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迷探偵 風間勇

この世には正義と悪がある。

まっ、簡単に言っちゃうと良い人と悪い人がこの世にはいるって言う話。

さて、それでは問題だ。正義とはなんだろう?

TVとかで見られるヒーローがその答えなら、そんなに簡単なことはない。

正義……ね。最近には悪役にも美学があって正義があるとか、漫画ではお決まりなことだ。

悪役にもある正義ってなんだろうな?悪なのに正義?

それは普通矛盾するものなんじゃないだろうか?

正義の正義……悪の正義……

正義を見極めるのは、俺には不可能だ。

だけど俺は判別する。自ら判別する。

裁かれるべき人間と、そうではない人間とを。

それを俺はいったいどこで判別しているか。それは理だ。

悪役でも理があれば俺は裁くことをしない。

人の観点から見る理。

それを見極めるのは、非常に難しい。

『住人』の、それも探索系の能力を持つ俺が言うんだ。

難しい。

それは難しい。

いつも考える。

この事件の犯人の行動に、はたして正義はあるのか?理はあるのか?

犯人はどうして殺人をおこしたのか?それは人として仕方がないことなのか?仕方がないことならばそれは許されるべきことなのか?許されるべきことではないことなのか?

いつも考える。

だがその答なんて、必ずしも完璧な答えがでることなんてありはしない。

だから俺の仕事の結果は大抵保留。

そもそも、人が人を裁く権利などあるのだろうか?

そんなものありはしない。

裁くということは、その人の今まで生きてきた人生全てを否定することと同じだ。

否定し、罰を与えることを裁くと言うんだ。

人間に、そんな権利はありはしない。

それでも人は裁く。

おこがましいとわかっていても裁く。

人間は愚かだから、裁かないと何をしだすかわからないのだ。

それは通常の人間もそうだし、そして異常者でも勿論同じだ。

異常者の場合は更に問題が複雑だ。

彼らのその力は、普通の人間にはないもの……つまり普通の人間ではその力を看破できないのだ。

それを理解した異常者は、厄介だ。

普通の人間には看破されない力。能力によっては、強盗だって簡単だろうし、完全犯罪も可能だろう。

そんな人間を放っておくわけにはいかない。

だから俺は裁かなければいけない。

そういう愚かで理がない連中は裁かなければならない。

……でも、最近はそういう簡単な事件ばかりじゃないんだよなぁ。

おかげで商売上がったりだ。

五月に起きた……あれ?何の事件だったっけ?まあいい。それも解かずに終わらせたから金が入らなかったし、次の事件はわざわざ京都まで出張したって言うのに異常者の事件じゃなかった。まあ、後者の方は一応解いて、お金も(異常者の起こした事件じゃなかったというわけのわからない理由で)少しだけもらった。

