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01◆至高の剣士a

徐々に絶望に冒されるダークファンタジーですが、ふんわり楽しんでいただけたら幸いに思います。

01◆至高の剣士


 雲越しの陽射しが、木造の闘技台をうっすらと照らす。


 もうすぐ碁月ごがつになろうというのに、日乃国ひのくにの空気はいまだ冷たく桜の蕾もろくに膨らまないままでいる。

 このまま気温があがらずにいれば、春の実りはおろか夏の収穫までも見込めず、深刻な食糧問題に発展するのは間違いない。


「その前になんとかしなきゃな……」

 新調した武者鎧に身を包んだ俺――日輪(にちりん)は、空から視線を降ろすと舞台中央に目をやった。


 そこには二メルトルに近い巨体を、純白の聖銀(ミスリル)鎧で固めた厳めしい顔つきの男が立っている。


 極東にある日乃国ひのくににおいて馴染みの薄い、西洋式の鎧を身につけた男の名は日神にっしん

 サラウエー大陸において四神(ししん)と敬われる最強者のひとりだ。


 肩からさげたマントの内側を虚数空間につなげ、そこに収めた無尽蔵の武具を使いこなす究極の戦士。

 そして、無敗を誇る我が日乃国最強の男にして王だ。


 巨体から発せられる圧力プレッシャーが、対面する俺を押しつぶそうとする。


「兄貴、今日こそ無敗の看板をおろしてもらうぜ」

「おまえにこの俺を倒すことができるか?」


「ああ、やってやるぜ」

 年の離れた兄貴の低い声に、軽い口調で言い返す。


 常に自分の前を歩き続け、戦いの師でもある兄を、俺は今日この瞬間に超えなければならない。


 兄貴は俺の覚悟に満足そうにうなずくと、マントから純白の巨槍を引き抜く。


 それはかつてサラウエー大陸を破滅の淵へと追いやったという、紅き魔神を打ち破った伝説の神槍。

 数多の難敵を退けてきた愛武器を持ち出したということは、間違いなく本気だ。


 これから己が挑もうとする伝説の巨大さに身震いが抑えきれない。

 だが俺とて勝つためにきたんだ。剣を抜く前から、怖じ気づいてなどいられない。


 意識をマントに移すと、そこに収めた魔剣を抜く。

 ほぼ無限の物量を収められる虚数空間には、兄貴と同じように大量の武器を収めてある。

 ただし俺の方は刀剣類限定だ。


 柄を握りしめながらも、なんでもないように肩を回す。

 新調した武者鎧の具合はいい。防御力よりも軽さを重視した結果、動きを阻害されずに済んでいる。


「たしかに兄貴はサラウエー大陸でも最強の戦士だ。他の四神だって日乃国の日神には敵わないだろうぜ」


 世界を滅ぼすと予言された紅き魔神を打ち破り、隣接する強国の侵略から国を守り繁栄させた若き英雄王。

 長い日乃国の歴史を振り返っても、兄貴を超える戦士ってのはいないかもしれない。


「だが、こと剣技に関しちゃ俺の方が上だ。なんと言っても俺は至高の剣匠様だからな」


 火車かしゃと名付けられた魔剣を正面に構える。

 ゆるやかに反った刀身には赤味を帯びた白い波紋が薄い陽光を反射する。

 そこに魔力を込めると、赤い炎がゆらめき立つ。


究極の戦士アルティメット・ウェポンマスター至高の剣匠サプレマシィ・ソードマスターか。なかなかに面白そうだな」

「きっと面白くなんかないぜ、なんせオチは兄貴の敗北なんだからな」


 巨槍を構え微笑む兄貴を真似るよう、俺も微笑む。

 それだけで強くなれた気がした。


「とくとご覧あれ、だっ!」


 俺は踏み込むと同時に、火車が宿した炎を伸ばした。


 槍と剣との勝負では槍が圧倒的に有利。

 だがしかし、それは槍の間合いが剣よりも長いからだ。


 巨槍よりも伸びた炎が、相手の間合いを超えて襲いかかる。


 鎧と同じで、この日のために準備した火車の存在を兄貴は知らない。

 それでも冷静に炎を見極めると、その軌道から身をそらした。


 振り下ろされた炎が木造の舞台をたたき割り、破片に火を点ける。

 俺は被害を無視して、剣を横に凪いで兄貴を追うが、こんどは間合いの外まで逃げられてしまう。


「まだまだっ」


 俺は神槍の間合い外からの攻撃を執拗に繰り返す。

 神槍にどれだけの力が込められていても、その間合いに入らなければ恐れることはない。


 されど繰り返される炎撃は、髪の毛の一本を焦がすこともない。

 兄貴は冷静な回避を続けながらも、その目はしっかりと俺を捕らえていた。


 相手から余裕を奪えないでいることを、内心で歯ぎしりしながら攻撃を続ける。

 こちらの手筋を読ませないためにも、休んでいる余裕などないのだ。


 俺は大きく息を吸い込むと、両手で握った火車を頭上に掲げる。

「兄貴、死ぬなよっ」

 火車に最大限の魔力を込めると、炎が巨大化しその間合いを広げる。

 そして俺は、渾身の力でそれを振りおろす。


 炎撃は兄貴の身体を捕らえることなく、舞台を砕き一段と大きな穴を空けた。

 だが、予測通りだったのはそこまでだった。


 兄貴は隙だらけになった俺に詰め寄ることなく、広い間合いを保ったままこちらをみつめている。

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