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登御坂高校サバゲー部!  作者: 冬森圭
前編 サバイバル入部編
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08 ウルトラヴァイオレットⅡ




 春樹が桐花を伴って警戒しながら進んでいくと、次第に前方のほうから銃撃の音が聞こえてきた。相変わらず周囲は樹林のようで見通しが悪い。この辺りにまで分け入った一年生たちは皆思ったことだろう。裏校庭なめてた、と。


「キリカ、近いぞ。たぶん紫とぽち子たちだ」

「……ねぇ、そのポチコってなんなの? 犬?」

「馬鹿、あだ名だ。さっき紫と戦ってたうちの一人だよ」

「ああ、あの子たち……。センパイにすっごい狙われてたけど、意外としぶといのね……」


 気付かれない位置から様子をうかがうと、木々の間から複数の発砲炎が瞬いて見えた。左手側にも見えるし、右手側にも見える。銃声はあちらこちらで上がっている。どうやらいくつかのチームが連携して紫と戦っているらしかった。


「……いた。ぽち子たちはあそこだ」


 ぽち子こと琴子は、ペアの珠希とともに木々の陰に隠れていた。ときどき身を覗かせながら銃撃し、数発撃ってから隣の珠希と入れ替わる。かつ少しずつ隠れている幹を変え、移動しながら戦っていた。しぶとく生き残っているだけあって戦い方にかなりの上達がみられた──そのほとんどは相方に珠希がいたからこそのものだったが。


 そうして琴子たちや他の一年生のチームはどこそこへ向けて攻撃していた。ところが、一年生たちが狙っているであろう紫の姿はどこにもなかった。見えない敵に対してめくらめっぽうに撃ちまくるのは、実戦に投入されたばかりの新兵が陥りやすい一種の恐慌状態だ。


 どうやら紫のほうも物陰に隠れながら移動しているようだった。一年生のほうは春樹の位置から確認できるだけでも四チーム、つまり八人ほどだが、これだけの射手に囲まれるとさすがの紫も攻めあぐねるのだろうか。

 春樹には、しかしそれがかえって反撃の機をうかがっているようにも思えた。しばらくその場にとどまって様子を見ることにした。


「ねぇちょっと、センパイはどこにいるのよ?」

「……隠れてるんだ。だから反撃もしてこない。撃てば音と発砲炎で居場所がバレるからな。紫はおそらく奇襲を仕掛けるつもりだ」


 紫の居場所がいまいちつかめないのは、つまりそういうことだ。攻撃の手をピタリと止めているからである。逆に言えば、無駄とも思える波状攻撃を繰り返している一年生たちはたえずその居場所をさらしているということになる──。

 するとそのとき、どこかから紫の声が聞こえてきた。


「──新入生ルーキーども、この私に立ち向かってきた勇気は褒め称えてやる! だが、徒党を組めば私を倒せると思ったか? ……甘いな。貴様らまとめてこの場で殲滅してやろう!」


 声の聞こえたほうを春樹はすかさず探った。だが、その気配はつかめない。紫の声は木々の葉やこずえに紛れたり跳ね返ってりしていて、正確な出所がわからないのだ。

 ということは、紫の居場所は──。


「……先に言っておく。私のベレッタに装着された銃剣バヨネットは、刃の部分にIB弾と同じ特殊な電流が流れている。したがって、これに身体が触れた場合でも被弾判定が発生する。わかったか? さあ新入生ルーキーども、せいぜい私を止めてみせろ!」


 その後、春樹は紫の圧倒的強さを目の当たりにすることになる。

 はじめ紫はとある一年生のチームの背後へ突如として出現した。一体どこから湧いて現れたというのか? それは、木々のこずえを伝って、さながら猛禽類のごとく上空から舞い降りてきたのだ。その一年生チームの二人が驚いて振り向き、半狂乱で銃を撃とうとする刹那、紫は両手の銃剣バヨネットで二人の首筋を一閃、二閃した。限りなく無駄のない洗練された動きだった。そして、彼らの被弾判定装置(HDD)のアラームが鳴り出して死亡リタイアを宣告すると、その音で紫の存在に気付いた他チームの銃撃が幾重にも放たれた。が、紫はそれらを全てかわし、発砲炎が瞬く射手の元へ猛然と突進した──!