……この様子じゃ、今月も厳しいんだろうな。

はぁ、これだから人間の生活は面倒だ。

いっそ……

「何を、考えているの?」

隣りの席に座っている女が、今まで黙っていたくせに、ここに来て口を開いた。

俺は今新幹線に乗って、自宅に帰るところだった。

それで、隣りの女は俺のパートナー。

美人だ。

うん、どこから見ても美人だ。

非の打ち所がないって言うか、完璧すぎる顔立ち、しなやかな肉体。

竜花リュウカ……俺のパートナー。

唯一のパートナー。

「別に、大したことじゃない」

「そう……難しい顔をしていたから」

「それは、今月の暮らしも厳しいなと思ってだな……」

「厳しいの?」

竜花はお金関係の話に非常に疎い。

今回もらったお金だって、竜花には多いか少ないか、そんなことわかっちゃいない。

ただ、今回はもらえた。それだけ。

それだけしか、認識していない。

まっ、俺は竜花に頭脳面は任せていないし、そこら辺はどうでもいい。

別に大して問題視はしていない。

「また、今月もいくつか事件を解かなきゃな」

「そうなんだ」

「ああ。トモには……つらいだろうが」

トモ……風間智美。略してトモ。俺の妹だ。

それで、俺の名は……

「大丈夫。きっとトモちゃんは勇のこと、わかってくれるよ」

勇……風間勇っていうのが俺の名前だ。

まっ、名前何ていうのはどうでもいい。

「わかってないさ。あいつは……わかろうとしていない」

「……厳しい言葉だね。お兄さん」

「あいつはきっと寂しいだけなんだ。あいつは……まっ、俺のせいっていうのもあるけど、あいつには居場所がないんだ」

「居場所。家に住んでいるじゃない?」

「そういうことじゃなくてだな」

「学校にも行っているよね」

「だから……」

竜花はこういう話がわかってくれないから、骨が折れるんだよな。

「いいか。居場所について非常にわかりやすい例を出して説明してやろう。まず、ここに一匹の竜がいます。竜はこの世界に一匹しかいませんでした」

「……何それ?」

「例。例えだ。その世界は人間によって支配されていたから、竜に友達がいませんでした」

「人間の友達を作ればいい話でしょ?」

「ところがどっこい、人間は竜のことが嫌いで誰も友達になってくれない」

「……」

「どこに行っても竜嫌いの人間だらけ。結果竜には居場所がありませんでした。居場所って言うのはそういうこと」

「つまり……勇が言いたいのは、トモちゃんには友達がいないって言うこと?」

「お前、恐ろしいほどストレートに言ったな」

流石竜花だ。

怖いもの知らずだな。

「あいつにとっての居場所は、俺だけだ。当然だ。他は俺が奪っていったんだからな。だから、あいつが、トモが俺にすがってくる気持ちもわからなくはない。だけどな、それじゃあ駄目なんだ」

「どうして?」

「理由は二つ。一つは俺が最悪な人間だから。最悪な人間の傍にいたら、そいつまで最悪になっちまうだろ?」

「じゃあ、私も最悪?」

「あぁ、最悪」

「それは最悪。でも私も勇以外の居場所を知らないし、いいよね。最悪でも」

「いいんじゃないか、最悪でも?さて、そして二つ目。これが重要だ。二つ目の理由……それは俺が早く死ぬかもしれないからだ」

「……」

「俺は、竜花やトモのように戦闘の能力はない。ただ調べるだけ。もし、戦闘能力の高い異常者とやり合った場合、俺は死ぬだろう」

「そうならないために、私がいる」

「そうだな」

竜花を連れているのは半分ぐらいそんな理由だ。ちなみにもう半分は一緒にいたいからという駄目駄目体たらく。

「私にとっても、居場所は、この世界の居場所は勇の近くしかない。だから私が、勇を死んでも守る」

「そうか」

普通は台詞が男女逆なんだろうが、実力的に順当であるから何も言わない。

「さて話の続きな。以上の理由から、俺はトモに俺以外での居場所を作って欲しかった。だからあいつが一緒に仕事をしたいって言っても、断った」

「でも、この前折れてたよね」

「……結局、トモには弱いんだよ。俺」

トモがあんなにも必死に言ってくるから、条件を満たせれば仕事を手伝って良いと言ってしまった。

「ん?そういえばこの間電話したときに、『事件を解いたですー!』とか言っていた気がするぞ」

「解けたんだ、トモちゃん」

「あれ?今考えるとおかしいな。トモのような単純なやつには解けないような事件だったはずなんだが」

解けないようにわざと何のヒントも無しにトモに挑ませたはずだ。

あそこの学校は異常者だらけだからな。トモはその『共振』の能力をうまく使うことができないだろう。加えてトモはそんなに賢くない。

だから、あの事件が解けるはずがないんだが……

裏で糸を引いている人間がいる可能性があるな。

該当人物は……君代先輩と、蒼子ちゃんの二人だな。

蒼子ちゃんは……よっぽどのことがなければトモに手を貸すような子ではないから、君代先輩か……

ありえるな。

俺は携帯を出し、君代先輩のアドレスを探した。

「もし事件を解いたっていうのが本当なら……トモが一人で解いたわけがない」

「トモちゃん……全然信用されていないんだ」

「トモは信用しているし信頼しているが、トモの頭は信用していない」

「それは信用していないと同じことじゃない?」

「そうかもしれないな」

そう言いながらもちゃんと手を動かす。

そして電話。

ツーコールの後、君代先輩は電話に出た。

『風間!!手前、今授業中だ!!ちゃんと時間見て電話してきやがれ!!』

ん?そう言えば今はそんな時間帯か……

学生じゃないから、時間間隔なんて曖昧だ。

君代先輩は今学校の先生をやっている。何の因果かトモと同じ学校だ。

……本当はトモが心配だから、信用における君代先輩がいる高校にトモを預けただけなのだが。

「どうも、久しぶりですね。先輩」

『久しぶりじゃねえよ!!あ?手前ら。何だその目は?教師が携帯を使っちゃっていいのかっていう目だな、おい?手前らだって授業中使ってんだろ!?生徒が良くて教師が駄目っていうことはねえんだよ!?いいから散れ!!』

