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りあるR・P・G  作者: 吉本ヒロ
旅の仲間たち
5/12

戦闘

「それで、お前役に立つのかよ?」

王都で有り金の大半と引き換えに一通りの装備を整え、宿屋で一泊した後で王都から出立する。

王都を出て街道沿いを西へと行く道中、さっそくパーティーメンバーに加わったシリウスへ勇者が問いかける。

「僕とて栄えある宮廷魔術師の一員です。これでも同僚の方からは様々な魔物の研究において一定の評価を得ていると自負しておりますよ」

「…………え?」

「…………はい?」

返ってきた答えは予想外のものだったが。

「研究職かよ!!」

「今すぐチェンジ! まだクーリングオフが間に合うはず!」

「だ、大丈夫です、安心してください! 体力がなかったから研究職に配属されただけで、魔法の扱いにおいても他の方より秀でていると自負していますから」

「使えねえって分かったら盾扱いにしてやる」

勇者が物騒な事を言っていたが、それも仕方ないだろう。正直勇者に続いての不安要素ではあるが、人数はそのまま力にも繋がる。様子見も兼ねてこのまま同行させた方が良いだろう。戦力にならないと分かったらせめて早々に王都まで送り返そう。

そんなやりとりをしながら王都を出て数キロ程歩いたところでモンスターに出くわした。王都近辺ということもあり治安もいいはずだが、この近くには森があり、そこから迷い出たのだろう。

「お、これってもしかして記念の初戦闘? ここはサクッとやって格の違いを教えてやるかな」

画面が暗転し、BGMが勇ましく、気分が高揚するものへと切り替わる。

これだよ、これ。これを待っていた。イベントもいいけどやっぱり自分の手で指揮する戦闘こそがRPGの醍醐味なのだ。

初の戦闘ということで最低限のチュートリアル――攻撃と防御にスキル、そして勝てそうになかったら逃げましょう、といった文句の後に戦闘が始まる。

野生の狼のような敵――全長三メートル程のウェアウルフが一匹だけ出て、牙をむいて唸っている。

初めての敵だからこそ、ここは王道のスライムの方が雰囲気は出ると思ったが、それはじきに出てくるだろう。隊列は基本通りに勇者が前衛、シリウスが後衛。目立った問題はない。

それらを確認し、心の中で小さく気合を入れる。

「俺は負けねぇ!!」

へぇ、と思わず感心した。

どうやら気合を入れたのは自分だけではないらしい。

自分の命が懸っているから当然と言えば当然なのだが、珍しくやる気になったのか、勇者が気合を高めて叫ぶ。

「と言う事で何もボタンを押すなよ。コマンド式だから押さなきゃ負けることはない」

……どうやら気のせいだったようだ。

勇者の言う事は無視して、さっさと攻撃しよう。

「ッチ、こうなったら必殺!!」


にげる

にげる

にげる


「なんでコマンドが『にげる』しかないんだ!!」

「ハハハ、見たか。これが勇者の力だ!!」

……確かに勇者の力だったようだ。

どうやったのか知らないが、元々少ないMPがすごい勢いで減っていき、数秒後には予想通り、通常のコマンドが覗く。

「ゼーハーゼーハー。……分かった。それならせめて『にげる』でお願いし――」

闘いが始まる前から肩で息をする勇者が滑稽な姿を晒している。

体こそ大きいが、相手は野犬のようなものだから大差ないはずだ。相手は一匹だけだし特別なことはしなくてもいいだろうとタカをくくり、何の躊躇いもなく全員『ガンガンいこうぜ!!』を選択してコマンド入力を終える。

戦闘コマンドを選択したときに勇者が「戦いたくないんだけどー。本当に逃げなくてもいいのか?」なんて言っていたがやる気のない勇者は完全に無視。

前回の戦闘で見直したが、どうやらジャイ○ン映画版くらいに珍しい現象だったのだろう。


『いのちをだいじに』勇者は身を護った。

『ガンガンいこうぜ?』シリウスはファイアを唱えようとしたが、緊張のあまりに呪文の途中で嚙んでしまい、魔法が唱えられなかった。


「ちょっ、指示どおりに動けよ! 野生値の残った魔物かよ! なんで初戦の雑魚相手で勝手に防御なんてしてんだ!? どうせ一撃でやれるような相手なんだからどう考えても攻撃だろ!! しかもシリウスもなんでこんなタイミングで嚙むの!? 勇者はやる気がないからこその頼みの綱なのに」

