マンチェスター・ラブストーリー
午後十一時、マンチェスターの夜はまだまだ続く。
雑居ビルの近くの駐車場に一台の車が停まった。
1974年式のシボレー・カマロz28は
黄色いボディにボンネットに黒いストライプの入った
デイビッドの自慢の愛車だった。
カマロからデイビッドが出てきた。
手にはたくさんの買い物袋を抱えており、
ドアを開けるのにも一苦労していた。
「久々の買出しだから荷物が多くなっちまった」
デイビッドが「ウィリアムソンの店」の
鍵を開けた。
店の電気をつけると、カウンターに
一人の男が座っていた。
「いよぉ、あんたがデイビッドだろ?」
瓶ビールを飲みながら、男が近寄る。
「おい、それ売り物だよな?」
デイビッドが問い詰める。
「いいだろ、金なら後で払うよ」
男が笑う。
「で、あんた今日暇かい?」
男がデイビッドに聞く。
それから十分後、デイビッドは男とカマロに乗っていた。
「で、お前の自己紹介をしてもらおうか?」
デイビッドがハンドルを握りながら言う。
「ジョージ・レスコット、27歳だ
職業はスーパーマーケット店員、
好きな食べ物はケチャップだ」
「お前、ケチャップはそのまま食うのか?」
「まぁな」
「お前の正体は分かったよ、
吸血鬼だろ?」
「その通りだよ」
ジョージが笑う。
車を十五分ほど走らせ、ジョージの住む
アパートに到着した。
「ここがオレの家さ」
ジョージが部屋に通す。
「うわっ、散らかってるな……」
デイビッドが嫌な顔をする。
部屋の床にはスナック菓子の袋やビールの空き缶、
ティッシュなどが落ちていた。
「ゆっくりしてよ」
「ゆっくりできないな」
隣の部屋に入ると、
床には大量の漫画や同人誌などが散らばっていた。
「おい、なんだよこれ……」
デイビッドが落ちているフィギュアを拾う。
そのフィギュアは全裸の女性の体に、
シマウマの首が付けられていた。
「どうなったらこうなるんだ?」
デイビッドはジョージに問い詰める。
「シマウマ魔法少女エイミーだよ」
ジョージが笑う。
そのフィギュアの近くには
シマウマの体に女の子の顔が付いていた。
デイビッドはそれには触れないようにした。
壁を見てみると、女の子の絵がかかれた
ポスターや、日本人と思われる女の子の
ポスターが貼られていた。
「これ誰?」
デイビッドが指を差す。
「佐津川恭子だよ」
「知らない」
「おいおい、冗談だろ?」
ジョージが驚く。
「世界一の声優さ、この世界に彼女以上の
美女はいないと思っている」
確かに彼女は可愛かった。
「CD貸してやろうか?」
ジョージが尋ねると、
「いや、結構」
デイビッドが即答する。
ベッドを見てみると、抱き枕があった。
抱き枕には、セーラー服姿の女の子の絵が描かれていた。
「おい、これって……」
嫌な予感がした。
「それは抱き枕さ、富永キャロラインちゃん
夏服バージョン」
ジョージが答える。
「これはいつも使っているよ、
全裸で抱きついて寝ているんだ」
デイビッドは絶句していた。
「こいつどうかしてる……」
心の中でそう思った。
「で、お前の依頼を教えてもらおうか?」
デイビッドが床に座りながら言う。
「オレの恋を成就させてくれ」
ジョージが真剣な顔で言う。
「諦めた方がいい」
デイビッドが即答した。