アビー・ダルトンの復活
「な、なぁ……」
顔を赤らめてジョージが言う。
「どうしたの? ジョージ」
マギーが照れながら言う。
二人は今、園内の人気アトラクションの一つの
巨大観覧車「エベレスト」の中にいた。
夕闇に照らされたイングランドの町をバックに
二人は会話もせずに乗っていたが、
頂上に到達しようとしたその時、
ジョージが口を開いたのだ。
「実はオレ、マギーのことが好きだったんだ、
恋人からってことでもいいかな?
お願いだ」
ジョージが手を差し伸べる。
「噓でしょ……
実は私、告白なんてされたこと無かったから……」
マギーは戸惑っていた。
「分かった、いいよ」
マギーが笑顔で、ジョージの手を取った。
「やった! ありがとう」
ジョージはマギーを抱きしめると
口付けを交わした。
「ちょっと……
いきなりすぎじゃない?」
マギーが笑顔を見せる。
翌日、仕事を終えたジョージは部屋を片付け始めた。
そこへデイビッドがやって来た。
「部屋なんか片付けて、どうした?」
デイビッドが尋ねると、ジョージは笑顔で
「明日、マギーが家に遊びに来るんだ」
と答えた。
「告白は成功したのか?」
「まあな」
デイビッドは大喜びだった。
「やったじゃん!」
ジョージとハイタッチを交わす。
部屋を片付けた後、ジョージはデイビッドと
「ウィリアムソンの店」にいた。
あの約束、アビーを生き返らせるという
約束を叶えるために。
「今アビーに会わせてやるよ、大将」
ジョージが床に魔方陣をチョークで描いた。
魔方陣から光の魂が現れた。
その光は開いていた窓の外に出て行った。
「おい、あの光は?」
「アビーの魂だよ」
その光をデイビッドは追うが、どこかに行ってしまった。
外には一匹の野良猫と思われる
黒猫が歩いているだけだった。
「どこ行った?」
デイビッドが光を探していると、
「デイビッド、久しぶりだね」
アビーの声がした。
「アビーか? どこにいる?」
「ここだってば」
デイビッドが近くの猫を見つめる。
黒猫がしゃべりだした。
「ま、まさか……」
「ウィリアムソンの店」にデイビッドが
黒猫を抱いて帰ってきた。
「おかえり」
ジョージがケチャップのチューブを
すすっていた。
「この猫がアビーと同じ声でしゃべるんだ」
デイビッドが不思議そうに言う。
「あぁ、そりゃあきっと
アビーの魂が猫に乗り移ったんだ」
ジョージが言う。
デイビッドはにわかには信じがたかった。
「噓だろ?」
デイビッドがそう言うと、猫が
「本当だよ、久しぶりだねデイビッド」
と喋りだした。
「アビーか?」
デイビッドが猫に問いかける。
「いかにも、アビー・ダルトンだよ」
猫が答えた。
「アビー!」
デイビッドはそう叫ぶと、猫を抱きしめた。
「ありがとよ、ジョージ」
ジョージの姿はいなかった。
翌日の夜、「ウィリアムソンの店」の電話に
ジョージの怒鳴り声が轟いた。
「おい大将! フレデリックのハラキリが
写ってないじゃねえか!」
実はジャパンエキスポにはハラキリをするはずだった
フレデリックがいたのだが、やはり
警備員に取り押さえられてしまっていた。
その取り押さえられている映像だけを
デイビッドは撮影していたのだ。
「おっさんが取り押さえられている映像なんて
全然面白くない!」
ジョージが怒鳴り続ける中、デイビッドは
電話を切ってしまった。
「せっかく礼を言おうと思ったのに……」
デイビッドはそう思った。
デイビッドの足元に一匹の黒猫が近寄る。
「やあアビー、どうしたの?」
「誰からの電話だった?」
その黒猫こそが蘇ったアビーだった。
「とある吸血鬼の男からさ」
そう言うと、アビーを抱えて
家に帰るべく駐車場へ向かった。