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りあるR・P・G  作者: 吉本ヒロ
旅の仲間たち
9/12

スノーヴィアの聖女2

村の外れにある風車塔の頂点に程近い窓から子供を人質にとり、叫ぶ男性がいた。


「この村に勇者を名乗る人間がいるはずだ! このガキを死なせたくなければ今すぐに出て来るがいい!」


「……有名になる事なんて何もしてないはずなのに、俺の知名度上がるの早くね?」


「ああ、きっとそれは王様が勇者が魔王退治の旅に出たと大々的に宣伝していたからですね。だからどこからか貴方の旅先に関する情報が漏れて魔王の手下が来たのだと推測できます」


「なんだよそれ、メッチャ迷惑じゃん。宿代とか一般人扱いで普通に払わされるのに、敵からはVIP待遇でご指名入るとかやめてくれよ」


シリウスがこともなげに答えたが、たしかに迷惑ここに極まれり、だ。


昨日の戦闘では、途中からシリウスや勇者もきちんと参加していたこともあり最低限の経験値は貯まっているが、未だにレベルはたいしたことない。


そもそもこのゲーム、ステータスは装備品による影響も大きい。村や町を拠点とし、その近辺でのみ安全性重視で育てようとしたのに、初期装備同然の状態でボス戦は勘弁してほしいものだ。


そんなことを思っていた折、剣を携えていたからか勇者を見て見知らぬ老人が声をかけてきた。


「見知らぬ旅のお方、突然の失礼を存じてお願いします。どうかあの子を助けてやってくださらぬか」



はい

いいえ



「ここは当然『いいえ』だろ」


「いやいやいや、ちょっと待とうか。お前仮にも勇者なら迷わず『はい』だろ。そんな奴じゃない事は分かってるけど、目の前で困ってる一人の人間が救えない奴に世界が救えるか! 的なノリだろ」


「そんな熱血展開が好きなら少年ジャップでも読んでろよ。悪いが大人な俺はヤングジャップなんだ。それに目の前の人間を救っても各地で同じように困ってる人は何人もいる。それなら元凶の魔王をさっさと退治した方が多くの人が救われるだろ」


ニヒルな笑みを浮かべて決め顔で正論を言いやがった勇者がやけにウザい。

「なんじゃ、お前さん。突然わけの分からんこと話し始めて頭がおかしのか?」


「んなわけあるか! 爺さんは黙って――」


「ええ、ちょっと彼は頭がちょっとアレなんですよ」


が、勇者の決め顔はすぐに崩れた。そして珍しいことに、シリウスが勇者の言を遮って間に割り込む。


日頃の鬱憤を晴らすためか、仲裁しながらどさくさに紛れて言いたい事を言っているようだ。そしてまだ背後で色々と喚いている勇者の声を遮ったのは、遠慮がちな女性の声だった。


「……ええと、私も今何か聞こえたような気がしたのですが……やはり気のせいなのでしょうか?」


そう言って出てきたのは、先程見かけた、純白の修道服に身を包んだマリアだった。


「おお、とうとうお主もその領域にまで達したか。まさか神の声を聞くことが出来ようとは。いや、だがお主の日頃の善行を思えばそれも遅すぎたのかもしれんな。なにはともあれとてもめでたいことじゃ。ワシも村長として鼻が高いわい」


「そ、そんな……」


謙遜するマリアだが、お構いなしに村長が担ぐ。


しまいには他の村人までもが賛同し、ありがたやありがたや、と言って拝む者まで出てくる始末だった。


「なあ、これ温度差激しくね? 一メートルも離れてないのに、ここだけ北極なんだけど。すぐ隣は陽気な南国なのにここだけ極寒な不毛の地なんだけど?」


勇者が未だに何か言ってるが、もはやとりあう者など誰もいない。皆が修道女の周辺に集まり、いつの間にか押し出され、その輪の中から溢れた勇者は無駄を悟ったのか話すこともなくなった。


「もう帰っていい? 俺もう帰っていい?」


急に相手にされなくなった勇者はいじける。が、相手にされなくなったのは勇者だけではない。


「私を無視するな、貴様ら! このガキがどうなってもいいんだろうな!」


いじけた勇者とは対照的に、こちらは地団駄を踏み、怒鳴ることで強引に注意をひきつける。


実際、こちらは無視するわけにもいかず、再び村長が勇者に頼みごとをする。


「見知らぬ旅のお方、突然で失礼を存じてお願いします。どうかあの子を助けてやってくださらぬか」


「……さっきまであれだけ無視しといて都合よくね? 爺さんも見知らぬ旅のお方とか言ってるし、実際あそこで叫んでる奴も含め、誰が勇者かは分からないんだろうからトンズラしてもバレないバレない。そこらへんの村人Aにでも勇者名乗らせとけよ。と言う事で悪いな、爺さん。まぁ幸運を祈ってるよ」


そう言って背を向けて歩き出した勇者の前に村長が回り込む。


「見知らぬ旅のお方、突然で失礼を存じてお願いします。どうかあの子を助けてやってくださらぬか」



はい

いいえ



そして再び現れる選択肢。


「さっき『いいえ』って言っただろう!」


そう言って再び背を向けて歩き出した勇者に、再び村長が回り込む。


「見知らぬ旅のお方、突然で失礼を存じてお願いします。どうかあの子を助けてやってくださらぬか」


「…………絶対退く気ないよ、コレ。……だが断る!!」


そんなくだらない意地の張り合いを十回ほど繰り返した後で、懲りずに村長もまた回り込む。


「見知らぬ旅のお方、突然で失礼を存じてお願いします。どうかあの子を助けてやってくださらぬか。――いい加減にしないとここで『いいえ』を選べば村人全員の恨みを買い、この村を出るまで村人全員を相手することになるがどうじゃ?」