「ははは、何かチンピラみたいなこと言ってますね」

『誰のせいだ!?ちっ、まあいい。それで用件は?』

「あ、今月ピンチなんで金貸してください」

ぶつ。

ツー、ツー。

リダイヤルを使って再び電話。

またツーコールの後、電話に出た。

「ははは、嫌ですよ先輩。冗談ですよ、冗談」

『冗談には聞こえなかったぞ。それで本当は何の用だ?』

「そうですね……真壁拓哉の事件」

『……』

「トモが解いたって言うんですけど、本当ですか」

本当はあなたが答えを教えたんじゃないですか?とは言わない。

君代先輩は感情が激しい人だから、何か気の障ることを言ったなら、例え地の果てに居ても追ってきそうだ。

『本当だよ。何だ?聞いてないのか?あの事件は私達も解いたけどね、あいつらもきちんと解いたんだよ』

「あいつら?」

何だ?トモは一人でこの事件を解いたわけじゃないのか?

『本当に聞いてないのか?全く。お前ら兄妹は……よくわからないな。お前の妹は、あの綾瀬と一緒に行動して、そして事件を解いたんだ。正確には事件を解決だな。解いたわけじゃなく解決しただけ』

「綾瀬?」

あの綾瀬と言われるが、その名に俺は聞き覚えがなかった。

綾瀬、綾瀬、綾瀬……

「昔、同級生にそんな名前の女子が居た気がします」

『それは昔だろ?今の綾瀬。今話題の綾瀬は男だぞ』

「それは俺の記憶の綾瀬とは違いますね」

『考えれば年齢も違うことに気付くだろう?』

「考えるのは仕事の時だけで充分なんですよ」

とにかく、その綾瀬って言うのが、おそらくこの事件が解けたキーパーソンなのだろう。

いや、解決させたと言っていたか。

「そいつは、面白そうなやつですね」

『確かに面白い奴だが……危うい奴だ。まるで昔のお前だよ。見ているだけで、恐ろしい』

「またまた」

『色』と『彩』の能力を持つ君代先輩が何を言う。

『本当に、お前そっくりだ。一度見てみるといい。ただし……』

君代先輩は一呼吸置いて、言った。

『壊すなよ』

「それは保証しかねます」

『そいつは私の生徒だ。それにトモにとっては大切な友達だ』

「あ、友達なんですか?トモと」

『そうだ。私達を敵に回したくなければ……今言ったことを守るんだね』

「努力してみますよ。それじゃあ先輩、また」

『次、間が悪い時に電話してきたら、敵と見なすよ』

「そいつはどうも」

君代先輩との電話を切った。

ふーん。成る程、綾瀬ね。

そして、トモに友達とはね。

「誰に電話してたの?」

「トモの学校の先生。一応『住人』。で、トモがその先生に答えを教わってないか聞いてみた」

「どうだったの?聞いていたの?」

「聞いてなかったよ。どうやら、友達と一緒に行動して事件を解いたらしいね。友達、ねえ」

あのトモに友達か……

トモも、進んでいないようで一歩一歩先に進んでいるんだろうか?

しかし、綾瀬か?

よし、今度自宅に帰ったら、トモにそいつを呼ばせてみよう。

どんな奴だろうか?

俺に似ていると君代先輩は言うが、俺と似ている人間などそういない。

いたとしても、そいつは最悪だ。

最悪に似た最悪。

そいつは一体どんな奴なのだろうか?

