幕間
――そのころの魔族領。
「デュノが勇者を名乗る者にやられたらしいの。しかしあのデュノを打ち負かすとは少しは骨のある人間もいるようだ。伊達に勇者を名乗ってはおらぬな」
瞑っている右目の上に走る古傷を負った、見るからに実戦経験豊富な古兵といった風体の男は、発せられた声には淡々と答えながらも隠し切れていない、否、隠そうともしない戦意をもう片方の目に映して呟く。
「だが所詮は四天王最弱の男です。いくら勇者を名乗ろうと、私の策略の前では大人と赤子程の差があるのは明らか。相まみえた時にはせいぜいいたぶってじわじわと削るように殺してあげますよ」
やせ細った目の細い、狡猾そうな男が眼鏡の真ん中を二本の指で持ち上げ、ズレを修正する。
「あら、いい男なら私の相手をお願いしたいわね。すぐに逝ってばかりのつまらない男が多くて退屈してたの。勇者は何分耐えられるかしら」
思わず魅入ってしまうような豊満な肢体をくねらせ、纏う双蛇と共に舌舐めずりをする妖艶な女がクスクスと笑う。
彼らはそれぞれが残された四天王の三人、武、智、美を司る魔将だった。
が、残念な事にページの都合……もとい大人の事情で四天王は出てきません。
「「「なに!?」」」
見えないはずの地の文に、一斉に反応した残りの四天王が叫ぶ。さすがは四天王、といったところか。
「ちょっと、こんなムサイ、勇者にコロっとやられるような男たちなんてどうでもいいけど、私まで出さないってのはどういう了見よ!」
「それは聞き捨てなりませんね。私の策略にひれ伏す者ならいるはずですが、品性の欠片も感じ取れない雌犬に惹かれる者などせいぜい野良犬くらいですよ」
「あら、私なら勇者を殺すことも骨抜きにしてやることも簡単よ。その際にサービスシーンの一つでも入れればこの本を読む、私達には感知できない者まで虜にして、この世界を存続させるための圧倒的な支持まで取り付けてみせるわ」
「なんですか? 訳の分からないことを言い始めて、とうとう痴呆が始まりましたか。外見の年齢を何歳誤魔化しているのか知りませんが、中身までは偽れなかったようですね」
「言ってくれるわね。そういうアンタこそ魔法はそこそこ使えるみたいだけど、純粋な武に関してはデュノといい勝負じゃない。私なら接近戦に持ち込んで苦しむ間もなく殺してあげるわよ」
ははは、と高笑いを始める智の魔将に、美を司る魔将が手に持つナイフを逆手に構えて食いつく。
「そうさせないための智です。もっとも、すぐにシモに直結する、脳の容量が一キロバイトもないようなおばさんには真の智を理解できるはずもないですけどね」
「一キロバイトってなによ! そんなのミジンコ以下じゃない! アンタこそ少しでも計画が狂ったらすぐに慌てふためいて対応出来なくなるくせに! 知識だけで知性がない者が智を司るなんてそれこそお笑い草だわ」
「私の精密な計画が狂うことなど――」
「やめい!!」
二人の口論を打ち消すに足る、一際強い声が狭い空間に響く。そして今後の進展について語り始めた。
「今からそんな下らん事を口論しても仕方があるまい。それよりも今は――」
――ですがページの都合……もとい大人の事情でカットさせて頂きます。
「え、今からがワシの出番で……ちょ、ま――」
いや、きっと出番ありますよ?
多分、いずれは・・・




