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たった一人の妹 綾瀬柚子

さて、何かつい最近同じように頭を下げたような気がするが……そんなことはどうでもいい。

柚子に謝る時が来た。

僕は今朝柚子とした約束を破らなければならないのだ。

約束を破らない方法が無いわけではない。

朝トモの言ったとおり、柚子をトモの家に一緒に連れて行けば、確かに約束を破ったことにはならないだろう。

しかし、それは約束を破らないだけであって、結果的には最悪だ。

面識のない僕の友達と一緒にいるなんて、柚子としても気まずいだけであろう。

そんな思いを柚子にさせるわけにはいかない。

柚子には申し訳ないが、約束はまた今度にしてもらうことにしよう。

そのせいでまた何かを求められるかもしれないが、それは仕方がないことだ。

仕方がないことと割り切ろう。

問題は切り出す時なのだが……

今は夕食時。

ちょうど那美姉も仕事の関係で帰宅しておらず、その場には僕と柚子しかいなかった。

……那美姉が帰ってくる前に、話がややこしくなる前に、つまりは今その話を切り出すしかないようだ。

……と意気込んでみたところで、言いにくいことには変わりない。

はぁ。何でこんなことになってしまったのだろうか?

全ての原因は何処にある?

僕が何か悪いことをしたというのか?

いや、しているかもしれないが、それにしたって最近はこんなことばっかりだ。

同じ事を何回も繰り返しているような気がする。

勿論それは僕の被害妄想が生んだ気のせいであるのだけれど。

風間智美と風間勇……彼らは僕の人生をどれだけかき回せば気が済むのだろうか?

「…………ん?」

まあ彼らがかき回す気がないことはわかっているが、それにしたって僕と彼らの相性はあまりに悪いように思われる。

「お……ゃん?」

運命……そんな単純な言葉が好きな僕ではないけれど、他にいい喩えが見つからなかったからそれで喩えさせてもらうと、僕と彼らはうまくいかない運命にあるようである。

「お…ちゃん?」

うまくかみ合わない理由。それは一体なんであろうか?

僕はそれが……よくわからないが……根底にあるものだと……

「お兄ちゃん?」

「え?あ。柚子?」

「どうしました?顔色が悪いようですけど?」

柚子が何回か僕に語りかけていたようだが、僕はまったく気づかなかった。

更に心配までかけてしまった。

「大丈夫だよ。ちょっと考え事をしていてね」

「考え事、ですか?」

「うん……トモのこと、何だけど」

「風間……智美さん、ですか?」

柚子の顔が険しくなった。

そうだった。柚子は僕が女の子と仲良くすることを良しと思っていないのであった。

理由は知らないが、昔からそうだった。

小鳥と彼氏彼女の関係になった時だって、柚子はとても反対したものだった。

認めない、認めないって何度も言っていたっけ。

……それでも例外として小鳥だけは認めるっていうことになって、今ではそれなりに柚子と小鳥は仲がいい。

「お兄ちゃん?風間智美さんがどうかしたんですか?」

僕が昔のことをほのぼのと思い出していると、柚子が訊ねてきた。

……しょうがない。

今が言うときであろう。

「実はね、柚子……明日一緒に出かけることが出来なくなった」

「……え?」

柚子が悲しそうな顔をする。

あぁ、わかっていたけど、つらい。

妹を悲しませるのはつらい。

たとえ僕が駄目な人間であろうとも、それだけはつらい。

「どういう、ことですか?……お兄ちゃん」

柚子は、怒っていなかった。

ただ、その事実に悲しんでいるだけだった。

いっその事、怒ってくれたほうがまだ楽だ。

その悲しんでいる姿を見るよりも怒っている姿を見たほうが、いい。

怒れるということはそれだけまだ元気があるということだから。

だから僕は、柚子が悲しんでいるということがつらい。

……柚子の悲しむ顔を見るのはつらいが、でも僕は言わなければならなかった。

「トモがね……急なんだけど、どうしてもお兄さんを紹介したいって言うから……」

「風間……智美さんが?」

柚子の眉が軽くつりあがった。

ん?あれ?

悲しむよりも怒っているようだけど……僕何かまずいことを言ったかな?