ジャジャジャジャーン。

「ん?携帯が鳴ってるよ?」

「そうだな……」

その表示を見ると……どうやら仕事の依頼のようであった。



その現場は、俺の自宅(白鳳神社)からそう遠くではないところであった。

ここなら、自宅から調べ回ることも可能だな。

これでしばらくはトモにつらい思いをさせなくて済みそうだ。

現場は西宮高校の最寄の駅。被害者は西宮高校の生徒。

被害者は電車に飛び込んで、死亡。

遺留品から西宮高校二年五組の飯田岡薫さんと判明。

普通に見たらただの自殺であるが……

俺は現場である駅を一通り調べ回った。

ふん……こいつは……厄介だな。

被害者が飛び込んだと思われる所を念入りに調べる。

「……どうだ?」

俺に事件の解決を依頼した年配の男(警察)が背後から声をかけた。

「なかなか厄介な事件だよ。単純じゃない」

「単純じゃないからって、また事件を解決しないとか言い出すんじゃないだろうな?」

「それはわからないって、何度も言っているだろう?理が無い事件だったら、裁くさ。理がある事件だったら、まあ知ったこっちゃないね」

「ちっ、お前が解かないおかげでどれだけの迷宮入り事件があると思っているんだ?」

「そこはお宅らが無能だからでしょ」

「うぐっ」

「とりあえず、今言えることは……」

一通りこの駅を嗅ぎまわってわかったことは……

「自殺じゃない」

「やはりお前ら『住人』の仕業なのか?」

「一緒にしないでくれ。だが、どうも俺ら『住人』の仕業らしいな。被害者の『恐怖』の匂いが残っている。自分から飛び込んだとは思えないな」

「またわけのわからないことを」

このおっさんにはいまいち俺の能力が理解できないらしい。

まっ、理解されなかったところで何ともないが。

「自分から飛び込んだわけじゃないんだが……しかし加害者の匂いが何も残っていない。加害者の殺意の匂いがこの駅には無いんだ」

「だからわけがわからないぞ」

そのままの意味なんだが……まあ説明してやるとしよう。

「例えばだ、被害者は加害者に押されて死んだとする」

「ちょっと待て。この被害者はそんな風には死んでいないぞ。周囲にいた人間に証言は取ったし、監視カメラの映像からもそれは確認してある」

「例えば、だ。それに周囲の人間の視点、監視カメラから逃れる能力があるかもしれないだろ?」

「あるのか?」

「知らない。興味もない。ともかくそんな能力があるやつが今回の事件を起こしたとしよう。そう思ってくれ」

「うむ」

「その場合、加害者の殺意が匂いで残るんだ。アドレナリンとかそういうやつだ。俺はそういうものを嗅ぎ分けて事件を解くんだが……この駅構内にはそれがない」

「それがない?」

「つまり殺意が無い。事件が起こったとき、少なくとも犯人はこの駅にはいなかった」

「そ、それじゃあ、どうやって?どうやってやったと言うんだ?」

「さあ、超遠距離から押したのか?それとも操作したのか……かなり遠距離から行なえる能力のようだな……これは捜すのが厄介だぞ」

現場を見ただけで解くことが出来ない事件、か。

久しぶりだな。こんな難問は。

「捜せるのか?犯人を?」

「さあ、やってはみるが……しかし期待はしないでくれ。まっ、解いた時だけお金をくれればいいから、後はこっちに任せて、そっちは適当でいいんじゃないか?」

ここでの情報は全て取り終わった。

俺はおっさんに別れを告げて現場を後にした。



「彼ら、解きますかね」

「……さあな」

「さあなって、それじゃあまた迷宮入りですか!?」

「確率は、高そうだな。今回もあいつらやる気がなさそうだったし。もっとも、やる気がありそうだったあいつらを見たことはないが」

「そんな……あちらの『住人』が起こした事件なんだから『住人』が始末すべき問題なのに!!」

「……所詮、あいつらは探偵だからな。始末屋じゃない」

「それはそうですけど……だからって」

「確かに、このままあっちの『住人』に好き勝手暴れられるのは癪だな」

「そうですよ!癪ですよ!」

「……もう一組、雇うか」

「え!?他にもつてがあるんですか?」

「あるにはあるんだが……そっちは少々問題なやつらでな」

「雇いましょうよ!あいつら今回も絶対に解かないですよ!もう一組雇いましょう!」

「しかし、万が一だな、あいつらと」

「大丈夫ですよ!お金は経費から落ちますし」

「いや、金の心配も確かにあるが…………まあそうだな。やつらなら、ちゃんと動いてくれるか。」


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