西宮高校の生徒 飯田岡薫
今日もいつもと同じ毎日だった。受験のために勉強……受験のために勉強……受験のために勉強。
学校では勿論そうだし、学校が終わってからも直ぐに予備校に行って勉強しなければならない。
本当に……ストレスがたまる。
このストレスをうまく解消しないことには受験生などやってられないだろう。
「……本当、何のために頑張ってるんだろうな、私」
それはいい大学に入るためだ。
私は一人っ子で、両親は私をいい大学に入れることで必死だ。
それが私のパラメータになると両親は言う。
でも実際には違う。それはあなたたちのパラメータになるのでしょ?
つまりこんなにいい大学に入れるほど、娘を育てました。そう皆に言いたいんでしょ?
大人は見え張りだからなぁ。それのために使われる子供はたまったものじゃない。
同じ状況を両親に味合わせてあげたい。
逆の立場で、私が勉強しなさいって両親に言って、両親は必死に勉強する。それで有名大学合格。私の鼻高々。
うーん。まだストレスが溜まっているのかな?下らない思考遊びをしてしまった。
大人はいいな。大人が昔どんなことをしてきたのか知らないけれど、今これだけ威張っているんだもん。私も早く大人になりたい。
『まもなく……線に』
電車が来るアナウンスが構内に流れた。
『危ないですから、黄色い線の内側に……』
子供じゃなければこの線から飛び出して電車にぶつかろうなど考えない。
あ、自殺志願者は別か。
私はその線である黄色いタイルを足で小突いた。
ごつごつしている。警告を表すためにごつごつしているのかな?
線路が揺れる音が、ここまで聞こえてきた。
はぁ。学校はもう終わったのだけどこの憂鬱感。予備校があるからだ。この電車に乗って、予備校に行ってまた勉強しなくちゃならない。
そう考えたら、やっぱり憂鬱だよ。
電車がもうすぐ到着する。
私は一歩前に踏み出した。
「……え?」
私の意志じゃなくて、私の意思に反して身体が勝手に動いた。勝手に一歩前に踏み出したのだ。
えっと……これは、その、疲れているのだろうか?
故に、その、身体をうまく動かすことが出来ずに、または待ちくたびれた(そんなには待っていないけど)電車に思いを焦がしすぎてフライングしてしまったのだろうか?
ともかく危ない。
後ろに戻らなければ。
私は一歩後ろに後退しようと……しようと……しようと……しようと……していたのに、また一歩前に踏み出した。
「え?え?」
何?これ?
私は今確実に足を後ろに動かそうとした。そういう命令を脳から発したはずだ。
それなのに、私の足は、また一歩、前に、踏み出した。
これ以上はまずい。
もう先が、ない。
これ以上踏み込んだら、線路に落ちて、しかも電車がもう迫ってきているのだから、間違いなく、死ぬ。
いやだ!死にたくない!
こんなストレスが溜まる世の中だけど、それでも死にたくない!
まだやりたいこと、やっていないこと、たくさんある!
私はもうなりふり構っていられず、声を出して助けを呼ぶことにした。
それが間に合わないといけないので、倒れこみこれ以上は足が進まないように……しようとした。
「……っ!……っ!」
こ、声がでない!?
身体も動かない!?
あったことはないけれど、まるで金縛り状態。
嘘!?私の身体、いつからこんな動かなくなっていたの!?
理解ができない。わからない。どういうこと?何が起こっているの!?
混乱する中、私の身体が少しだけ動いた。
それは私の意志なんかじゃなく、まるで操られているかのように、少しだけ動いた。
足が。
それは、その足は、何にもない空中に、投げ出そうとして……
この段階で、私は気付いた。
これは夢なんだと。
質の悪い夢だ。自殺する夢なんて病んでいるな、私。
そして私は空中に投げだされた。
ちょうど、電車が私に向かってきて、急停車しようとするけど、このスピードじゃもう間に合わなくて……
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「それで仏さんの身元確認は出来たか?」
「あれだけ遺体に損傷があったので、遺体からは無理でしたけど」
「遺留品があったろ?」
「はい。今から言おうと思ったんですよ。遺体の鞄と思われるものから生徒手帳が見つかりまして、西宮高校二年、飯田岡薫さんみたいですね」
「……西宮高校、二年だと?クラスは?」
「えっと、五組って記入されてますけど……」
「お前、一週間前にあった事件、覚えているか?」
「えぇ!事件なんていっぱいありますからね、どの事件のことですか?」
「同じように、自殺のやつだよ」
「同じように……ですか?」
「そう、一週間前。この駅ではなかったが女子生徒が同じように電車に飛び込んで自殺した。自殺だ。そういうことになっている。周囲の人間もそいつが自ら飛び込むところを見ていたし、監視カメラにもちゃんと映っていた。だから自殺だと思った」
「それ完全に自殺でしょ?」
「そう、だな。そう思った。だけどな、今日のこの自殺で、もしかしたら違うんじゃないかって思ったよ」
「どういうことですか?」
「……その自殺した女子生徒も、西宮高校二年五組のクラスメイトだったんだよ」
「え?このえっと飯田岡さんみたいにですか?」
「そうだ。同じ学校の同じ学年の同じクラス。何かないわけがない」
「それは、確かに異常ですね?でも、自殺でしょ?」
「いや、わからない。もしかするとあっちの『住人』が起こした事件かもしれない」
「あ」
「ちっ。あいつには頼りたくはないが、他に信用ができるやつがいないし、仕方がない」
「あいつに頼るんですか!?でも、あいつこの間も事件を解かないで、他の事件を解きにいっちゃった奴ですよ?信用できるんですか?」
「信頼はできないが、その実力は信用できる……とは言うものの、あいつはこういう事件嫌いそうだからな。この事件も、自殺っていうことで処理されて、真実は迷宮入りになるんだろうな」