「そ、それで明日トモの家に行かなければならないことになってしまって……」

「それは今日決まったことですよね?」

「え?あ、うん?」

「……それならばこちらが先の約束のはずですが?」

「そ、そうなんだけど……トモのお兄さんは仕事が忙しいらしくて、いつここを発つかわからないらしいんだ。だから、明日すぐにでも紹介したいって……」

「何故お兄ちゃんをお兄さんに紹介しないといけないんですか?」

お兄ちゃんをお兄さんに?

えっと最初のお兄ちゃんが僕で、次のお兄さんがトモのお兄さんのことだよな?

うーん、紛らわしくて理解するのに時間がかかってしまった。

しかし、理由か?何だっけ?

……確か興味があるとかそんな感じだった気がする。

「もしかして……風間さんとそういう関係だから挨拶に行く、とかですか!?」

「そういう関係って?」

「恋人ということですよ!」

「ぶっ!!」

「お兄ちゃん?図星なの?図星だから焦っているの!?」

「柚子が変なことを言うからだよ。まったく、トモが恋人なわけがないだろ?僕には小鳥という彼女がいるんだから」

「二股ということもあります」

「あー」

同じ事を繰り返しているような気がする。

どうして女の子っていうやつはこういう話が好きなのだろうか?理解が出来ない。

まあ、理解しようなんて一度も思ったことはないのだけどね。

「お兄ちゃん。一夫多妻制の国は少なくないんですよ」

「何が言いたい?」

「昔は兄妹同士の結婚が認められていたときもありました」

「何が言いたい?」

「すいません。柚子はなんだか混乱しているみたいです」

そのようだな。

そのためか頬が赤く染まっている。

「とにかく、僕とトモはそういう関係じゃないから」

「それではどうしてお兄さんにお兄ちゃんを紹介するんですか?」

だからその言い方はややこしいからやめて欲しい。

えっと、お兄さんがトモのお兄さんで……お兄ちゃんが僕のことだよな。

「うん……そこは僕も疑問なんだけど、面白そうなやつだから興味が出たとか言っていたよ」

「面白そうなやつ、ですか?」

「まったく、僕はそんなに魅力的な人間じゃないのにね」

「いえ……そんなことは」

「?柚子?」

何かモジモジと言っていたのだが聞き取ることが出来なかった。

「な、なんでもないです!わかりました。理由はわかりました。でも何故断らなかったのですか?」

「う」

言えない。トモの口車にうまく乗ってしまったなど言えない。

頭の悪い(僕の偏見だけど)トモに乗せられたなんて一生の恥だ。言い過ぎた。

ともかくそんな恥ずかしいことは言えるわけがない。

「まあ、お兄ちゃんのことだから状況に流されてしまったのでしょうけど」

「う」

あっさりと見抜かれていた。

さすが僕の妹だ。僕のことは良くわかっているようだ。

違う人間であるというのに。

「……もう、約束はしてしまったのですよね」

「う、うん」

「はぁ、仕方がないですね」

ごめん、柚子。

僕が不甲斐ないばかりに、また君を悲しませてしまったね。

僕は、僕はどれだけ人を悲しませれば気が済むのだろうか?

いや、無意識的に人を傷つけているのだから気が済む、済まないの問題ではない。

……今までどれだけ人を傷つけ、そしてこれからどれだけ人を傷つけていくのか?

わからない。

そんなことはわからない。

未来のことは誰にもわからない。

そう、ほとんどの事がわかる彼女でさえ、未来のことはわからないと言った。

未来は不確定だ。

だが、僕がこれからも人を傷つけていくことは、きっと確定している。

不確定なのに確定している矛盾。

僕はそれを、悲しく思うのか?

「お兄ちゃん。そういうわけで、私もそれに同伴しようと思います」

「あ、うん」

いけない、いけない。

また下らないことを考えていた。

僕は思考遊びなんてするべきではないんだ。

たいていネガティブになるのだから。

さて……今柚子はなんて言った?

「えっと、柚子?」

「はい。何でしょうか?」

「今、ボーっとしていたからもう一度言って」

「私も明日、風間さんの家に行こうと思います」


翌日の十時ごろ……僕らはトモの家(神社)に到着した。

トモは巫女さんらしく、袴(巫女装束)で箒をもって掃除をしていた。というか、トモは巫女さんなのか?

学生をしながら巫女さんという職業は出来るものなのか?

