アビーに会いたいか?
「何だよ諦めた方がいいって、
俺たちの悩みを解決するのがお前の仕事だろ」
ジョージが声を荒げる。
「お前の恋は叶う事は無いだろうよ、
いや、叶っちゃダメだ」
デイビッドが答える。
「なんで?」
「お前はその好きな人に何をするつもりだ?
さては猫の首でも付けようとか思ってんだろ?」
「そんな訳ないって!」
ジョージが必死に返す。
「あぁそうだ、まだお前にオレが好きな人のことを
紹介してなかったな」
ジョージが携帯を取り出すと、画面を見せた。
「これがオレの好きな人さ、
マギー・グリフィス、25歳」
そこにはレジを打つ女の子の姿があった。
耳にはピアスが付いていて、腕には蛇の
タトゥーが入っていた。
見たところロック歌手のような女だった。
「同僚か?」
デイビッドが聞く。
「そう、可愛いだろ?」
「あぁ、かわいいよ」
デイビッドが返答する。
「それじゃ、オレの恋も応援してくれるな?」
「何でそうなるんだよ、しねーよ」
デイビッドが冷たくあしらう。
「とりあえずお前みたいな吸血鬼が
人間と恋なんて無理だ、諦めな」
デイビッドが家に帰ろうとすると、ジョージが引きとめた。
「待てよ大将、アビーに会いたくは無いか?」
デイビッドが足を止める。
「今、なんて言った?」
「アビー・ダルトンに会いたくないかって
言ったんだよ」
ジョージがにやけながら言う。
「何故彼女のことを知ってるんだ?」
「あんた、今日買い物に行く前に
墓地に寄っていただろ、
そこの墓にはアビー・ダルトンって
描かれていたぜ」
ジョージが問いかける。
「アビーって女があんたの恋人か
嫁か妹かは知らないが、あんたにとって
大切な人なんだろ?」
「あぁ、大事な人さ」
「また会いたいだろ?」
「そ、それは……」
「オレの恋を叶えてくれりゃ
アビーに会わせてやってもいいぜ」
ジョージが笑う。
「本当に会わせてくれるんだな?」
「約束しよう」
翌朝、デイビッドは自宅のベッドで目覚めた。
携帯の着メロが鳴り響く。
「いよぉ大将、もう出勤時間だぜ」
声の主はジョージだった。
「おいおい、まだ四時間くらいしか寝てないぞ」
時計を見ると午前七時だった。
昨日は午後三時までジョージの家にいたので、
実質四時間ほどしか寝ていなかった。
「とりあえず後で顔を出すよ」
そう言って電話を切る。
そして再びベッドで横になった。
午後一時、デイビッドはカマロを走らせていた。
向かった先はジョージが働くスーパーだった。
駐車場に車を停めてスーパーに入ると、
入ってすぐの所の青果コーナーで
ジョージが果物を並べていた。
「おーい」
デイビッドが声をかけると、ジョージが振り返る。
ジョージの姿は悲惨なものだった。
上は「ニューカッスル高校」と書かれたTシャツに
下は同じく「ニューカッスル高校」と書かれた
ジャージだった。
さらに信じがたいことに、
シャツインまでしていたのだ。
「よぉ大将」
ジョージが近寄ってきたとたん、
デイビッドは他人のフリをしてきた。
「どちら様でしょうか?」
こんな奴の恋のキューピッドなんて
罰ゲームのようだったからだ。
実はジョージはなかなかのイケメンだ。
かつてのベッカムを髣髴とさせる
王子様のような男だ。
しかし服装はダサい。
ギャップ萌えなんて言葉が日本にはあるようだが
デイビッドはこれでは萌えなかった。
「ちょっとジョージ、何やってんの?」
一人の女がジョージに近寄ってきた。
「あれがマギーか」
「いつまでフルーツ並べてんの?
早くレジ入ってよ」
マギーがジョージを叱責する。
「ごめん……」
ジョージが嬉しそうに返事をした。