勇者?
他人の目から見てどうなのかを知りたいので、もしよろしければアドバイス、感想等お待ちします。
冒険をしよう。
誰もが夢を見るような、心躍る冒険。
ダンジョンに潜り、罠を掻い潜って宝を見つけ、強敵と戦う。
宿で飲み、騒ぎ、英気を養い、泥のように眠り、また新たな1日を全力で生きる。
その日、その場所、その瞬間にしか見ることの出来ない風景を見て、その一瞬一瞬を心に焼き付ける。
それはきっと誰よりも自由で、何よりも楽しく、スリルに満ちた世界。
今までにない感動を体験し、時として命を懸け、仲間と出会い、――そして別れる。
そうして未熟な少年少女は一つ一つの経験を積んで成長し、大人になる。
勇者と、個性的な愉快で楽しい仲間たち。
これは、そんな仲間との長く短い物語。
これは、僕とその仲間だけが知る冒険。
これは、そんな僕たちだけの冒険記。
そんなキャッチコピーが、生活のあちこちで見かけるようになって半年。
その間、雑誌で、ネットで、CMで。あらゆる媒体を通して、毎日のように生活のどこかでその宣伝を見かける。
とある無名のゲーム制作会社が新プロジェクトを立ち上げ、斬新な王道ゲームに着手したのはもう数年前のこと。
それが形となり、数少ない、数種類だけの映像や画像を何度見かけただろうか。
それでも決して飽きることなどなく、見る度に決意を新たにし、発売日を楽しみに待つ。
――ようやく、発売日までのカウントダウンは、一桁になっていた。
◇
世の中には名作と呼ばれる作品が多くある。
それはどんなジャンル――小説、マンガ、映画など、およそエンターテイメントにおいて成功を収めた作品は名作と呼ばれる名誉を授かり、それはどれほどの時が経とうと、人の歴史が続く限り、そのジャンルにおける代表作として、しばしばスポットライトを浴びるであろう。
そしてそれは、ゲームに措いても例外ではない。
勇者が魔王を倒す、といったもはや何十年も前に使い古されたと言っても過言ではないベタな設定。そんなRPGでは王道中の王道でありながら、ゲーマー達の話題を独占しているゲームがある。
内容の多くは謎に包まれ、しかし公開されるごく一部の情報は、今までのどのゲームにもない、斬新なアイディアが取り込まれた革新的なそのゲームに、多くのゲーマーは名作になるであろうと確信を抱いた。
最新機種である次世代ゲーム機『ブレイズテーションⅤ』のスペックをフルに使用し、何度話しかけても「ここははじまりの村」と言い続けるだけのような奇特な村人は存在しない。
一人一人が細部に至るまで見た目は勿論、生の人間と変わらないほどのAIを搭載し、そのAIの高さから『明確な攻略法が存在しない』、とまで言われ、王道でありながら今までにない異色のRPGとして、発売前から話題が話題を呼んでいた。
難易度が高ければそれだけ楽しめるタイプであり、重度のゲーマーである自分がこの話題のゲームを見逃すなどありえない。腕に覚えのある多くのゲーマー達同様、半年前の予約受付が始まると同時に予約をし、発売日から一週間以上休んでも大丈夫なように真面目に授業も出席し続けた。
それだけの時間があればどれほど難易度の高いゲームであろうとクリアーするのは容易だろう。ネットで買えば、配達されるまでの数時間が無駄になる。それを避けるためにもわざわざ近所のゲームショップで予約をした。
自室には大量のミネラルウォーターとカップラーメンにポット。小腹がすいた時の為のポティトチップス。
この日のために練った完璧とも言える計画に抜かりはなく、発売日も延期されることもなく無事に発売当日を迎えた。
予約をしていた徒歩十分程の近所のゲームショップに、学校をサボってまで開店の三十分前から並び、それでも出来ている予想以上の行列に思わず目をむいた。
この中の多くは当日分の店頭販売にわずかな希望を託し、朝早く、あるいは前日から並んでいるのだろう。
自分の物は予約という形で確保しているという安心感と、わずかばかりの優越感から小さく笑みをこぼし、列の最後尾へと並ぶ。
予約こそしていたが、自分自身徹夜で並ぶかどうか迷ったものだ。
しかし結局買った後で寝なくてもいいように昨夜は、今どき小学生でも起きているであろう二一時には就寝した。と言っても興奮であまり寝付けなかったが、なんとか体だけでも休め今日に備えた。
