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登御坂高校サバゲー部!  作者: 冬森圭
前編 サバイバル入部編
9/14

09 放課後トロイメライ




 それから数日が経ち、春樹が正式にサバゲー部に入部することが決まった。同時に他数人の一年生も入部した。そして授業後には練習も始められることになったが、春樹がそれに心底嫌そうなぶすっとした顔で参加していたことは言うまでもない。

 春樹がサバゲー部の部室である旧弓道場にやってくると、林之介と琴子が出迎えてきた。


「お、ハル。ようやく来たか」

「春樹くん、こんにちわ!」


 二人はゴーグルをはめ手には銃を持って、射撃練習をしているところだった。ちなみに二人が持っているのは今日は拳銃ではなく、M16A4という突撃銃だ。サバイバルゲームの主力は突撃銃なので、既に春樹も何度か持たされたことがある。


「……今来たとこだが、俺はさっさと帰るつもりだ」

「そんなツレないこと言うなよハル~。オレと一緒に練習せいしゅんしようぜ! なんならオレがハルの肉体管理マネージャーを務めてもいいぞ」


 絶対にお断りだ、と春樹は林之介にボディーブローをくれてやった。


「うーぢぃぃー!!!」


 というよくわからない断末魔を上げて、林之介はくの字になって倒れた。


「ひえぇ……林之介くんが呼吸困難に陥っちゃったよぉ……」

「こいつはタフなことだけが取柄のバカだから大丈夫だ。お前の銃、借りるぞ」


 春樹は倒れた林之介から銃を奪い取り、それで射撃の練習台に向かった。

 そこは的場を改造したもので、射撃練習のためのレーンがいくつも並んでいる。そのうちのひとつには既に誰かがいて、乾いた銃声を何発も響かせていた。


「……ちょっと。なんでわざわざあたしの隣に来るわけ? もっと向こうでやればいいじゃない」

「仕方ないだろ。遠距離射撃用のレーンは二つしかないんだから」


 射撃練習をしていたのは桐花だった。春樹が隣に立つと、ゴーグルごしに性犯罪者を見るような刺々しいにらみが飛んできた。


「……つーかお前、なんでサバゲー部に入ってんだよ」

「そんなのあたしの勝手でしょ。べつにあんたみたいな、女子トイレに侵入してくるような変態とよろしくやるつもりはないんだからね」


 桐花はつーんとそっぽを向いた。二つのレーンの間に間仕切りなどはないが、明らかに精神的な隔たりがあるように見えた。一度チームを組んだにもかかわらず、相変わらずの仲だ。春樹は今更いろいろな誤解を解くのも面倒だと思ってそのままの距離感に終始していた。


 春樹はM16の弾倉マガジンに残っていた数十発を撃ち終えると、早々に射撃レーンを離れた。とりあえずこれで練習したという言い訳は立つ。厄介な先輩に見つかる前に帰宅することにした。


