用務員のデイビッド
その日の晩、デイビッドはエリザベータと一緒に
夕飯を作った。
今日の夕飯のメニューはほうれん草のキッシュに
ポトフ、バゲットだった。
「なぁエリザベータ、学校は楽しいのか?」
デイビッドが心配そうに聞く。
「楽しいです……」
エリザベータが小声で言う。
「本当か? 無理しなくたっていいんだぞ」
デイビッドが続ける。
「大丈夫ですって」
エリザベータが笑う。
「ところでエリザベータ、お前クラスメイトから
金を要求されていたよな?」
「な、なんでそんなことを……」
「オレ、今日大学に居たんだ」
エリザベータが驚く。
「なんで?女子更衣室とか行ってたんですか?」
「行ってねーよ、あの学校用務員募集していたろ、
面接したら合格だったからな」
デイビッドが笑う。
「あの女っていつもお前をいじめているのか?」
エリザベータが黙り込む。
「あの女、随分調子乗っていたよな
お前のことブス呼ばわりだもんな
ゴリラみたいな顔のくせに」
デイビッドが続ける。
「よし、俺がお前の友達になってやる」
「ええっ?」
「友達さえいれば少しはいじめからも
解放されるだろう」
デイビッドの強引な提案にエリザベータは困惑した。
翌日、大学に昼休みのチャイムが鳴り響く。
いつものように一人でエリザベータが
学食へ向かうと、デイビッドが入り口で待っていた。
「いよぉアビー、待ってたぜ」
汚れた作業着姿のデイビッドを見て
エリザベータは笑ってしまった。
「その格好ひどいですね」
そしてデイビッドとエリザベータが列に並ぶ。
「アビー、今日は何が食べたい?」
デイビッドが聞くと、
「エビのグラタンがいいですね」
と答えた。
そしてデイビッドとエリザベータが席を探していると、
昨日のあの女子グループがまたエリザベータに足をかけた。
エリザベータは転んで、手に持っていたアイスコーヒーが
ジェシーというリーダー格の女子の服に掛かった。
「あのゴリラめ!」
デイビッドが心の中で怒りを爆破させた。
ジェシーたちがエリザベータに詰め寄る。
「アビー、あんたまたやったの?」
ジェシーがエリザベータの胸倉を掴んだ。
「助けて!」
心の中で叫んだ。
「やぁお嬢さんたち、どうしたんだ?」
声の主はデイビッドだった。
「このアビーが私の服にコーヒーこぼしたんだよ」
デイビッドがジェシーの服を見てこう言う。
「おやおや、20ポンドくらいの安いシャツに
芸術的な絵の具が書き加えられましたな」
デイビッドがニヤニヤしながらいう。
「ふざけないでよ! これシャネルのシャツなんだから」
ジェシーが怒りながら言う。
「シャネルがそんなダサい服作るのかい?」
ジェシーのシャツは確かにダサかった。
まるで日本人のおばさんのような豹柄のシャツだったからだ。
「う、うるさい」
ジェシーが返す。
「ゴリラ顔に豹柄のシャツですか、
アマゾネスさんはいいセンスですねー」
デイビッドが返す。
「そうだ、クリーニングしてやりますよ」
デイビッドが霧吹を取り出す。
すると突然、それをシャツに吹きかけた。
シャツがどんどん黒ずんでいく。
「ちょっと、これ何?」
ジェシーが慌てながら言う。
「イカ墨だよ、今日はシーフードの気分だから」
「意味分かんねーし!」
ジェシーが慌てて逃げていく。
学食が拍手と歓声に包まれる。
「いいぞー」
「よくやったー」
みんなジェシーが嫌いだったのだ。
「大丈夫か? アビー」
デイビッドがエリザベータに問いかける。
「だ、大丈夫だよ」
笑顔を見せる。
そしてデイビッドに初めてタメ口をしてきた。
これはよそよそしさが無くなった証拠だった。
「さて、次は多重人格の元凶を探さないとな……」
デイビッドが心の中で呟く。