きっと多くの人は、この日のために計画的に会社、あるいは学校を休み、今ここに並んでいるのだろう。
そんな想像をしながらゲームに対する期待に胸を膨らませていると、シャッターの前に顔馴染みになるアルバイトの中でも最古参になるフリーターの店員が現れる。携帯電話に目を走らせると、ディスプレイの時刻は九時五九分……。
先頭集団の空気が伝播したのか、周囲の人間もどこかそわそわしている。あまりにも長く感じた一分が過ぎ、シャッター音が開店を告げ、待ち遠しかった十時を告げる。
その瞬間に騒がしく、そして慌ただしい動きと共に列の先頭が走り出す。間違いなく全員が店内の配置を記憶し、どこにお目当ての商品が並ぶのかを把握しているのだろう。動きに一切の迷いはなく、全員が店内の商品が陳列してある棚、その一か所に向かって走っている。
前列組とは違い、自分を含めた後列組、開店直前に来た者たちの動きは緩やかだ。間違いなくこの中の全員が予約をし、自分の物を確保しているのだろう。前列組を飢えた獣の群れと称するならば後列組は上流階級、いっそ貴族組とでも称するのではないだろうか。レジも先に並んでいた者達でいっぱいになっているだろうから焦っても無駄、と自分に言い聞かせながら、早くゲームをしたいという衝動を押し殺し、優雅ささえ感じさせる余裕をもった足取りで一直線に、あくまでもゆっくりとレジまで歩いていく。
ようやく自分の順番が来るとこれまた顔馴染みの店長との挨拶も最低限に、用意していた七九八〇円ちょうどを渡し、ソフトを受け取るや否やソフトをしっかりと手に持ち自宅へと駆ける。
帰り道では思わず叫び出そうとするのを堪え、無言でガッツポーズを決めながら走る。ゲームを買えなかったのであろう、肩を落としトボトボ歩く人を追い越した瞬間、優越感たっぷりのニヤニヤ笑いが込み上げてくる。
普段引きこもり気味な自分の体力からは考えられないようなベストタイムを叩き出し、玄関を体で押すように開ける。息を切らせながらも幼いころから叩き込まれ、習慣になっている「ただいま」を言うが、当然のことながら「お帰り」は返ってこない。
未だにいい歳してラブラブな両親は昔からよく近所の話題にもなり、物心ついた時には息子として辟易していたが、単身赴任をするハズだった父親と一緒に母親まで出て行ったのでこの年にして念願の一人暮らし。
今までの試練はこの時のためだったのか、とも思える恥ずかしい拷問のような日々は終わりを告げ、両親が出ていった瞬間から青春を謳歌……は彼女がいないため出来なかったので、せめて自由を謳歌させてもらっている。
一時は三次元なんか関係ねぇし、二次元の女の子がいるからいいんだよ、と強がってみたときもあったが、寂しさ半分哀しさ半分で惨めなだけだった。
それでも留年しない程度には学校はサボり放題。
同じゲーム好きの友達を集めて徹夜でゲーム大会をしたりと、やりたいことを好きなだけ出来るので、十分に夢のような生活を送らせてもらっている。
一直線に自室へと入るや否やゲーム機を起動後、シュリンクを破ることさえももどかしく感じながら、説明書を見ることもなくソフトを入れる。
オープニングを見たい、という今までの習性と誘惑を押しのけてスタートボタンを連打。普段は初めてやるゲームのオープニングは必ず見るようにするが、今回ばかりは無理だった。半年間、いや、発表されてからだから一年近くも待たされ、発表されていく様々な断片的な情報を教えられるだけで、もはや期待値は最高潮を通り越しているくらいだったからだ。
当然、その間に他のゲームに手を出しても入れ込むことが出来ず、プレイ途中の記憶も曖昧なまま気付けばクリアーしていたゲームが後を絶たなかったくらいだ。
こんな状態だったからこそ、あんな悲劇が起こってしまったのだろうと後になって冷静に分析してみたが、その時には後の祭りだった。
主人公の名前を決める場面になった時にどんな名前にするのかを決めていなかった。当然予測してしかるべきだったことだが、ゲームをプレイするための環境だけを考えて内容までは予測していなかった。
完璧だと思っていた計画は早くも頓挫した。が、このまま迷って無駄に時間を浪費するのももったいない。一瞬の停滞、その直後には反射的に最初にカーソルがあった場所――即ち『アアア』で決定する。
