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ちびっこわがまま女子高生 風間智美

トモのお兄さん、風間勇さんのおかげで僕は無事、命落とすことなくトモの家へと入ることが出来た。ちょっと大袈裟に言ったけど、何とか入ることはできた。

トモの家は……家という表現を使わせてもらっているが、そんなに大きくなく寧ろ小屋と言うほうが賢明かもしれない……小さかった。家もトモの身体のサイズと比例しているのだろうか?と考えたが口に出したら再び怒らせるだけなので、黙っていた。

しかし、一人で暮らすならこれ位の広さで申し分ないだろうが、家族が集まれば狭くてしょうがないと思うのだが。よっぽどお金が無いのだろうかこの家は。

そんなどうしようもないことを考えながら、僕はその家に入ったのだった。

「ただいま~」勇さん、「ただいまです~」トモ、「おじゃまします」僕、「おじゃましま~す」小鳥、「小さな家ですね」柚子の順で家に入る。

……僕の妹の柚子が失礼なことを言った気がするが、聞こえなかった振りをして無視することにした。

さわらぬ神に祟り無し、である。

入ってすぐ右手にトイレ、左手には洗面所とお風呂が見えた。

まっすぐ進むと(と言っても二、三歩先)畳の部屋、そして奥には台所があった。

それがトモの家の全てだった。

こんな狭い中で家族が暮らしていけるのだろうか?まるで一人暮らしの男性の部屋だ。

いや、そんなことより、この家は何て、何て……

「あら?もう帰ってきたの?」

部屋の中には先客がいた。トモの家族だろうか?

声から判断するに僕らより少し年上の女性のようだが。

「トモと客人の様子を見に行っただけだからな。別に出かけるわけじゃないって言っただろ?」

「言ってたっけ?」

「さあ、どうだったか?詳しくは俺も覚えていなかったりする」

勇さんとそんな会話を交わす。

中に入ってその姿を見てみると、えらい美人がそこに座っていた。

「うわぁ、綺麗な人だぁ」

小鳥が感嘆の声を上げてしまうほどの美人である。

僕だって小鳥みたいなキャラであったら同じリアクションをとっていたことだろう。しかし僕はあくまでクールに決めるキャラ設定であるのでそれは我慢した。

勿論キャラ設定は冗談である。

僕の冗談もこれくらいにしておき、さてこの美人の女性は誰であろうか?

顔のつくり、スタイルの良さからトモのお姉さんではないと思う。

「真君。今失礼なことを考えていたですか?」

「考えてないよ」

「じゃあ、何でこっちをみて鼻で笑ったような顔をするですか?」

「もともとこんな顔なんだよ」

「そうでしたっけ?」

「そうなんじゃない?」

「うー、なにか馬鹿にされている気がするです」

「気のせいだろ?それよりあの女性は誰なんだ?トモのお姉さんではないんだろう?」

「そんな君に紹介しよう」

ずいっという効果音が出そうなほど急に勇さんが僕に近づいて言った。

「俺は風間勇だ」

「それはもう聞いたし知ってます」

「つれないなぁ。まあいいか。話を進めることにするか。彼女は竜花。俺の仕事のパートナーで、更に言えば恋人みたいなものだ」

「うえ!?あんな綺麗な人が恋人なんですか?」

信じられない。だって勇さんは僕とほぼ同じだ。

同じなのにこんな綺麗な恋人が作れるわけがない。

いや、ちょっと僕、混乱しているな。落ち着こう。

「さて、トモ、どういうことだ?」

「どういうこととはどういうことですか?」

「あの人は本当にお前のお兄さんの彼女なのか?」

「私も仕事のパートナーで彼女としか紹介を受けたことは無いですけど」

マジか?本当なのか?

「ふふふ、羨ましいのか少年?」

何故か誇らしげな勇さん。

本能的にむかついた。

「別に羨ましくないですよ。僕にだって小鳥という彼女がいますから」

「ぬ、確かにそちらの方が若いな」

ドが!……ガがーん!!

勇さんは竜花さんに殴られてすっ飛び、壁に激突した。

あれ?この腕力、異常者ですか?

「誰が年増ですって?」

竜花さんは笑みを浮かべながら言った。

いや、誰も年増なんて言ってないんだが……しかし余計なことは言わないでおこう。

「おい、トモ……竜花さんって」

「はいです。私たちと同じように異常者ですよ」

あー、やっぱり。

というか、仕事のパートナーと紹介されたときに気づけよ僕。

本当、そういうことには頭が回らないなぁ。でも勉強にも頭が回らないし、僕が頭が回ることと言ったらいったい何なのだろうか?