最初の攻撃はウェアウルフからだった。まぁ狼みたいな外見だし恐らく素早さだけ高くて攻撃力、防御力は低いのだろう。それにこちらはこちらでもたついていたし、精神的に弱い魔術師にやる気のない勇者、先制攻撃をされるのはしょうがない。


ウェアウルフの攻撃。

シリウスに683のダメージ。

シリウスは戦闘不能になった。


…………どうやら一撃で()られる相手だったようだ。

「アレ? これも設定ミスかお前みたいな何かのバグだったりするの?」

100にも満たないHPを示すバーが一瞬でなくなった。オーバーキルにもほどがあるだろこれ。

「誰がバグだコラ。どさくさに紛れて言いたいこと言ってくれやがって!」

「似たようなモンだろ」

実際始めたばかりの頃はバグだと思ったし、プレイしている今も、その説は根強く残っている。

「……て言うか勇者、さっきウェアウルフが襲いかかった時に道開けなかった?」

「そりゃコマンドが『いのちをだいじに』だしな」

「そういう意味での『いのちをだいじに』かよ!! そこは防御してシリウスの盾にくらいなれよ!!」

「いや、やっぱり『自分』の『いのちをだいじに』だからね。あんなゴミみたいな役立たずを命がけで護るなんてバカのすることさ」

「やる気のないお前と違って一応必死で呪文唱えてたから! 役には立たなかったけどあの子なりに頑張ってたから!」

「結果がすべてだよ。結局何も出来ずに死んだんだから意味がないさ。いや、盾になったから一ターンは稼げたか」

「ならその間に攻撃でもしておけよ! 稼いだターン無駄になっただろ!」

「だから今、その稼いだターンで逃げてんだよ! ウェアウルフ相手じゃ分が悪いけどな!」

シリウスを襲っている間に逃げ出しても所詮は数秒のハンデでしかない。逃げる勇者に気付き、追い掛けたウェアウルフと逃げる勇者の差はあっという間に縮まっていく。

「…………っクソ! これでもくらえ!」

あと数秒もすれば追い付かれる、そんな時、走りながら懐から小瓶を取り出し、力いっぱい地面へと叩きつける。小瓶の破片と共に粉が舞った。

ウェアウルフの位置は小瓶が割れた地点までまだ十メートル以上ある。

それなのにウェアウルフは即座に反転し、森の中へと真っ直ぐに、それも勇者を追っていた時以上の速さで駆けて行き、姿を消した。

後には地面に倒れ込んで激しい呼吸をする勇者と、離れた所で棺桶に入っているシリウスだけが取り残されていた。



「で、結局アレは何だったんだ?」

口論の末、仕方なくシリウスが入った棺桶を引きずりながら王都へと戻る勇者に、ウェアウルフを退散させた道具の正体を聞いてみた。絶対的優位の状態からあれだけ必死に逃げていたのだ。興味を持つな、という方が無理に決まっていた。

「あれは俺がまだ引きこもってた頃、実験を兼ねて造ったものでな。新鮮、搾りたてのミルクを十日間太陽に晒し、その他特別な草、発酵させた魚等を乾燥させ、砕いて粉にし、それらを混ぜ合わせたものだ。俺でさえあまりの臭気に作業中は何度気を失いそうになった事か……」

しみじみと語る辺りに勇者の苦労が滲み出る。人間の何千倍もの嗅覚があるであろうあのモンスターにとっては生と死の狭間を彷徨うことにもなりかねない。

「それにしても……、だから逃げなくていいのか、って聞いたんだよ。始めから逃走状態に入っていて、どこかの無知蒙昧なバカが余計な事に思考を割かせなければ、シリウスの犠牲もなかったかもしれないのにな」

一歩一歩踏みしめるように、ゆったりとした足取りで棺桶を引きずりながら勇者のぼやく声が聞こえてきた。

「いや、つーかそもそも何で始めに遭遇する敵がこんなに強いんだよ!? イベント戦でもないんだから普通に無理だろ! どこでレベル上げすればいいんだ!」

確かにこの世界に住む勇者の指示に従わなかったのは僕に責任があるかもしれない。しかし何作ものゲームをプレイしてきたからこそ言える。はたして誰がこの結末を予測出来ただろうか? あからさまなイベント戦やボス戦でもなければ、自分の指示を間違えた、というわけでもないのだ。