 春樹が部室を立ち去ってほんの少し後。それと入れ替わるようにしてやって来たのは、サバゲー部の副部長である紫だ。


「……おい。今、立花の奴が来てなかったか? あいつは今日もサボりなのか!?」

「あ、ゆかり先輩。今日もお疲れ様でーす」

「うむ、藤崎か。貴様はちゃんと練習に励んでいるようだな」

「はい! ゆかり先輩はわたしのこと、ちゃんと本名で呼んでくれるから大好きです!」

「……だが、貴様は体力もないし銃の扱いも一番下手だ。いつまでも新入生ルーキーだと甘ったれてるんじゃないぞ!」

「ひ、ひえぇ~!」


 ちょうどそこで林之介もボディーブローのダメージから立ち直った。


「おっ、ゆかりん先輩だ。ちーっす!」

「ゆかりん言うな。貴様はそんなにしごかれたいか?」

「……それは性的な意味で、っすか?」

「このたわけがっ!」


 紫の華麗なる回し蹴りが林之介に炸裂した。首筋から嫌な音がして林之介は蹴倒された。


「あー……、林之介くんのヒットポイントがまたゼロになっちゃったよぉ……」

「全く、今年の新入生ルーキーどもは浮かれすぎてる……。特にあの立花はサボりすぎだぞ。練習をナメているのか?」


 紫が今にも爆発しそうになっていると、部室の奥のほうにある武器庫から大和が姿を見せた。銃器類のメンテナンスを行っていたようで、工具やら何やらを引っさげていた。


「まぁまぁ、そうカッカしないでやってよ」

「なんだ大和、いたのか貴様! それならなぜ立花の奴を引き止めておかなかったんだ!」

「ははは、大丈夫だよ紫。彼は彼なりに頑張っている」


 そういって大和はあるものを見せてきた。それは先ほど春樹が行っていた射撃練習用の標的だ。円心状の的の中央にはたくさんの命中痕があった。


「これは……。まぁ確かに、立花の実力はそれなりにあるようだが……」


 紫は驚きの表情を見せたが、すぐに元の険しい顔に戻った。


「しかし、試合で勝つためには鍛錬あるのみなのだ! おい、新入生ルーキーども! 貴様ら今日は拳銃の中距離射撃で九割以上の成果を出すまで帰宅することを許さんぞ!」

「ひえぇー! それきついですよおー!」


 春樹不在の憤りはそのまま他の琴子たちにぶつけられた。有能なのにサボり癖があることが気に食わないのか、それとも惜しいのか。とにかく紫の厳しく熱心な指導は今日も展開されていた。


 射撃レーンで琴子が苦戦しているとき、それを指導する紫の熱を冷ますように大和は尋ねた。


「ねぇ、紫。あのハルくんが部活に専念できないのは、何か別の理由があるからなんじゃないかと僕は思ってるんだ。あれだけ銃の扱いに慣れてるのにサバゲーはやる気がないなんて、そんなのもったいないよ」

「……まぁ、奴のサボり癖は気になるがな。しかしどうするつもりだ」

「今からみんなでハルくんの自宅を訪ねてみないかい?」

「はいっ、はいっ! わたしも春樹くんちに行きたいです!」


 大和がすっと眼鏡を掛けなおして提案すると、その話を聞いて琴子も勢いよく立候補してきた。


「べつにあたしは興味ないから」


 という桐花を除き、なぜか部員総出で春樹の自宅へ遊びに行くという事の運びになった。


「……え、ハルんち行くんすか」


 そこで今ようやく回し蹴りのダメージから起き上がった林之介がぼやくように言った。


「ハルはこの時間、家にはいないっすよ。たぶんあそこに寄ってるはずっす」

「へぇ、そうなんだ。……ところで林之介くん。君はなぜそんなことを知っているんだい?」

「そりゃあハルのことなら何でも知ってますからね。アイツんちの晩飯はだいたい七時ごろで、風呂に入るのはだいたい十時過ぎが多いっす。あと明かりが消えるのは十二時過ぎてからっすかね……。あ、夜中にたまにトイレの電気が付くこともあるっすね」

「……うん、君がハルくんのストーカーだということはよくわかったよ。で、ハルくんが寄り道してるあそこってどこだい?」

「それは……保育園っすよ!」



  ◇



 夕日のオレンジ色がじわりじわりと街を満たしていく頃、春樹は学校を出ると、その足でとある保育園へ向かっていた。通りがけにある地下鉄の地上口では家路を目指す人々の姿がちらほらとある、そんなような頃合だ。春樹が保育園に着いたときには既に園児はほとんど残っていなかった。


「──夏鈴かりん秋穂あきほ! 遅くなってごめんな」


 園門のところで春樹がそう呼ぶと、待ってましたと言わんばかりに二人の女児が先生に連れられてトテトテと走ってやってきた。


「おにいちゃんおそい!」という元気のよさそうなほうが夏鈴で、

「おにいちゃんおそ~い」というおっとりしたほうが秋穂だ。二人とも春樹の年の離れた実妹である。


 春樹は保育園の先生といつものように簡単な挨拶を交わして、いつものように二人を引き取った。この妹たちを送り迎えするのは春樹の仕事だった。ちょっとした家庭の事情で今は親代わりのようなものになっている。


