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第零話

タイトルが何度も変わる恐れがあります。よさげなタイトルが見つかるまでこの流れは続くと思いますが、ご了承いただけると幸いです。



 空に、まんまるの月が浮かんでいた。

 その周りでは小さな星々が瞬き、真っ黒の檀上を華やかな舞踏会へと変貌させている。


「来たか」


 とある中学校舎の屋上である。深夜となり完全に立ち入り禁止となったこの場所には、今は一人の少年以外の生命が存在しない。柵に飛び降りようと近づいてきた鳥も、そのフィールドに着陸しようとした瞬間、何かを思い出したかのように飛び去ってしまう。

 唯一屋上に立つ少年――。

 彼は、とても美しい少年だった。すれ違う人間すべてが、その美しさに振り返ってしまうであろう整った美貌。ひどく若い男だが、その幼い顔つきにはどこか色気がある。服装によって性別を変えてしまえそうなほど華奢な体は、しかしよく見ると余分な脂肪がついていないだけで、薄く強靭な筋肉に覆われていた。


「やはり貴様だったか」


 誰も近寄ることができなかったこの屋上に、新たな客が訪れる。それは少年の二倍ほどの背丈を持った男だった。腰まで伸びたその美髪はあでやかな女性の姿を連想させるが、それは違う。あくまでも、彼は、纏う雰囲気に凛々しさを滲ませた男性である。


「なぜ裏切った?」


 少年は問いかける。その声には感情がない。否、その声には無理やり感情を押し殺しているような雰囲気があった。

 だが、それも致し方ないことだろう。

 目の前にいる男は、かつてはともに仕えた《大地神ユグドラシル》を裏切った存在で、しかし、少年にとっては憧れの男性そのものだったのだから。


「お前にも、いつか理解できる時が来るだろう」


 目を閉じて、己の思いを空気に浸透させるかのように、男は静かに答えた。


「そんな未来は永劫に来ない」

「そんなことはないさ。愛は偉大だよ、十六番目の騎士イクシオン」

「…………」


 少年は黙って男の瞳を見つめた。その瞳には迷いはなく、強靭な意志を秘めていることがすぐに分かった。

 だが、そのせいで少年の心は揺らぐ。その強い眼差しが、男性に憧れた理由だったのだ。戦いのときにのみ見せる目つき。神へとその身命を捧げた男の決意。そのときと同じ目をしている相手に、本当に『裏切り者』という言葉は相応しいのだろうか?


「いや、こんなものただの戯言か……我々《十六将》は大地神の命のみを信じて戦えばいい」


 男は悲しみの表情を浮かべた。少年はそこに、憐れみが混じっているのを見た。

 男は口を開く。


「お前も、本当は分かっているんじゃないのか?」

「なにをだ?」

「愛を。愛の尊さを」

「……それも戯言だ。しかし、これで理解した。我々はもう、後戻りは出来ないほどに関係が壊れてしまっているらしい」

「……だとしたらどうする?」

「お前を殺す」

「そうか。ならば、俺も抵抗しなくてはならないな。未来のために」


 二人はお互いに戦闘に備えて身構えた。男のほうは腰に下げていた長さ二メートルほどの刀を鞘から抜いた。真っ黒に染色された刀身は、月光を浴びて怪しく光る。

 対して、少年は何も装備していなかった。しかし、それは相手を軽んじているわけではない。それが彼の戦闘スタイルだったのだ。


「いくぞ、イグナイト」

「……裏切り者が、私をその名で呼ぶな――っ!」


 その怒号と同時に、男が突進した。黒い刀の周囲には幾多の魔方陣が浮かび上がり、その刀の持つ威力を強化していく。黒い焔が刀身を包み込む。

 必殺奥義――修羅の黒炎。

 男の使える最大攻撃力の技。

 一撃で戦いを終わらせるつもりであることが、少年にはわかった。


「ならば、その刀ごと貴様の志を、私が一撃で砕いてくれる!」


 少年もまた、前方に向かって突撃した。


「おおおおおおおおおおおおおお!」


 二人の方向が重なった。しかし次の瞬間。


「なるほど……激昂して見せたのは、ふりだったか」

「……ああ、私では普通のやり方では貴方を打ち滅ぼせないから」


 二人が接触する前に、男がその場で崩れ落ちた。

 彼の腹を、五本の巨大な枝が貫通していた。

 巨大な枝。植物を自在に操る魔術こそが、少年が大地神から与えられた権能だったのだ。

 男の命は、崩壊したダムの水のようにコンクリートの上に流れ出ていく。


「ふ……俺たちの血も、人と同じ赤だったのだな。なあ、イグナイトよ。俺の最後の願いを聞いてはくれないか?」

「…………いいだろう」

「あの人に、約束は守れそうにないと……そう伝えてくれ」


 それだけ言って、男はこと切れた。

 そして、その死体は土に還り、そばには小さなロケットのみが残された。

 その中には、男と、美しい女性が微笑み合った写真が収められていた。


++++++++++++


 朝。

 目覚まし時計が、朝の到来を告げている。

 自分の部屋のベッドの上で目を覚ました少年――五鈴篝いすずかがりは、目のあたりを右手で覆った状態で呟いた。


「……最悪な夢を見てしまった」

12/25 第零話として別の話を差し込みました。よって、元々一ページ目だった部分が第二ページ目に移行しています。

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