「人生そうそう上手くはいかないってことだ。敵が主人公の強さに合わせて段々と強くなっていくご都合主義なんてありえないから」

「うざっ、起動して数時間のゲームに人生語られたし。しかもゲームだからこそご都合主義は成り立つはずなのに」

しかしどうする? 念のため王都を出る直前でセーブはしていた。しかしこのままだとフィールドを全くうろつく事が出来ないから経験値稼ぎはもちろん、ゲームを進める事も出来ない。

「なぁ、それじゃあどうやって経験値稼げばいいんだ? 正直無理だろ」

「訓練所に行って人間相手に鍛えるか、外のフィールドで雑魚モンスターを狩るかの二択だな」

「雑魚モンスターにはさっき狩られたばかりだろ。それよりも訓練所みたいな便利な施設あるなら早く言えよ」

「訓練所は利用するのに金がかかるぞ? それに引き換え雑魚モンスターなら弱い奴も出るから多少の運もいるが経験値は稼げるし、素材が手に入れば売って金に出来る」

「お金……掛かるんだ。参考までにどの位?」

「安いが少なくとも今後のことを考えればこんな所で消費するのは許されない程度の値段だな」

……どうやら雑魚モンスターを相手にするしか方法はなさそうだった。

「さーて、ここで説明書にも載っていない、誰か死ぬと明かされる完全に未発表な裏設定。じゃじゃーん、なんとこのゲームで全滅すると…………………………」

「長げぇよ!! それで全滅すると何なんだよ!?」

「ホント近頃のガキはキレやすく、しかもせっかちだな。しょうがない、教えてやるか。……何と最初からになりまーす」

「……………………は? 最初からって最初の村からってこと?」

「まあそーゆーことだね。勿論レベルも所持品も何もかも、な」

確認しようとした事も先手を打って先を越されてしまった。

そして続いた言葉は、前の言葉以上の衝撃を与えた。

「さらに言うなら俺は勿論、パーティーメンバーも違う人間になるし、同じ人間だとしても性格が変わる、つまり違うキャラに代わるからもうこのパーティーで戦う事はなくなる」

「……それって何? いつもの冗談にしちゃ笑えないぞ。言っていい冗談と悪い冗談がある事くらい分かるだろ。さすがにそれには騙されないって」

「分かるからこそ、だよ。残念なことに、この俺様の高度なAIを以ってしても逆らえない程度には強制的に言わされてるんだよね。つまり変えようのない事実」

勇者の言葉には、冗談じゃ出せない確かな重みがあった。平然と言ってのけるのは勇者がCPUだからか、それとも精神力で消滅の恐怖をねじ伏せているからか。

「ふざけんな!!」

「オイオイ、クリア―出来そうにないからってゲームに当たるなよ」

思わず怒鳴ってしまい、自分の声の大きさに驚く。

だが平然とした勇者の、どこか呆れた声を聞いて余計に怒りが募っていく。

「…………なんで、なんでお前はそんなに平気なんだよ! お前は死ぬことが怖くないのかよ! 生きていたくないのかよ!!」

「そうは言っても俺は作られた存在だからな。いくらでも代えがきく」

「っつ!?」

ようやくなのだ。ようやくこの勇者の事を少しは好きになりかけて、ようやく少しずつこのゲームにも慣れてきた。

言いたい事は、きっと言わなければいけない事はたくさんあった。だが、どこか自嘲気味な勇者の笑みに思わず言葉を失い、何も言えなくなってしまった。

言えるわけがないのだ。自分はあくまでプレイヤーでしかない。同じ死の重みを背負う事はなく、そもそもが同じ土俵に立つこともない。勇者との間には二次元と三次元を隔てる壁のように、越えようのない溝があった。

