番外編赤き色の蔦葛(葛姫編)
時は十月。都では紅葉が美しく色づく季節。綺麗に整えられた六条邸の庭を一人のうら若い女性が見つめている。息をつきながら、目で追う。
「…美しいわね」
ぽつりと、呟く。その声は少し、低くて、けれど、穏やかな声である。
優美で切れ長で黒い瞳。すっと、通った鼻筋。小さく、薄い唇。面輪はほっそりとして、肌も抜けるように白い。肩に薄く、はらりと少し、緑がかった髪がこぼれる。まるで、繕った細い糸のようで、軽さを覚えさせる。
「あの方はいつ来てくださるのか。もう、あれから、一年以上が経ってしまったわ…」
また、言ってみる。
この部屋には誰もいない。返事がないのはいつものこと。
亡くなった妹のために、ごくひっそりと喪に服している。
だから、女房達は控えていない。
自分一人だけだ。とても、静かでとてつもないくらいに、時が長く感じられる。そよ風が吹く。
「…姉様。浄土であの子と会えたかしら」
妹が亡くなったと聞かされて、もう肉親はいないのだと思い知らされた。
この世はあまりにも、酷いことだらけで、無常さとはこういうことなのか、と噛みしめながら、幾度となく、涙を流した。
ひとりぼっちになってしまった。
暗闇の中に、取り残されて、誰も来てはくれない
。昔、住んでいた五条の邸と変わったのは、生活に不自由しなくなった事と人がたくさんいる、といった所くらいだろうか。
けれど、かつて、側にいてくれたあの人はいない。
男にしては、綺麗な顔立ちをしていて、立ち居振る舞いも優雅で。病で倒れていた時は自身で夜中に直接、寺を訪ねて、祈祷僧を連れてくる程の働きを見せた。冷めているようで、実はとても感情豊かな人。
早く、自分のことを訪れてくれば良いのに。
待たされるのは何よりもつらい。退屈だし。だから、なるべく、近い内に来てよね。用事があって、来れないなんていったら、承知しないからね。わかっているわよね。いつでも、待ってるから―。




