、兄貴の頬をかすめる。


 目の下に血が流れ、兄貴の集中力がわずかに乱した。

 その瞬間、俺は抜刀術の矛先を破剣牙へと移す。その変化にはさしもの兄貴もついては来られない。


 交差する剣と剣。

 されど、俺の刃は破剣牙の腹を叩いた。


 いかに問答無用で相手の剣を破壊できようとも、刃同士が交わらなければ魔法は発動しないし、強度の劣る腹を叩かれれば折れもする。


 そして俺は至高の剣士。

 剣で剣を斬ることなど造作もない。


 破剣牙を斬り飛ばされた兄貴の表情が苦悶に歪む。

 戦闘中にそんな顔をするを初めて見た。

 俺はようやく兄貴の背に追いついたことを確信する。


 一〇〇本目の脇差しに手をかけると、次の瞬間には白銀に輝く鎧を引き裂いていた。


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