名前を設定し、始めようとスタートボタンを押すといきなり誰かが画面から呼びかけてきた。
寝ぐせが酷いボサボサの髪。
ふてぶてしい面構え。
死んだ魚よりも死んでいる眼。
ゲームパッケージの真ん中に写る、まるで光を背負っているかのような勇者とは正反対の人間だった。
「オイ、なんだよふざけんなよチクショウ。俺の名前が『アアア』ってなめてんのかテメエ。セレクトボタンで変換できるからって中途半端にカタカナにすんなよ。時間が惜しいなら『あ』か、百歩譲って『あああ』の方がまだいいだろ。どうせお前みたいなのに限って、自分の子供の名前は半年以上悩むんだろ? 俺の名前も納得できる名前を半年以上考えてから出直せよ」
そんなセリフが妙にやる気のなさそうな声でテレビ画面から流れてくるや否や、ゲーム機からゲームのディスクが出てきて、画面は真っ暗になった。
「…………………………は?」
あまりにも予想外すぎる出来事にたっぷり十秒以上固まって、呆けた顔からようやく出てきた言葉はその一文字だけだった。
「…………喋った? ……いやいやいや、意味わかんねーって。バグか、これ?」
しばらく固まってしまっていたが、時間を置いたことによって少しは冷静になれた。きっと慣れない全力疾走で疲れて幻聴でも聞いたのだろう。
なんせ頭脳労働専門だから、肉体労働は体が受け付けないからな。「ハハハ、慣れないことはするもんじゃないな」、なんて事を言ってみる。
バグ以外にありえないよな、と思いつつ出てきたディスクを抜いて再び入れてみる。
「半年以上考えろ、って言ったろ? まだ一分しか経ってねぇしそんなんで機嫌直ると本気で思ってんのか? あァ!?」
本当にこれはバグなんだろうか……。バグにしては出来過ぎな気もしてきた。つーかマジで半年待たないといけないのかな、これ。……それに最後に凄まれた声はやけに迫力があって怖かった。
再びディスクが出てきて、テレビ画面も真っ暗になる。
…………本当に意味が分からん。
軽く本体を叩いたり、ケーブル類を一度抜いてさし直してみたりしたが、本体とテレビの電源がついたままで画面は暗いままだった。
購入前まではアレだけプレイしたいというやる気に溢れていたゲームだったが、そのやる気は急速に失われ、今では途方に暮れ、何もやる気が起きずに横にあったベッドに身を投げ出す。
何も考えずにしばらく天井を見ていると、あのセリフが思い起こされる。
確かに、あの言葉の通りこちらにも非があるのだろう。だがあまりに理不尽な展開を思い出すにつれて少しずつ怒りが溜まり、それはやがて僕の征服欲を大いに掻き立てた。
ゲームを始まる前から躓いてしまった事に対しての屈辱。楽しみにしていたゲームが出来ないことに対しての怒り。
それらをない混ぜにした、形容しがたいイライラが募る。
深呼吸を一つしてそれらのイライラを吐き出し、少しだけ冷静になる。
仰向けに倒れたまま、顔だけを横に向ける。そこにある本棚には今までにプレイし、クリアーしてきたゲームがぎっしりと詰まっている。
名作と呼ばれたものもあれば、駄作と言われたものもある。しかしどれもが、様々な形で楽しさや感動を教えてくれたものたちだ。
バグの可能性を疑いながらも、どこか頭の冷静な部分でそれを否定する。開始直後に、これだけ重大なバグがあるのならさすがに気付くはずだ。
そして、もしこれがバグでないとするのならば、宣伝通り、確かに往来のゲームにはない難易度になるだろう。
恐らく今までの『ゲーム』に対する経験値だけでは到底足りない。
大きく息を吐き、思考を停止していた脳がフル回転し、今までのゲームで培ってきた直感が今後取るべき行動の正解を告げる。
しかしあの反応からこれ以上失敗するわけにはいかない。保険も兼ね、まずは情報を集めようと決めてベッドから跳ね起きるや否や、パソコンを起動させお気に入りに登録している二チャーネルへと接続する。予測通り「りあるR・P・G」のスレッドへの書き込みは既に百件を超えている。
本来新作、特に名作とも呼べるランクのソフトが出れば、皆がこぞってプレイをするため、この時間の書き込みは無しに等しい筈だった。しかし、この勢いを見る限りでは昼までにはレスが埋まるだろう。
皆が行き詰まり、情報を求めている証拠だ。
初めから見てみると、やはり多くの物は自分と同じような現象に対する書き込みが大多数を占めている。
