魔女、エリザベータ
イギリス、マンチェスター。
イングランド北西部に位置するこの都市は産業革命により
工業地帯として繁栄し、今に至ってきた。
世界一人気のあるサッカーチームといわれている
「マンチェスター・ユナイテッド」の本拠地としても有名で
いまや世界でも屈指の知名度を誇る都市である。
そんなマンチェスターユナイテッドのホームスタジアムである
オールド・トラッフォードの近くには
一軒の名前もない雑居ビルがあった。
そのビルは四階建てで、1階にはパブがあり、
2階が老人が経営する古本屋、
3階がインド人の経営するインド料理店、
そして4階には「ウィリアムソンの店」という
小さなパブがあった。
パブの看板には吸血鬼や狼男、
フランケンシュタインなどの怪物の絵が
描かれていた。
このパブのオーナーはデイビッド・ウィリアムソンという
まだ21歳という若い男だった。
このパブは17世紀より経営されており、
マンチェスターでも老舗のパブとして有名だった。
とはいえ店が繁盛しているとは言えず、
一日に十人ほどしか客は来ない。
誰も来ないという日はないのだが客が一人しか来ないという日も
週に二回はあった。
それでもデイビッドは生活には困らなかった。
なぜなら彼にはもう一つの顔があったからだ。
午後十時、一人の女がやってきた。
「電話で予約したものです」
女が席に座る。
女の容姿は肩まで伸びた金髪に、青い瞳、
ほほの赤い可愛らしい女だった。
「アビー・ダルトンだな?
軽い自己紹介をしてもらおう」
デイビッドがロスマンズのタバコをすいながら言う。
「アビー・ダルトン、19歳です
職業は大学生、将来の夢は女優、
趣味はお菓子作り、好きな食べ物はアイスクリームです」
「それがあんたの表の顔か、
裏の顔を教えてくれ」
「やっぱりばれちゃいますね」
アビーが笑う。
「エリザベータ、年齢は500歳、
職業は魔女、将来の夢は支配者、
趣味は毒薬作り、好きな食べ物はトカゲの目玉と
ヒキガエルの丸焼きです」
「ということは、魔女ってことでいいのか?」
「はい」
「で、ここに来た目的は何だ?」
デイビッドがエリザベータに聞く。
「実は今、私の中にたくさんの私がいるんです」
エリザベータが名物のペパロニピザを食べながら言う。
「何を言ってるんだ?」
デイビッドは皿を洗いながら尋ねる。
「実は私、今は比較的おとなしいんですけど、
たまにとても凶暴になってしまうんです」
「多重人格だというのか?」
デイビッドが続ける。
「分かった、一つあんたを助けてみよう」
「ありがとう……」
エリザベータが礼を言う。
何故デイビッドはこんな仕事をしているのか、
それは次回ご説明しよう。