まあ、深く考えないことにしよう。

「竜花さんは戦闘向けの異常者で、身体能力の高さは常人の比ではありませんです」

「トモの身体能力の高さだって常人の比ではないと思うのだが?」

「私と竜花さんの身体能力では桁が違います。おそらく接近戦では竜花さんに勝てる人間はこの世にいないです」

「……なんかわからないけど、凄い人なんだなぁ。竜花さんって」

扱いには注意しないと勇さんみたいになってしまうということか。

しかし、勇さん大丈夫なのか?結構な音がしていたけど。

「いたたたたたたたたたた……おい!何するんだよ?俺は戦闘向けの能力じゃないから手加減してくれよ。というか、俺年増なんて言ったか?」

「さて、どうだったっけ?」

「さあ?どっちだったっけ?」

よほど強く頭を打ったのか記憶も曖昧のようだ。

ちなみに年増とは言っていない。

「しかし、この部屋狭いなぁ。客人皆入れるか?まあいいか。適当に座ってくれ」

なんだかんだ言っても元気なトモのお兄さんであった。


結局、ちゃぶ台を囲むように円陣を組み座ることになった。

僕の右から小鳥、竜花さん、勇さん、トモ、柚子という形でちゃぶ台を囲む。

「いやいや、今日はわざわざ忙しいときに来てもらって悪かったね」

「本当ですよ。少しは考えて動いたほうがいいと思いますが?」

「ちょっと、柚子!?」

毒舌柚子が何故かトモのお兄さんにまで臨戦態勢に入ってしまっていた。

何で今日はこんなに機嫌が悪いんだ?

いや、おそらくは僕のせいなのだけど。

「仮にも探偵という職業に就いているんです。頭を使って考えて行動してください。非常に迷惑です」

「柚子!いくらなんでも言いすぎだぞ!」

「いやいや、構わないよ。悪いのはこちらだからねぇ。それに俺には彼女が怒っている理由も分かるしね。大好きなお兄ちゃんとの時間を奪われてご立腹中なんだよな?」

「くっ」

柚子が苦虫を噛み潰したような顔をする。

あれ?僕は勇さんにそのことを言ったっけ?

言ってないような言ったような……まあ、いいか。トモから聞いたと言うことにしておけば。

「ただ、あまり敵意をむき出しにしているとお兄ちゃんに嫌われちゃうぞ」

「!!よ、余計なお世話です!!」

「あらま、完璧に嫌われちゃったかな?」

うむ、どうやら口喧嘩では勇さんのほうが一枚上手のようだ。

無駄に年は食っていないわけだ。

このまま自分の妹がいじめられるのを観ているのも兄としてどうだろうということで、助け舟を、しいては本題に入ることにした。

「それで勇さん。僕を呼んだ理由は何なんですか?」

「理由?うーん、面白そうなやつだから一目みたいと思って呼んだ」

「それだけですか?」

「それだけだと思うか?」

「……勇さんと会ってまだ一時間経っていませんが、ありえるかなぁと思います」

「うん。確かにいつもの俺ならばそれだけの用事で呼んだりもするが、残念だ。今回は更に他の理由がある」

僕の直感が告げる。

それはどうしようもない理由だと。だからそれは聞いてはいけないと。

聞くと後戻りが出来なくなると。

そう直感が告げていたのに僕は訊いてしまった。

「他の理由と言うのは何ですか?」

「実はねぇ、君と一緒に事件を解きたいと思ってね」

男がやっても気色悪いだけだというのに、勇さんはウィンクをしながらそう言った。



僕は自分が情けない男であると自覚している。

他人の意思を曲げてまで行動することなど、そんなこと滅多にない。

それがおそらくこの勇さんにはわかっている。

僕が断れないことがわかっていながら勇さんは言ったのだ。

この人は……頭が回りすぎる。なるほど、名探偵。迷探偵。

恐ろしい人だ。

一見すると人畜無害な顔をしている。が、その中身は羊じゃない。狼、魔犬。

白状しよう。

僕はトモ以上に、君代先生以上に、那美姉以上に、この人を恐ろしく思う。

恐ろしく思うのに、僕は一緒に事件を解きたいという申し出を受けた。

理由は上記の通り、そしてもう一つ理由がある。

それは単純な興味からだ。

事件に対しての興味ではない。

僕は探偵ではないし、推理マニアというわけでもない。

前回の事件に関わったのだってたまたまだ。たまたま巻き込まれただけなのだ。

僕が興味があるのは、勇さんだ。

この人と僕は、何処か異常に近いところがある気がする。

性格?雰囲気?さあ何だろうか?