しかし一つ一つ良く見ると、人によって勇者役の性格は違うようだ。
性格が違うのは高いAI故か。
――恐らくはここが鍵。
直感的な閃きに基づき、再びゲームを起動させる。
「しつこ――」
「あの、名前のことは本当にすみませんでした! どうしても直ぐにゲームをやりたかったので反射的にあんな名前にしてしまったんです。ですので、どうか機嫌を直してプレイさせてもらえませんか?」
勇者(仮)が出てきてくるや否や、相手に話す隙を与えずに即座に謝る。
「…………それで、俺の名前は考えてきたんだろーな?」
こちらの狙い通り、気勢を削がれたのであろう。勇者は文句を言えずに口ごもり、ごまかすかのように話題を変える。
会話に持ちこめたことで、まずは第一関門を突破できた。
これは操作をすればその通りに動く往来のゲームとの違い、このゲームはある種の生き物のように感じられる。事前情報通りの高いAI、ここが重要なのだ。だからこそ、まず非礼があれば謝罪するのが対人関係の基本である。
きっと二チャーネルに投稿していた多くのゲーマー達の中にもこの可能性に気付きかけた者、あるいは気づいている者たちはいただろう。
しかし、ここでプライドが邪魔をする。
この攻略法が間違っていた時の滑稽な自分の姿、虚しさ。また仮に正しかったとしても機械に謝ることは、やはりと言うか当たり前のように人としてのプライドが傷つく。
自ら道化師を演じたいと思う人間はそう多くはないはずだ。だからこそ、気付いても気付かないフリをすることで、その現実から目を逸らしているのだ。
だが、僕は違う。
そんな半端なプライドは捨ててでも、このゲームをクリアーすると決めた。ゲームに謝罪することよりもバカにされたまま終わることに、そしてゲームがクリアーできないことにこそプライドが傷つく。
「そのことに関してなんですが、勇者様にとって和風と洋風、どちらの名前が好みなんですか?」
「うーん、そこはやっぱり和風でしょ。やっぱ漢字とかってカッコいいじゃん」
「和風ですか、……ここは無難に山田太郎とか?」
「バカにしてんのかお前! いつの時代のセンスだよ、嫌に決まっているだろそんなありふれた名前。そんな名前のやついたら絶対に偽名使ったモブキャラじゃねぇか。俺は主人公だよ、主人公。無味無臭のその他大勢の名前とか舐めてんのか? もっと刺激的な名前とかカッコいい名前とかあるだろ」
全国の山田さんや太郎さんに謝れよ。それに山田太郎って名前でもお前みたいな強烈なキャラがモブなわけがないだろうが、と思ったが、これ以上怒りを買うような発言はしない。人間は学習する生き物なのだ。
「カッコいい名前ね……。例えば紫隱とかはどうです?」
「お、いいねいいねぇ。君、中々見どころあるよ。でももうちょっとだけ、そうワンランク上の最上級な名前がいいかな」
上から目線なのは気に入らないが、そこは営業スマイルでスルーした。
どうやら『現役』の方らしい。
もらった。ここは同じ病気を抱えている者として力を発揮すれば、この試練、間違いなく通過できる。
「うーん、それじゃあ…………緋焔でどうですか?」
「お、さすがはこの俺が見込んだ男。それ最高にカッコいいじゃん。俺の名前はそれで決まりだね」
どうやら気に入ってもらえたようだ。
もっと駄々をこねるかとおもっていたのだが、思いのほか時間をかけずにあっさりと決まってしまった。
機嫌の直った……と言うよりそれを通り越して上機嫌になった勇者は鼻歌を口ずさむ。
「まぁ残念な事に一度決めた名前はもう変えれないんだけどね」
「てめぇ、今までの時間とか必死に考えた苦労を返せよ、この野郎!!」
「俺だって悲しいわ!! 何が楽しくてこんな名前で呼ばれなくちゃならねぇんだよ。小さい頃絶対イジメ受けてるじゃねえかよ!!」
……学習出来ていなかったようだ。
勇者の言い分はもっともだが、今まで経験してきたどの謎解きよりも法則性のないこの難題に対する解決策を見つけるために、頭を捻って考えた苦労とか努力とかその他諸々の事を考えれば、少しくらいは言いたくなってしまう。
それにきっと、自分はツッコミキャラだからしょうがないのだろう。友達との付き合いも、この世界の立ち位置でもツッコミキャラである以上、本能を押し殺してしまっては僕というアイデンティティーが死んでしまう。そうなればきっとただの『地味メガネ』としてモブキャラ――いや、きっとモブキャラとしての出番さえないだろう。