 一年生たちの間で混乱が巻き起こった。一連の紫の動きは疾風のようにすばやく、捉えきることができない。あちらで銃声がしたと思ったら今度は向こうでアラームが鳴っている。紫がどこで戦っているのか全く見当がつかなかった。


 その紫は樹林で視界が悪い中、迷うことなく各所に散らばる一年生たちを最短距離で結び、各個撃破していった。紫は初めから攻めあぐねてなどいなかった。各チームの居場所を探り、把握しておくためにあえて身を隠していたのだ。


「やばいポチ公っ、後ろから来る!」と珠希が叫んだ。

「えっ、えっ!?」


 いくつかいたチームがみるみるうちにリタイアとなり、残った琴子たちのチームに紫が肉薄した。琴子たちがそれに対処する間もなく、ベレッタの銃口が二人に向けられた。


「貴様らで最後だ、新入生ども(ルーキーズ)


 一年生たちの連合チームは瞬く間に壊滅のときを迎えた。この状況をつかめているのは紫本人を除き、そう、春樹以外にはいなかっただろう。

 紫が琴子たちに向けたベレッタの引き金(トリガー)を引き、その撃鉄ハンマーが落ちる瞬間、同時に遠方で別の銃声が上がった。琴子たちが襲撃されるタイミングを見計らい、春樹が二十メートルほど離れたやぶから精密に射撃をしたのだ。


 放たれた9ミリIB弾は紫の頬をぎりぎりのところでかすめていった。それは紫がとっさに腰を反らして身を引いていなければ、急所に当たっていたはずの攻撃だった。一方、身をそらしながらの体勢で撃ち込まれた紫のIB弾は見事に琴子と珠希の脳天を射抜いていた。涙目になっている琴子と、悔しそうな顔をしている珠希の〝死体〟がその場に出来上がった。


「ほう……ようやく現れたか。待ちわびたぞ」

「今のが当たってればそれで終わりだったのにな……。あんた、どんな反射神経してんだよ」

「鍛錬を積めば勘は鋭くなるものだ。次からは私の側面ではなく、背後から狙撃することだな」


 一度銃を撃てば音と発砲炎が上がるので、自ずと居場所は特定されてしまう。紫はすかさず二挺拳銃を構え、春樹のほうへ撃ち返してきた。

 春樹は桐花を引き連れ、近くの茂みに身を伏せた。


「くっ……おいキリカ、作戦を忘れるなよ! 絶対に俺のそばから離れるな!」

「わかってるわよっ、いちいちあたしに命令しないで!」


 桐花は両手で頭を覆って、春樹の後ろに隠れるようにしてついていった。桐花はまだ一発も撃っていない。

 それに対して春樹は紫に向けて何発も応射した。が、やはりそれも見事にかわされ続けた。紫は本当にこちらの射線と射撃タイミングを把握しており、まるで何かのハイテクな解析装置のようだった。春樹が放った十発ほどのIB弾は全て紫の後ろの樹林の奥へと吸い込まれた。


 そのうちに春樹のMK23は遊底スライドが後部に下がりきって戻らない状態となった。これはホールドオープンといって、弾倉マガジンの弾が尽きていることを示している。弾倉マガジンが空なので、給弾して遊底スライドが元の位置に戻るということができないのだ。


 春樹は木々の間を駆け抜けながら手早く再装填リロードを行った。この〝エマージェンシーリロード〟ともいわれる全弾を撃ち尽くしてからの再装填リロードは、反撃のできないまさに隙だらけの状態である。


「致命的だな、新入生ルーキー! 残弾数には常に気を配れ!」


 その隙を紫も見逃さなかった。低姿勢の突進で一気に距離を詰めてきた。そしてほんの数メートルの距離に迫ったとき、春樹も再装填リロードしたての銃をとっさに構えたが、それよりも紫の攻撃のほうが一手早かった。


 しかし、まさにこの状況を春樹はねらっていたのだ。わざわざ銃をホールドオープンにさせたのは、紫を油断させて至近距離におびき寄せるための策だった。


「今だキリカっ、俺のかわりに撃ちまくれ!」

「だからっ……、命令しないでって言ってるでしょ!」


 銃声が一斉に、十数発分こだました。その何発かは紫によるもので、春樹に命中してHDDのアラームを何度か鳴らした。そして、残りの放たれた大半は桐花によるものだった。桐花は春樹を盾にして、その肩口から連射したのだ。


 至近距離からの攻撃には紫にもさすがに効果があったようで、何発かの被弾を与え、大きく後退させることに成功した。


「貴様……。まさか自分を盾にして味方に反撃させるとは……」


 春樹も紫もヒットポイントはまだ残っているが、とっさに回避行動を取った紫に対し、もろに攻撃を受け止めた春樹のほうがダメージは大きいようだった。

 春樹は桐花を引き連れて近くの木陰に移動した。紫との距離は十メートルもない。遮蔽物を挟んではいるが、紫がいつまた突進してくるかはわからない。


「俺もこんなことしなきゃならないなんて思ってなかったさ。けど、きっかけは林之介と戦ったときだった。あいつは俺が手錠を抜け出した後もリタイアになっていなかった」

「……それがどうした?」

「ということは、このゲームは相方がいなくても続行されるんだ。そして片方が被弾してリタイアになった場合もおそらくそのまま続行される。ゲームの趣旨はあくまで手錠の解除にあるらしいからな」

「確かにそれはそのとおりだが……。貴様、何が言いたい?」


 そこで無線通信が入り、大和が割り込んできた。


『──ハルくん、つまり君は、君自身がやられても桐花ちゃんが紫を倒せばいい、ということを確認したいんだね? それは問題ないよ。ただし、リタイアになった人の攻撃はHDDによって自動的に無効化されてしまうけどね』