よくわからないが、なんだか似ている。

だから、僕はこの人を観察したい。

もしかしたらわかるかもしれない。

僕が僕でいるわけが。

恐怖と興味。その二つを心のうちに持ちながら、僕はそれを了承した。


「……」

時は流れて、お昼になった。

お昼になったので僕らはファミレスに入った。

そして僕は割りと好物であるとんかつを頼んだのだが、それでも気分は悪かった。

というか、機嫌が悪い。

ある理由があり、僕は非常に怒っていた。

「おいおい、そんなに怒るなよ。いくらお腹が空いているからって、まだ頼んで五分も経っていないぞ」

「僕はそんな理由で怒っているわけではありませんよ。勇さん」

勇さんと僕は対面するように座っているため、視線が交じり合った。

にやにやと笑うその表情はそこが見えず気味が悪かったが、それ以上に僕は気分が悪かった。

「それではいったい何に怒っているですか?真君は?」

「私はおおよそ、お兄ちゃんが何に怒っているかは見当がつきますが」

僕の横に柚子、勇さんの横にはトモが座っていた。

以上四人。

僕らはこのメンバーで事件を解くことになった。

竜花さんと小鳥はメンバーから外された。

小鳥は今、竜花さん付き添いの下帰宅していることだろう。

僕はそのことが非常に腹立たしい。

小鳥を仲間外れにされたことが非常に腹立たしい。

小鳥はそういうことに敏感だから、きっと傷つく。

僕は傷つけることも傷つくことも嫌いだというのに……この人はそうじゃないのか?

他人が傷つくことが平気だというのか?