「ねー、おにいちゃんだっこして!」

「ねー、おにいちゃんおんぶして~」

「駄目だ。だっこもおんぶもしない」


 二人の妹たちは夕刻まで待ちぼうけを食らったことでうっぷんがたまっているようだった。春樹の腰元にへばりついて離れなかった。


「じゃー、おうまさんやって! おうまさん!」

「じゃー、きりんさんやって~。きりんさん~」

「馬もキリンもやらん。……ほら、手つないでやるからちゃんと歩いておいで」


 春樹は妹たちの手を取った。その手は小さくて握手もできないので、春樹の人差し指と中指をぎゅっと握る形になる。

 勉強や運動なんかよりも、この年の離れた子どもたちの相手をするのが一番疲れる、と春樹は常々思っていた。十数年前は自分もこうだったのかとは思えないほどエネルギッシュで好奇心に満ち溢れていて、どんな危ないことをしでかすかわかったものではない。一分でも目を離してはおけない。なるべく早く学校から帰って迎えにいってやりたい。


 そんな二人の手をぎゅっと握って、春樹はまた別の場所へと向かった。

 数分ほど歩くと、春樹は目的の施設へ着いた。そこは一見すると平屋の一軒家のようなところで、中からは子どもたちのにぎやかな声が聞こえていた。


 その表口のところに小学校高学年くらいの女の子が立っていた。赤いランドセルを背負っている。胸の前で手の指を組んだり解いたりして、いかにも誰かを待っているようだった。やがて女の子は春樹たちがやってくるのに気付いて、ふっと顔を上げた。


「……あ、お兄ちゃん! 今日もお迎えありがとう」


 といってぺこりとお辞儀をする女の子。


「ん。遅くなってすまんな、小冬こふゆ

「ううん、大丈夫だよ。すぐに先生呼んでくるね」


 春樹が小冬と呼んだこの女の子もまた実の妹だった。春樹には全部で三人の妹がいたのだ。上から順に小学五年生の小冬、保育園年長の秋穂、年中の夏鈴である。小冬も学校の授業が終わるとこの学童保育に預けられていて、これを迎えにいくのも春樹の役目だった。

 小冬は下二人の保育園児に比べたらずっと行儀もよくて大人しい〝よくできた〟妹だった。


「こふゆおねーちゃんおかえりなさい!」

「こふゆおねーちゃんおかえりなさ~い」

「うん。ただいま、夏鈴に秋穂。それにお兄ちゃんも」


 春樹はいつものように小冬を引き取った。二人の妹たちも一緒になって迎える。

 こうやって三人の妹たちを連れて帰宅することが春樹にとってはいつものことだった。


「今日は帰りがけに買い物に寄ってもいいか?」

「うんいいよ!」

「きょうのばんごはんなあに?」

「んー、そうだな……。何か食べたいものあるか?」


 春樹が尋ねれば、即座に二人の園児たちからはそれぞれ「かれー!」「らいす~」という元気のいい返事が返ってくる。


「はぁ……、お前らはいつもそれしか言わん……。で、小冬のリクエストは」

「え、わたしは何でもいいよ?」

「お前もいつもそれだしな。……まぁいいか、カレーで」


 それを聞いて下の二人ははしゃぎ出した。

 立花家の献立を考えるのも春樹の役目、そしてもちろん作るのも春樹の役目だし、家事全般もろもろのことも春樹が担っている。小冬も高学年に上がってからは色々と手伝いができるようになったが、家のことと妹たちの面倒をみることはもうずっと春樹の役目だったのだ。







読まなくてもいいあとがき?

『ミリタリーコラム ~本編とはあまり関係ないミリタリー知識~』


09.エアソフトガン──〝年齢制限、使用制限を守って使用しましょう〟


 エアガンは、正しくはエアソフトガンとも言われます。実弾のかわりにBB弾を飛ばす、実銃を模して作られた銃──まぁ、言ってしまえばおもちゃですね。それがエアガンです。基本的には空気圧の力で弾を飛ばすのですが、手動で空気を圧縮するコッキングガン(まさしくエアガン)というものもあれば、内部にバッテリーとモーターを搭載した電動ガンと呼ばれるものもあります。


 ちなみに作中で登場しているエアガンは、エアガンの範疇から大きく逸脱してしまっています……。


 この続きは、章終わりのまとめにて。

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