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千の夜  作者: 入江 涼子
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新たな真実その二

今回も短いです。

「…お待ちを。中将どの…」

友成の呼び止める声がした。

あたしも外へ出てみた。

「なっ。左京大夫殿ではないか。何故、こんな所に」

驚いた表情をしている中将の腕をがっしりとつかみ、逃がすまいとしている。

「あたしが頼んだのよ。あんたみたいな人を捕まえようとすれば、男手がいる。それを左京大夫様にやってもらったわけ」

あたしはしてやったりと言ってみせる。中将はものすごい目つきでにらんできた。

「…そなた、騙したな?!俺が民部と恋仲だということ、どこから聞きつけてきたんだ」

「民部自身が言ってたのよ。『左近少将に嫉妬して、東三条へ下男を偵察に行かせた』って。あんた、その少将が民部と文のやりとりをしているとか勘違いしてたんだって?」

すると、権中将は顔を赤くさせながら怒鳴りつけてきた。

「う、うるさい!東宮のご生母であられる麗景殿様、姉上がおられるのに。それを出し抜けて、右の大臣は自分の娘を入内させて。次の東宮位を狙っているんだ、大臣は。しかも、姉上ではなく、大臣の娘の藤壷女御が主上の寵を独占しているしな」

「…悪いけど、それは知っているわ。藤壷様に御子ができるのが嫌だったんでしょう?」

「嫌に決まっているだろう。主上のお妃方で一番若い藤壷が男御子をお生みすれば、次の東宮位は盤石なものとなる。だが、あの方にはまだ御子がいない…」

そうなのだ、典子姉様こと、藤壷様は未だに男のお子、女のお子、どちらともお生まれではない。

権中将は苦々しい表情をする。

ぎりと歯ぎしりをして、いかにも悔しそうだ。

「そうしたら、今度は弟である藤大納言の姫の入内をとの噂が流れ出して。父である左大臣も慌てだした。もし、今上に入内すれば、よけいに右の大臣が力をつける。太政大臣家からも姫が入内したが、子は生まれなかった。兵部卿宮の北の方がその姫の御子だ」

すると、それを聞いた友成が冷たい表情で詰め寄った。

「…確かに、私の母宮が先々帝と太政大臣の姫との間に生まれた、たった一人の姫御子だ。だからといってあなたに言われたくない」

「いや。右の大臣も藤大納言も先々帝や先帝が自分の血筋でなかったから、悔しいんだ!だから、自分たちの娘を入内させて、権力を握ろうと企んでいるに決まっている」

権中将の言った事にあたしは腹が立って、胸ぐらをつかんでいた。

「そんな事のためにうちの邸に火付けをしたっていうわけ!弟の少将が病にかかってたっていうのに。ふざけんじゃないわよ」

「…そんなことだと?あいつだけは諏訪が本気で惚れ込んでいたからな。疎ましくてしょうがなかった」

「あんた、義隆とあたしが邪魔だったから、あんな騒ぎを起こしたっていうの?!」

「左近少将も邪魔だったし、香子姫も邪魔だ!だから、この世からいなくなってくれれば、清々すると思った。嫌がる下男に無理矢理、火を付けるように言った」

あたしはつかんでいた衣を離した。

床にへたりこんでしまい、呆然とするしかなかった。

実際の犯人は下男だったが、主犯は権中将だった。

放せという中将の事を押さえ込み、腕を反転させて、床に組み伏せた友成は怒鳴りつけた。

「…僕にとって、左近少将は友人だ!その友人を手にかけ、姉君や他の者たちまで巻き込んだのは、人として許せない」

その言葉にあたしは我に返った。

友成も内心では怒っていたはずだ。

その後、駆けつけた近衛府や検非違使などの役人たちにより、権中将は縄をかけられて連れて行かれた。

左大臣家の人々にも当然、累が及んだ。左大臣も今上帝の命により、二月程の謹慎処分になった。

幸い、麗景殿様と東宮様は許されたが、後見人である東宮坊大夫が突如、辞任して頼りない身の上になられたという。

もうお一方の女一宮様をお連れして、後宮を出られ、実家の左大臣邸ー大炊御門の邸へ退出された。そこで、息を潜めるようにしてお暮らしになったらしい。


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