わからない。理解が出来ない。

「まあまあ、腹も膨れれば自然と怒りも収まるだろう。だから俺たちはただ料理が来るのをじっと待っていればいいのさ。果報は寝て待てだ」

「理由が知りたいです」

「理由?何の?」

「とぼけないでください。小鳥を外した理由です」

「竜花も外した。俺の彼女を忘れないでもらいたいね」

「忘れていませんよ。ただこの場合彼女が外されようがどうしようが、どうでもいいことです」

「俺の彼女をどうでもいい呼ばわりか?」

「茶化さないでくださいよ。静かにしてますけどね、内心では僕でもびっくりするぐらい怒っているんです」

「それはわかっている。充分存じている。俺はそういう能力だから、わかりすぎて逆に怖いくらいだ」

「それで理由は?小鳥を外した理由は何なんですか?」

「理由?理由ねえ。そうだな……お互いに兄妹で事件を解こうと思ってね」

「は?」

「俺とトモ、そして君……君と言うのもキザっぽいからもう止そうか?真と呼び捨てにしていいか?」

構わないという意思表示に僕は首を静かに縦に振った。

「そして真と妹の柚子ちゃん。お互いの彼女である竜花と小鳥ちゃんには退場してもらい、家族仲良く事件を解こうと……」

「ふざけないでください」

僕は声は荒げなかったものの、勇さんのそのふざけた態度に腹を立てた。

そんな御託は聞きたくない。

「そんな理由で小鳥を帰したというんですか?」

「その理由で帰したと思うか?」

「さあ、どうだか?勇さんの心なんて僕にはわかりませんからね。それが本意かどうかなんてわかりませんよ」

「真は自分を過小評価するんだな」

「周りが僕を過大評価するだけです」

「そうかもなぁ。でもそうじゃないかもしれないなぁ。まぁ、そんなことはどうでもいいか。さて、小鳥ちゃんを帰した理由だが、勿論そんな理由じゃない」

「真面目に話す気ないですね?」

「お前が真面目に話す気が無いんだろう?」

「……どこがですか?」

「本当の理由が分かってるくせにわざわざ俺の口から言わせるのか?お前だって理解して納得したからあの場で何も言わなかったんだろうが?」

「納得はしてないです。了承しただけです」

「同じだよ。やれやれ、お前は自分のことが嫌いなくせに悪役にはなりたくないのな。わかった、わかった。そこまで言うなら俺の口から言ってやるよ。その理由ってやつを」

理由。小鳥を返した理由。

……いや、本当はわかっている。冷静になれば理解も出来る。

ただ、僕はそれを認めたくは無かった。

僕は卑怯者で、そう勇さんの言うとおり自分が悪役にはなりたくなかったのだ。

「今回の事件は異常者が起こした事件だと考えられている」

「わかってますよ。勇さんがそっち専門の探偵とはトモから聞いていますから」

「んじゃ、単刀直入で言ってやる。普通の人間は邪魔だ。足手まといにしかならない」

「僕らを外に出して何を話しているかと思えば、そんなことを言ったんですか?」

僕が事件を一緒に解くと了承すると、突然勇さんは小鳥と自分以外を外に出してそして何か話をした。

その内容は知らない。

知らないが、その会話が終わった後小鳥は竜花さんに連れられて帰宅したのであった。

「いや、似たようなニュアンスのことは言ったがそこまではっきり言ってはいない。俺は言葉を使い分けるからな」

「……」

「傷つける相手は選ばないといけないよなぁ、真」

「……そんなことはどうでもいいです。小鳥が役に立たないってどうして決め付けるんですか?前回の事件の時だって小鳥は……」

「前回の事件の時というのは、お前たちが解いたっていうあれのことか?あの時小鳥ちゃんは役に立ったというのか?」

それは、少なくともそこにいるトモよりも役に立ったと言えると僕は思うのだが。

「実際彼女が何の役に立った?それは彼女がいなくてもお前が代わりに出来たものではないのか?お前がわざわざ彼女のために居場所を作ってやっただけじゃないのか?」

「……」

そうなのだろうか?

僕はそんな気は無かった。

確かにそんな気は無かった。

そんな気は無かった?

「今回は俺とお前、トモと柚子ちゃんの四人で事件を解く。小鳥ちゃんの居場所はどこにも無い。だから退場していただいた」

「そんな……小鳥だって何かの役に立つかもしれないじゃないですか?」

「……お前、いい加減にしろよ」

勇さんの眼が鋭くなった。

それだけじゃない、雰囲気も……これはまずい。

僕は、呼吸の仕方を忘れたように口で呼吸を始める。それでも呼吸が出来ている感じがしない。生きている感じがしない。

「わかってはいると思うが、今回の事件にも犯人はいる」

「そ、そんなことはわかっています」

本当にわかっている?

「しかも異常者だ」

「それもさっき聞きました」

「異常者っていうのは、正直何を考えているかわからない。いや普通の人間っていうのも何を考えているかはわからない生物ではあるが、しかし普通の人間っていうのは行動の予測がつきやすい。だから、まあ安全だ。だがな異常者っていうのは何するかわからない。自分が犯人だったということがばれてしまって、果たして何をするのか検討もつかない」

「……」

何を……何を言うか、この人は。

「もし俺たちが犯人までたどり着いて、もし犯人が心を乱して、もしその場に連れていた小鳥ちゃんが怪我などをしたら、お前は自分を許せるのか?」

「……」

自分を許せるのか?

そんな答えはとっくの昔に決まっている。

「お前がどうして小鳥ちゃんのような普通の人間と付き合ってるか、それは俺の知るところではない。ただ、これからも彼女とうまくやっていきたいのなら、このような厄介事に彼女を巻き込んではならない。後悔するのはいつも自分だということを頭に置いておくんだな」

後悔……確か彼女もそんなことを言っていた。

後悔しないで生きていければ……そんなことは不可能だ。

現に僕は今後悔している。

僕がこんなくだらない事件に付き合おうと思わなければ小鳥は独りになることは無かったのに、そう思っている。

後悔しても無駄なのに、そうわかっているのに後悔する。

僕はいつだってそう生きてきた。

これまでも、そしてきっとこれからも。

「さて余計な話はこれぐらいにしようか?そろそろ料理が来るだろう。事件のことに関しては食べ終わってから話すよ」


「事件は今週の木曜日、俺がこの町に帰ってきた日に起こった」

皆食事を終え、まったりとしている時に勇さんは話し始めた。

しかし……

「勇さんが帰ってきた日とか、そういうマメ情報は必要なのですか?」

「いらないなぁ。まあ一応というやつか」

いらないなら省いて欲しいが、まあどうでもいいことではあるか。

あれ?でもトモは勇さんが今日帰ってきたと言ってなかったか?

町に帰ってきたのは木曜で、家に帰ってきたのが今日ということなのか?

……どうでもいいか。

「被害者は飯田岡薫。西宮高校の生徒で、確か……二年五組だったはず」

「あんた仮にも探偵なんだから、そういう情報はしっかりとしてくださいよ」

「あー?これ重要な情報か?どうでもいいことだと思うんだけどなぁ」

被害者の情報がどうでもいいという名探偵。本当に名探偵なのだろうか。

やはり迷探偵なのではないのか?