僕のキャラとしてはクール二枚目キャラが良かったのだが、この世界の神的な存在にツッコミキャラにされてしまったのもきっと運命――英語で言う所のデスティニーと言うやつだということにしておこう。
神、とか運命、とか、どうも中学生男子を中心に発病してしまう病気にかかってしまっているようだが、きっと全国的に見てもこの病気にかかってしまっている日本男子は多いだろうから気にしないことにする。
と、話は逸れたようだが、勇者が何か言っているのでそろそろ相手をしなければ。
せっかく持ち直せたのにまた機嫌を損ねられると今までの苦労が水の泡になってしまうからな。
「しかし逆切れとかカルシウム足りてんのか? 近頃のガキは突然キレる、ってのは本当のようだな……。ママのおっぱいでも吸って落ちつけよ。別にテキストで『アアア』って出ようが俺のことは『緋焔』とか『勇者様』とでも呼んでくれりゃいーんだよ。あと、ため口でいいぜ。俺様の威光に自然と敬語になるんだろうけど、気持ち悪いだけだし」
仕方がないとは言え、確かにキレやすい子供だった。
早くも怒りが沸点に達して思わず怒鳴ってしまったのに、とてつもなく軽いノリで流された。このまま機嫌を損ねられるよりはマシなのだろうが、設定上では同年代の勇者に言われるのはどうも釈然としない。
「はいはい分かりましたよ、ユウシャサマー」
が、やはりここで普通の名前を呼ぶのも癪だったので、とりあえず勇者の方で呼んでおく。
「順応性高いなー、さっそくタメ口かよ。それにせっかく必死で名前を考えておきながら敢えて勇者の方で呼ぶのかよ。しかもカタコトだし。もっと敬えよな、勇者だぜ? 世界を救う人間だぜ?」
「ゆとり教育の世代だから敬語なんて慣れてないんだよ。敬ってほしいなら世界を救ってから敬ってやるよ。現時点でお前はただの村人Aでしかないんだし」
「中々言うね。だが甘いな。勇者が魔王を倒すハッピーエンドな展開になるのは絶対。つまり勇者である俺が世界を救うのも絶対なんだぜ?」
「ま、それならとりあえずやってみろよ」
中にはデッドエンドでバッドエンドなゲームも少なからずあるが、敢えて言うまい。本当にこのいい加減な男が素直に世界を救う旅に出るとは思えない。
むしろこのゲームの特性上、予想を裏切る意外な展開で勇者が交代する、なんて展開もありそうだ。それでも現時点ではこの男が主人公であり、やる気を引き出さないとゲームも進みそうにないため、仕方なく機嫌を取ってやる気を促す。
「まぁいいや。とりあえず一次は合格にしておいてやろう」
「一次!? え、ナニソレ?」
「命を預ける以上、厳選するのは当たり前だろ? はい、早く履歴書出して、履歴書」
「どこの面接!?」
「初心者に戦闘指揮なんて任せられるか。経歴は?」
「ああ、そういう事なら安心しろ。俺は数万を越える敵を倒し、更には魔王、またはそれい準ずるラスボスを数十人と屠ってきた。当然、隠しボスだって目じゃない。その点じゃ自他ともに認める選ばれしエリートってやつだ」
「はいはい、お疲れさまでした。現実見れるようになってから夢を見ようね~。さて、はい次のプレイヤーさんどうぞ」
「ちょっと待て! つーかお前プレイヤーって俺しかいないじゃん! ネット繋いでないから俺しかいないじゃん!」
「だったらしょうがないからこのまま待機かな。俺は存分にニート生活を満喫させてもらうよ」
そう嘯いてニヤリと笑う。可能性があると思わせておいて始めっからそのつもりか!
「勇者にしてやる!」
「…………あ?」
出てきたのは苦し紛れの一言。
何か言わなきゃいけないと思いながら何も思い浮かばなかった。そんな中で出てきた言葉。
「俺がお前を勇者にしてやる! だからお前も力を貸せ」
「……………………」
出した言葉は引っ込められない。実際、その自信はある。どれだけ難しいゲームであろうと、クリアーできないゲームはない。現に今まで全ての、あらゆる障害を乗り越えてクリアーしてきた。
「仕方がないな、それじゃ勇者様がいっちょ世界を救ってやりますかね」
沈黙の後の言葉、それが彼の答えだった。
なにが琴線に触れたのかは分からないが、どうやら少しは認められたようだ。