よくわからないし、どうでもいいことだった。

「あ、真君。おはようございますです!」

朝から元気の良い友人であった。

「おはよう、トモ」

僕はその三段階ぐらい低いテンションで応える。

「おはよう、トモちゃん」

小鳥は僕の一段階ぐらい高いテンションで応えた。更に笑顔のおまけ付。

「はじめまして。風間さん」

……そして、僕の妹である柚子は僕の一段階低いテンションで、むしろ怒気を孕んだ様子で言った。

「うん?誰ですか、その子?」

「あ、えっと、僕の妹」

柚子は一歩前に出て頭を下げた。

「申し遅れました。私は綾瀬柚子。お兄ちゃんがいつもお世話になっているようで」

な、何か棘がある言い方だなぁ。

やっぱり柚子は僕と一緒に出かけることが出来なくなったことを怒っているのだろうか?まあ怒っているからあからさまに不機嫌になっているのだろうけど。

「うん!いつもお世話してますですよ。柚子ちゃんって言うんですか?可愛いですね」

「そういう風間さんこそ、まるで小学生みたいで可愛いと思いますよ」

ぴき。

あ、空気が凍った。

「ま、マコちゃん?何でか修羅場になってるよ?何でかな?何でかな?」

「……僕に聞かないでくれ」

僕は何も悪くない。

……きっと何も悪くない。

こめかみが痙攣をおこしており、しかし流石に年上ということもあって、引きつった笑みを浮かべながら、トモは柚子とのコミュニケーションを再開させた。

「ゆ、柚子ちゃんは真君と何歳年が離れているですか?」

「三つです。風間さんはお兄ちゃんと五つぐらい離れていそうですね?」

ぴく。

あー、青筋が増えたなぁ。

「ま、マコちゃん!」

「……僕は関係ない。関係ないから何も聞くな」

やはり柚子にどうにか言って、家で待ってもらえばよかったのかもしれない。

が、もう後の祭りだ。

ここまでの状況になってしまえば、後は流れに身を任せるしかない。

さて、さっきよりも険しい表情をしているトモであったが、流石に年上ということもあって、再び柚子とのコミュニケーションを始めた。

「柚子ちゃんのその洋服、凄く可愛いですね」

「風間さんのその袴姿も、幼稚園の学芸会みたいで似合ってますよ」

「か、可愛い妹さんですね!真君!」

あ、僕に怒りの矛先を向ける気だ。

「真君、ちょっと話があるです。コッコちゃんと柚子ちゃんはそこで待ってください」

「トモ落ち着け。落ち着いて話し合えばきっと分かり合える」

「だから、あっちで話し合うですよ。いいからさっさと来るですよ」

有無を言わせずにやるらしい。

仕方が無い、僕も覚悟を決めないとならないらしい。


神社の裏に呼び出された。

この状況、まるでカツアゲだなとか思ってみたりして。

「それで、真君?どういうことですか?」

「どういうことというのは何でしょうか?」

わかっていながら訊いてみる。

覚悟を決めなければならないとわかってはいるものの、僕は往生際が悪く卑怯なのであった。

「私の口から言わなければわからないのですか?」

「お、おぉ。トモ、落ち着け。殺意向いてる。殺意向いてる」

眼鏡をかけているから殺意そのものは視認出来ないが、それでもトモが殺意を向けていることはわかる。

あぁ、こんな能力要らないのになぁ。

「真君、わかっているですか?私、怒っているのですよ」

「それはわかっています。えぇ、だいぶ前からわかっていました」

「それじゃあ言いたいことも自然とわかるはずですよね」

「うん……まあ、わかるけどさ……」

「どういうことですか?真君?」

「どういうことというのは何でしょうか?」

ループさせてみた。

「真君。ふざけないでくださいです」

「おわ!落ち着け!落ち着け、トモ!殺意が具現化している!具現化している!」

眼鏡をかけている僕でもそれははっきりと視認できた。

普通の眼であっても視認できるほどの強烈な殺意。

いやぁ、トモ。君は本当に恐ろしい友人だ。

ふざけるのはこれくらいにして、僕は現在までの経緯を簡単にトモに説明した。

「いや、柚子にトモの家に行くって言ったら、ついて来るって言い出して」

「どうしてついてくるですか!?おかしいですよ!兄の友達の家についてくるなんて絶対におかしいです!」

……トモもブラコンだから絶対についていくよなぁ、と思ったが間違っても口に出すことはしない。

「でもさ、昨日はつれてきても良いって言ったじゃないか」

「それはそれ!これはこれです!!」

うわぁ、凄いこと言ったよこの子。

みんなは自分の言葉に責任を持とうね。

「だいたいですね!私そんなに小っちゃくないです!年相応の身体をしているですよ!」

「えー」

「なんですか!?その不満気な声は!」

「だって、トモ……君は未だにファミリーレストランではお子様ランチを食べれるし、ファーストフード店に行けばハッピーセットを頼んでも何の不思議は無い体躯をしていると僕は考察するのだけれど、どうだろう」