「……今度は脅しが来たよ。むしろ俺じゃなくてあの塔の上で喚いてるやつに攻撃しろよ」


「なぁ、勇者。お前がここでいいとこ見せるとマリアさんの好感度とか上がったりするんじゃね?」


「っば、お前、それを早く言えよ。お前にしては珍しく良い意見だからそれ採用で。爺さん、ここは俺に任せな!」


そう言うや否やシリウスとミアの何かを告げてさっそく塔の真下まで颯爽と歩きだす。


まったく、何か褒美がないと動かないのだから世話が焼ける。


「我は魔王軍四天王の一人、練金のデュノ。貴様が勇者のようだが……ハハハ、どうやら随分と人間は人材不足のようだな。貴様のような貧弱な体、死んだ魚の方がまだ活きていると言えるほどの腐りきった眼、才気の欠片も感じられぬオーラ。どれをとっても貴様が魔王様に、いや、私にさえ勝てる要素が見当たらぬわ」


群衆から一歩出てきた勇者に気付いたか、敵のボスもまた名乗りを上げる。いや、それは名乗りではなく、ただの嘲笑だった。だが塔の窓から勇者を見下ろしながら高笑いをする魔族に対し、勇者は見向きもしない。そのままやる気なげにゆっくりと塔の入り口にあたる扉を開き、一人で入っていく。


……そして一分もしないうちに出てきた。


「おい、お前いくらなんでもやる気なさすぎだろ。失敗するにしてももうチョイ頑張った的な感じなんかないの?」


「ははは、見たか? 勇者めは一層も突破できずにのこのこと引き返しおったわ」


そんな勇者を見て魔族は横に立つ部下と高笑いをし、村人たちには目に見えて動揺が走る。


そんな周囲の反応はお構いなしに、勇者が手を挙げた。


「不可視の刃よ、我が敵を切り刻め。ウィンドカッター!」


それを合図にシリウスが魔族に狙いを定めた風刃を放つ。が、見えないとはいえ、魔法を放つ挙動でだいたいの狙いは予想がついたのだろう。デュノのバックステップが間に合い、奇襲は失敗に終わる。


だがそれだけじゃない。いつの間にか裏へ回り込み、ロープを使って塔の最上階よりも高い場所――屋根の上で待機していたミアが窓から中に飛び降り、子供を抱えてすぐに飛び降りた。子供と村人から上がる悲鳴もそのままに、地面はかなりの早さで近づいていく。


「風よ、熾れ。ウインドブラスト!」


だが地面と接触する前にシリウスが風の魔法を唱え、落下速度を軽減する。

「まかせたにゃ!」


ミアは勇者へと子供を投げた後で四肢を柔軟に使い着地を決めた。


勇者が無事に子供をキャッチしたことでワッ、とあがった歓声とともに広場が湧き、あちこちで拍手が上がる。


「っく、おのれ勇者! だがこれで終わったと思うな。私の所に辿りついてみせろ。その時に私直々に引導を渡してくれる!!」


「あー、みんな離れて離れて」


勇者は言葉とともに腕を押しだすようなジェスチャーで距離を置くように指示を出す。そんな勇者の指示に興奮醒めぬ様子でどこか困惑しながらも、みんなが塔から離れる。


「……あれ、おい勇者! 貴様私を無視する気か!? …………ふ、ふふふ。フハハハハハハ、バカな奴め。貴様の狙いなどお見通しだ。この私が兵糧攻めに対する備えを怠っているとでも思ったのか? 甘いわ勇者! 私がその気になれば貴様など――」


「ふぁいあー」


長ったらしくも気迫に満ちた魔族の声を遮り、それとは正反対の勇者のどこか気の抜けた声とともに放たれた火の玉が、開けっ放しになった入口に吸い込まれるように消えて行った。


一瞬の静寂の後、大地が震え、鼓膜が破れんばかりの音が全ての音をかき消した。


さっき入った時に爆薬でも仕掛けていたのだろう。あまりの衝撃に何人かは立っていられずに膝をつく。悲鳴を上げている者もいるようだが、爆音のせいで音が上手く聞き取れない。


それからどれほど経っただろうか。風車塔がゆっくりと後ろへ傾斜していき、ズゥゥウウン、という重苦しい地響きとともに倒れた。


やることだけは容赦ないというか、変なところでスケールがデカいというか。たいした苦労もなく、敵をボスもろとも一掃してしまった。


呆気にとられ静寂に包まれた広場で、救助された子供が母親の元へと駆けより、声をあげて泣く。それをきっかけに誰からともなく拍手が沸き、それはすぐに大歓声へと変わっていった。


口笛を吹く者、囃し立てる者など様々だが、皆が惜しみない称賛を勇者達へ与える。


「動くな!!」


そしてその歓声にも負けない、空気を引き裂く鋭い声。そこには倒したと思っていたデュノが不用意に風車塔の残骸へ近づいた別の子供を人質にとっていた。


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