「あ、一応言うと勿論普通のセーブとロードは可能だから。ただ戦闘中に消したりすると負けってことになるから気をつけて」

勇者はこちらの想いにはお構いなしに、あくまで気楽な口調で話し続ける。

既存のゲームに対する常識が通用しない、ゲームバランスの崩壊しているこの世界でたった一度のミスも許されない、と言うのはあまりにも過酷ではないのだろうか。

いや、本来は一回きりの命なのだから全滅以外なら大丈夫、という点ではまだマシと言うべきなのか判断がつかない。

今までプレイしたゲームで、死なずにクリアー出来たものなど一つとしてない。

地道なレベル上げをあまりしなかったこともあるが、必ずどこかで反則じみた敵や、特殊な弱点をつかないと倒せない敵が出てきた。それなのに、序盤からこれ以上死ぬわけにはいかない。

生かすも殺すも自分次第、となってくると今まで感じることのなかったプレッシャーさえ感じてくる。

この事を聞くまでは敵と遭遇すれば逃げの一択。素早さで勝てないため成功する確率も低く、一度逃げるが成功すればセーブの繰り返しで、どうにか今のレベルでも倒せる敵が出現する場所までたどり着くことも考えられたが、今は王都へ戻り、別の方法を探すしかなくなった。

「あと、戦闘システムは自由に変えられるぞ。RPGだから親しみやすいと思って初期設定はドラ○エ風にしたようだが、他にもテイ○ズ、最後と銘打って十本以上出ているファンタジー、全三種類だ」

「そういった大切なことは早く言え! ……しかもこれって冷静に考えると実質二択だよな!? まあいい、少なくともおまえは直接操作しないと……しても言うことききそうにないが、一番マシっぽいテ○ルズでいかせてもらうからな!」

「本当にマシだと思うのか? 一度として敗北の許されない連戦に次ぐ連戦、はじめて戦う予測のつかない敵、そんな奴らを相手にして攻撃モーション、弱点なんかを瞬間的に判断し、生き残れるのか? もし負けたのなら全てを自分が背負うってんなら何も言わないけどな。お前には大雑把なド○クエがお似合いだって」

「大雑把になればなるだけお前、言うこと聞かないじゃん」

「いやー、分からないよ? こういうのって信頼関係が大事だからさ、むしろ俺を認めたからこそのドラ○エって判断したら、バンバン言うこと聞いちゃうかもよ」

「実際、ターン制は基本ステータスがある程度釣り合っている事が絶対条件になる。ステータスで圧倒的な差がついている以上、生き残るには攻撃をもらうことなく、一方的に攻撃し続ける必要があるから実際は一択しかないだろ」

今の窮地を切り抜けるため、現状を整理し、瞬間的に、冷静に最善の回答を導き出す。一見今までのゲームの常識が通用しない、ある程度現実の法則に則ったゲームとして考え、バランスの破綻したゲームとも思えてくるから現実の常識で考えがちになるが、あくまでもゲームの世界のことだ。根っこの部分はゲームであり、FPS、RPGを始めとする様々なゲームから得た経験則が生きるはずだ。

どうすれば生き残れるか、頭をフル回転させてそんなことを考えていた時に、危うく聞き逃しそうになるほどの小さな声で勇者が呟くように言った。

「お前は、俺でいいのか?」

その時の勇者の顔は、なぜか迷子の子供のようだと思った。

救いを求めて誰かに縋り付きたくて、でも誰に、何に縋ればいいのか分からないから虚勢を張って何でもないような顔をする。……そんな子供に似ていると思った。

「言っただろ。俺は数万を越える敵を倒し、更には魔王、またはそれに準ずるラスボスを数十人と屠ってきた。それに、僕にとってこのゲームの主人公(ゆうしゃ)はお前しか知らないよ」

「……っ!?」

こんな時に何て言ったらいいのか分からず、一言しか出てこない。

それでもこれは、僕にとって偽らざる本心だ。たとえゲームであっても、誰かが死ぬ事は悲しいし、それが僕の責任になるのだとしたら尚更死なせたくはない。

それにここで負ければ、それは僕にとって取り返しのつかない明確な敗北だ。

だから勇者たちを死なせないために、次にとるべき行動は一つだった。

「とりあえず、王都に戻って情報収集だ」

とにかく情報が足りない。

何か王都で情報の収集と対策を練らないと先程の二の舞だろう。

「…………ダメ元で聞いてみるけど、某赤い帽子の配管工みたいに一機アップするキノコとかないのかよ?」

「逆になくなるのならあるぞ」

「それはただの毒キノコだろ!!」

「そうとも言う」

「そうとしか言わねえよ!」


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