……僕は気づかなかった。勇さんの迷探偵っぷりに目が行ってしまって、トモの様子など見ていなかったのだ。

「事件が起きた時間は……下校の時間だから四時から五時の間か?」

「重要なことを何一つ覚えていませんね?」

「いや、覚えていないって言うか、その情報聞いたっけ、俺?」

「知りませんよ」

何かダメダメな迷探偵だった。

やはりトモのお兄さんだということか。

本当に、そんなことで仕事が回ってくるのだろうか?

現に回ってきているのが、この世の不思議というべきなのだろうか?

「まぁ、事件の発生時間、被害者の情報なんてどうでもいい情報だろう」

「かなり重要な情報ですよ」

「何が起こったかっていうとだな、その飯田岡薫とかいう奴が電車に飛び込んじまったんだよ」

「……」

「駅で電車を待っていたんだけどなぁ、突然電車に飛び込んだ。即死だったらしい」

「あのそれって……」

「普通に考えれば自殺と考えるわな」

そうだ。普通はそう考える。

女子高生が電車に飛び込む。押されたというわけではなく飛び込む。

これは自殺じゃないのだろうか?

「ところがどっこい、そうじゃない。実はその一週間前、同じクラスの生徒……えっと、誰だったっけ?」

今度は名前すら忘れてしまったらしく、勇さんは手帳を取り出して調べ始めた。

「うんと、福田冬菜フクダ フユナ。こいつも一週間前に同じように電車に飛び込んで死んでいる。まあ駅は違うんだがな」

「偶然じゃないんですか?」

「まあ偶然かもしれないし、そうじゃないかもしれないがともかく依頼元の警察は疑った。そして俺に連絡をしてきた。そして俺が調べた結果、飯田岡薫の死は自殺ではなかった」

「どうしてわかるんですか?」

「それが俺の能力だからだ」

「勇さんの能力ってどんな能力なんですか?」

「犬っぽい能力だな」

……犬っぽい能力ってどんな能力だ?

僕が首を傾げていると勇さんは続けて説明した。

「お前はなんだかんだいっても察しが良いと俺は思っているから簡単にしか説明しないぞ。要するにだ、俺は鼻が良いんだ。そりゃ人間とは比べ物にならないくらいに。あの現場には飯田岡薫が発したと思われる『恐怖の匂い』が残っていた。自殺する人間が死ぬ間際に恐怖を感じるか?いや、感じるかもしれないが、あの恐怖の感じはそういう感じではなくて、予期せぬ恐怖の匂いともいうべきか……ともかく俺の能力はそんなんで、そういうわけで自殺ではないんだ」

「すいません。わかったような、わからないような……よくわかりません」

「結局わからないのかよ。まあいいや。飯田岡薫は自殺じゃない。これだけが重要な点だ。んで一週間前にも同じような事件が発生している」

「それはつまり……だれかが事件を起こしているということですか?」

「普通に考えればそう行き着くよな」

それはそうだ。

勇さんはそういう風に誘導しているし。

「だが犯人の検討が全くつかない。事件が起きたとき飯田岡薫の近くには誰も人がいなかったらしい。完璧に異常者の起こした事件だ。なぜ西宮高校二年五組の生徒ばかり狙うのか、なぜ事故死のように見せかけるのか、全てが謎なんだ」

「それってほとんど手がかりが無いって言うことじゃないですか?」

「まあ、犯人の手がかりは全くと言っていいほど無いに等しいな」

「そんな状況で、僕に何をしろっていうんですか」

「だから……犯人を捜して」

この人は……本当に探偵だろうか?

完全に僕に事件を任せる気だ。自分で解く気など微塵も無いようだ。

「ヒント……いえ、犯人の候補とかはいないんですか?」

「バカか?漫画とか小説とかじゃないんだぞ。候補なんているわけ無いだろう?大体候補がいるなら俺のところまでこの事件が回ってこねえよ」

「……僕は確かに事件を一緒に解くことを了承しました。が、僕は学生です。しかもそんなに頭の良くない。とりあえずこれから僕らは何をすればいいんですか?」

「1.現場検証。2.被害者家族に被害者のことを聞いてみる。3.被害者の知人……つまりはクラスメイトだな……それらに被害者のことを聞いてみる。さあどれだ?」

ふむ、どうやら僕は試されているようだった。

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