ブン、ブン。

トモが急にその具現化させた馬鹿でかい剣で素振りを開始した。

驚くことに、やはりそれは具現化されている。

あんな質量を有していそうな物質をいとも簡単に振り回すなんて……いや実際は、僕もあれと同じものを具現化したことがあるからわかるけど、そんなに重いものじゃなかった。まあ、でも見た目は重そうであることは確かだ……ともかく恐怖だ。

「あの……トモさん?急に素振りなんてし始めて、どうしましたか?」

「真君。知っていましたですか?実は私、気が短いんですよ」

ええ、それは良く存じています。

「それと素振りとどう関係が?」

「久々に動いているものを切ろうと思っているので、切損じがないように練習しているです」

切るが斬るではないのが一層恐怖を煽るね。

トモのその馬鹿でかい剣は『切択剣』(愛称:洗濯剣)といい、切るものを選べるとても便利な剣なのだ。

斬るではなく、切る。

トモが本気を出せば、僕なんて五秒もかからないうちに、体の一部が別離することだろう。

「トモ……とりあえず落ち着こう。落ち着いて話せば人はきっとわかりあうことが出来るはずだ」

「そう言いながらさっきから私をおちょくっているのは誰ですか?」

「僕だ」

「そうです」

ブン、ブン。

「さて、冗談のように生きている僕だけどそろそろ真面目に話そうか」

「最初から真面目になってください」

「そんな僕は僕であって僕じゃない」

「意味がわからないです」

「そうだね」

「はぁ……でも意味がわからないのが真君かもしれないですね」

ため息をつきながら中々酷いことを言うトモであった。

僕が意味がわからない人間か……もっともな意見ではある。

「それで同じ質問をしますけど、どういうことですか?真君?」

「どういうことと言われてもなぁ……さっき見たままだよ。僕の妹の柚子がついてきちゃった」

「……質問が悪かったようなので変えるです。どうしてその柚子ちゃんがついてきているんですか?」

「どうしてって言われても、ねぇ」

気づいたらそうなっていた、と言うべきだろうか?

つまるところ、また状況に流されたわけだ、僕は。

「柚子がついてきたいって言うから……」

「柚子ちゃんがついてきたいって言ったら、それを承諾させてしまうんですか?」

「……トモ、君には二つ言っておくことがある」

「なんですか?」

「まず第一に、今日は予定があったんだ。柚子と一緒に出かけるという予定が。それをトモのお兄さんの急な申し出により、止めることにしたんだ。先約だったのにも拘らず、君らの都合によってね」

「う……でも、今日じゃないと、いつお兄ちゃんと会えるか……」

「もう一つ」

僕はトモの言葉が終わらないうちに続けた。

「トモには言っていなかったけど、僕は傷つけあうことが嫌いだ。傷つくことも、傷つけることも出来ることならしたくないんだ。だから、僕は柚子がついてきたいと言ってきたとき、それを駄目だとは言えなかった。これ以上柚子に傷をつけたくはなかったから」

「うー……」

「以上が柚子の申し出を承諾させた理由だけど、何か言いたいことはある?」

僕が伝えるべきことは全て言った、と思う。

これで文句があるなら、仕方ない。

ひたすら平謝りするしかない。

「で、でも、やっぱり、それは、おかしいですよ!」

う、まだ文句があるのか?

ごめんなさい、ごめんなさい。

ざっ、ざっ。

うん?あれ?誰か来たのか?足音が聞こえる。

柚子か、小鳥が待ちきれなくなったのか、それとも心配したのかわからないが、それで来たのだろうか?

