アビー・ダルトンの最期
「あっそう、じゃああんたもアビーも一緒に
地獄へ送ってやるわ」
ジェシーがポケットから投げナイフを取り出した。
「死ね!」
ジェシーがデイビッドに向かって走り出す。
デイビッドはジェシーを交わすと、カウンターとして
ジェシーの背中を蹴り上げる。
ジェシーが倒れこむ。
倒れこんだジェシーの喉元に
デイビッドがナイフを向ける。
「なぜアビーを狙った?
彼女は何も悪いことはしていないだろ」
「魔女だから殺すのよ」
ジェシーがぶっきらぼうに答える。
「私は先日ある大富豪から依頼を受けた、
それはこの街から魔女を一掃しろということだった、
そしてある日私はアビーの腕に
魔女の証である黒猫のタトゥーを入れているのに気づいた、
だからアビーを始末してやることにした」
「そこまでしてアビーを殺す理由は?」
「魔女は人間の敵でしょ?
この世界にはのさばらせておけない」
「違う!」
エリザベータが叫んだ。
「私は、人間達と敵になるためにここに来たんじゃない!
人間達と共存したいからここに来た!」
ジェシーがエリザベータをにらみつける。
「そんなの口だけなら好きなだけ言えるわ」
「口からなんかじゃない!
私だってあなたと一緒に仲良くなりたかった!」
エリザベータが叫ぶ。
「人間達と一緒になれるなら私は何だってする、
ジェシー、あなたのことも許す」
エリザベータが涙をこぼした。
「いいんだな、アビー?」
デイビッドがエリザベータに聞くと、
エリザベータは小さくうなづいた。
「分かったよ」
デイビッドがエリザベータの喉元から
ナイフを離した。
「今回のことは二人とも忘れろ、
オレが言えるのはそれだけだ」
デイビッドが二人を置いて屋上から帰ろうとした
その時、デイビッドの背中に激痛が走った。
「へ、へへ……
やっぱりあんたもバカよね」
ジェシーがデイビッドの背中にナイフを刺していた。
「ああっ!」
エリザベータが驚く。
「く……くそっ……」
ナイフが抜かれ、デイビッドが倒れこんだ。
デイビッドが意識を取り戻した。
「ここは……」
目に映った光景は大学の屋上だった。
「いてて……」
背中にはまだ激痛が走っていた。
「気づいた?」
エリザベータがデイビッドを覗き込んだ。
「やぁ、ジェシーはどうした?」
エリザベータが口を閉ざした。
「実はね……」
エリザベータいわく、デイビッドを刺した瞬間の
ジェシーの心は悪魔の心になっており、
もう誰にも止められなかったという。
そのため、エリザベータは魔法でジェシーを
地獄へ送りつけたらしい。
ジェシーはこれから地獄で永遠に苦しめられるという。
「魔法を使った? そんなことしたら……」
デイビッドが驚くと、背中から激痛が走った。
「まだ傷がふさがってないの、無理しないで
救急車は呼んだけど……」
エリザベータが話しかけると、
目の前の空間が切り裂かれ、一人の男が現れた。
「魔女、エリザベータだな?」
男が尋ねると、エリザベータは頷いた。
「お前は人間界で魔法を使ったな、
よって今から魔界へ強制送還をする
一緒に来い」
男がエリザベータを連れ出そうとすると、
デイビッドが叫んだ。
「待て! 彼女はやっとこの世界で
人間と共存できたんだぞ、
今回のことはどうか許してやってくれ」
デイビッドが懇願する。
「それはできないよ」
エリザベータが呟いた。
「ルールを守らなかった私の責任だもん、
私には罰を受けなければいけないことくらい分かる」
エリザベータが笑顔を見せる。
「でも最後に、デイビッドの役に立ちたいな」
エリザベータがデイビッドの近くに跪くと、
デイビッドの背中の傷に手を当てた。
「私の命と引き換えに彼の傷を癒したまえ」
すると痛みがどんどんと消えていき、
傷もふさがってきた。
「おい、これって……」
「私の命が少しでも役に立てばいいと思って……」
エリザベータが笑顔を見せた。
するとエリザベータがポケットから猫の形の黒い
ロケットペンダントを取り出した。
それを開けると、中にはデイビッドとエリザベータの
写真が収められていた。
「迷惑じゃなければ受け取って……」
「ありがとう」
デイビッドがポケットにそれを入れる。
「あとデイビッド、もう一つだけお願いを聞いてくれる?」
「いいよ、何だ?」
「私のことを思いっきり抱きしめて欲しいの」
デイビッドがエリザベータを抱きしめたとたん、
エリザベータが血を吐いた。
「おい、しっかりしろ」
デイビッドが必死に問いかける。
「デイビッド、私のこと好き?」
「あぁ好きだとも」
「私も好きだよ、あなたと一緒に入れたときが
私にとって最高に幸せだったもん」
エリザベータがデイビッドと口付けを交わす。
「ありがとうデイビッド……」
エリザベータが倒れた。
「おい、しっかりしろ! 起きろって!」
男がエリザベータの腕を触った。
「手遅れだな、死んでいる」
そう言うと、再び空間を切り裂き、消えていった。
「うぅ……
チクショウ!!」
デイビッドがエリザベータの遺体を抱いて
泣き叫んだ。
その後、エリザベータの遺体はアビー・ダルトンとして
墓地に埋葬された。
天涯孤独だったはずのアビーだったが、ある男が毎日
花やお菓子を手向けることで、いつも
墓は飾られている。
その男の首にはいつも
黒猫のペンダントがかかっているという……