番外編どこか痛むの?(久子姫編)
私がいつものように、西北の対屋を訪れると。姉様が一人でぽつんと庭を眺めていた。
「…姉様?どうかなさったの」
おずおずと尋ねると、気づいたのか、ゆっくりとこちらへ顔を向けた。けれど、答えはない。
「ええと。今日は良いお天気ね。とても、清々しい気持ちになると思わない?」ぎこちなく話題を、と頭を捻って、再度、試してみる。
「…久子。いたのね…」
小さく呟くように、姉様は答えた。あれだけ、気を使って、選んだ言葉に返されたのは素っ頓狂なものだった。 思いっきり、眉間にしわを寄せて、ため息をつく。一気に自分が四、五歳くらい老け込んだような気がする。
「何げに姉様、ひどいこというよね。いつも、そう。こっちが心配してるのに」
それに対して、いうことが「いたのね」じゃ、私の立場があったもんじゃない。
「そんなことないわ。気にしてくれてたのね、ごめんなさい」
そこまでは気づかなかったのよ、と穏やかに笑う。とても、亡くなられた二宮様によく似た笑顔。それを見て、こちらもつられたように微笑んでいた。
「さっきは言い過ぎたわ。むしろ、謝るのはこっちの方だわ。それよりも、姉様」
一旦、言葉を切る。
姉様をおもむろにじっとみる。
「…少し、顔色が悪いけど。どこか、痛むの?」
顔を少し傾けて、きょとんとした表情を向けられる。
「え?どうかしたの」
「病にかかってるわけでもないのに、元気がないんだもの。どうしたのかなって」
「…昔のことをね、思い出していたの。芳子の母様、二宮のお母様が今から、そうね。八年くらい前だったかしらね。ちょうど、季節が今くらいでね。眠るように静かに息を引き取られたわ」
兄様たちは私よりもよく覚えているはずよ、と淡々といってみせる。わたしは返す言葉がなくって、姉様にずいっと近づくと、肩に触れた。
軽く、ぽんぽんと叩く。泣きそうになるのをこらえながら。もっと、うまく慰めることができたら、いいのに。姉様と二人して、またぼんやりと、色づく紅葉を眺めていた。