……いや、聞こえてくる方向が違う。

それは僕の背後から……

「あ」

ざっ、ざっ。

「どうしたトモ?何か怒ってるようだけど、どうかしたのか?」

声が聞こえたから、僕は振り向いた。

そこに立っていたのは……

「お兄ちゃん」

トモのお兄さんだった。


恐怖ということは怖いということ。

恐ろしいということ。

僕は毎日、毎日人の殺意を見る。それを僕は怖いと思う。恐ろしいと思う。

僕は今眼鏡をかけている。

どういうわけか、僕自身もわからないが、眼鏡をかけていると殺意を視認できなくなる。だから僕は普段は眼鏡をかけている。よっぽどのことがない限りそれを外すことはしない。

その人の殺意は僕には見えない。眼鏡をかけているから。

それだというのに、僕は、殺意が見えないというのに、僕は、その人が怖い。

本能的に恐れているのだ。

本能的であるから、もちろんその理由は不明だが、怖い。

僕は必死に隠す。

この人に悟られてはならない。

僕がこの人に恐怖していることを悟られてはならない。

僕とこの人は……だ。

だからこの人に恐怖しているということを悟られれば、おそらく……れる。

僕は体の奥から発せられる震えを一生懸命隠した。

でも……

「そんなに怖がるなって。とって食ったりはしないぜ」

「な」

あっさりばれた。

おかしい。僕は必死に隠していたんだ。

わからないよう、わからないように、必死に。

行動には出なかったし、勿論表情にも出さなかった。

「到着しているというのに中々こっちに顔を出さないから様子を見にきたら、何を怒っているんだ?トモ?」

「お、怒ってないですよ!えへ、お兄ちゃんがいれば私は満足なんです」

急に笑顔が戻ったトモ。

おぉ、ここまで切り替えが早い人間は漫画ぐらいでしか見たことがないぞ。

「えっと、それでそっちのが」

再び僕とその人の目があう。

その人は最初ニヤニヤと笑っていたのだが、やがて……

「あははははっはっははははははは!!!」

大爆笑しだした。

?何が面白いのだろう?

僕の顔だろうか?

いやそこまでユニークな顔をしていると思ってないんだがなぁ。

「そうか!綾瀬真!あれか!病猫の!!あははははははははっは!それ凄い!あははははははは!!凄い偶然だな!いや必然か!?」

「あの……」

「いやぁ、やっぱり呼んでよかったなぁ。成るほど、成るほど。あの綾瀬か。確かにわからなかった俺のほうがどうかしていたようだ。なるほど」

今度は何かに納得し始めた。

うん、わけがわからない。

さすがトモのお兄さんと言うべきなのだろうか?

「ん?そういえば、俺の自己紹介がまだだったっけ?悪いなぁ。勝手に大爆笑してしまって。少し引いただろ?」

「大分ですよ」

「言うねぇ。さすがと言うべきか、なんと言うか」

「初対面で大爆笑されたのは初めてですからね」

「それは仕方が無い。君だって俺の立場にいたら笑わずにはいられないはずだぜ?」

「僕がそちらの立場になるということはないと思うのですけど……そんなことより話が脱線していませんか?」

「あぁ、話がよく脱線するのが俺たちの悪い癖だな」

俺たちって僕らも入っているのだろうか?

初対面なのに一括りにされる道理はないはずなのだが、いや中々的を得ていた。

確かに僕らは話がよく脱線する。

理由は何なのだろうか?

話の本筋に入ってしまうのが怖いから?

本筋に入り、会話が終わってしまうことが怖いから?

……ほら、また脱線した。

まぁ、簡単な話、人間はシンプルには生きられないのだ。

ちょっと複雑に生きたほうが賢く見えるしね。

きっとそういうことだ。

「まっ、トモの方から俺の名は既に聞いているかもしれないけど、初対面だし一応自己紹介しておくぜ。俺の名前は風間勇。性別は男で、年齢はいろいろあって明かせない」

「年齢が明かせないって、なんだか女性みたいですね?」

「いろいろあるんだよ、俺みたいな奴だって」

「そうですね。人間生きていればいろいろありますからね」

「そう。いろいろあったわけだ」

トモのお兄さん……勇さんの過去にいろいろあったことがわかったところで、僕も勇さんに自己紹介をすることにした。

「まぁ、君代先生の方から僕の名前は聞いているかもしれないですけど、初対面なので一応自己紹介をすることにします。僕の名前は綾瀬真。性別は男で、年齢は十五です。趣味や特技などはありません」

そのつまらない自己紹介で、勇さんはまた大爆笑した。

何が笑いのツボだったのか僕には全く理解できなかった。

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