「だから何だというのだ。結局は貴様ら二人ともを相手することに変わりはない」


 紫は再び銃を構えた。そして春樹もすぐに動き出せる体勢を取った。次にどちらかが動き出せば、そのときがまた激突の瞬間だ。


「おいメガネ、口を挟んできたついでに確認しとくぞ。仮に俺がリタイアになった後で〝偶然にも俺が紫の射撃線上に入り込んでしまった〟としても……それは仕方のないことだよな?」

『……えっと、被弾したチームメイトは負傷兵として扱うことにしているから、それも問題ないけど……。ハルくん、もしかして君は……』


 春樹はその点だけ大和に確認を取ると無線をぶち切った。


「キリカ、今の間に再装填リロードは済んだか?」

「ふん。もちろんよ」

「よし、もういっぺんいくぞ!」


 春樹は桐花を伴って勢いよく木の陰から飛び出した。その動きに反応して即座に紫からの銃撃が飛んでくる。春樹も紫に向けて発砲しながら、一直線に突進していった。


「そうか、貴様の狙いがわかったぞ! 貴様は、私の攻撃全てに自ら当たりにくるつもりだな? そして後ろのチームメイトを守るという作戦なのだろう!」

「まぁ、そういうことだ。あんたみたいに弾を全部避けるのは無理だが、逆に当たるんなら俺にもできる」


 銃弾を見事に避け続ける紫に対して、春樹は紫からの射撃を一切回避しようとはしなかった。むしろ弾を後ろにそらせばそれだけ桐花に危険が及ぶ。片手で銃を撃ちながら、もう片手で顔面を覆って頭部被弾ヘッドショットだけは防いで猛進していた。現実の銃撃戦とは異なる、サバイバルゲームだからこそできる戦法だった。


『……まさかこんな戦いになるなんて、予想もしてなかったよ』


 無線機の向こう側で大和も驚いていた。

 紫はかなりの弾数を消費しただろうか。春樹が紫と数メートルの距離にまで肉薄する頃には、既に春樹のアラームは鳴り止まなくなっていた。つまり、死亡リタイアである。その時点で春樹の銃撃は全て無効になる。春樹は構えていたMK23をその場に放り捨てた。このクソ重たい、アホみたいに頼りになる拳銃からようやく解放された、と春樹は思った。


「ヒットポイントがゼロになったか。リタイアしたにも関わらず居残り続けるプレイヤーを〝ゾンビ〟といってな、本来はゲームに関与しないことが鉄則なのだが……。まぁよかろう、貴様の発想に敬意を表し、全力で戦ってやる!」


 そういうと紫は、ふっと何かを放り投げた。ばらばらと宙を舞ったそれは数個の替えの弾倉マガジンで、それぞれ地面に突き刺さるように垂直に直立した。再装填リロードの際に手を滑らせたのか、それとも春樹たちの気を引くために放ったのかはわからない。生命線であるはずの予備弾倉(マガジン)をことごとく手放したということだけが事実だ。


「なっ……、マガジンを捨てた?」

「くくく、新入生ルーキー、余所見をするなよ!」


 すかさず紫の二挺拳銃が火を噴いた。

 春樹は桐花の真ん前に立って、文字通り身を挺して守った。それを見て紫もすばやく左右へと移動し、揺さぶりをかけ、回りこむように春樹の背後を狙った。しかし、放たれた全てのIB弾は桐花にまで到達することなく、春樹によって阻まれた。


 そのうちに紫の二挺拳銃は両方とも弾切れ(ホールドオープン)の状態となる。チャンスだ、と春樹が叫んだ。先ほども春樹が弾切れを装って紫をおびき出すことに成功したように、相手の弾切れをねらって反撃するのは銃撃戦における基本である。


「言われなくてもわかってるってば!」


 桐花は春樹と入れ替わって銃を連射した。その銃身の後部から勢いよく空薬莢が排出されて飛び出した。

 しかし、その弾切れ(ホールドオープン)も紫の陽動フェイントだったのだ。


 桐花の銃弾が放たれた瞬間、空薬莢がまだ空中を舞っている刹那、紫は大きく横転して飛来する銃弾をかわした。と同時に、両の親指でマガジンリリースボタンを押し込み、二挺のベレッタからそれぞれ空の弾倉マガジンを二つとも吐き出す。そして地面に放置していたあの弾倉マガジンを銃の底に押し付けるようにしてはめ込んだ。それにより後退していた遊底スライドがガチリと戻り、再装填リロードが完了する。先に替えの弾倉マガジンをばらばらと放っていたのはこれを計算に入れた行動だったのだ。


「くっ……!? キリカッ、危ない!」

「ちょっ、きゃああ!?」


 春樹は覆いかぶさるように桐花を押し倒した。そのまさに立っていた位置を紫のIB弾が飛んでいった。


「な、なな……! ヘンなとこ触んないでよこの変態っ、チカンっ、ド変態! 次に許可なく触ったらビリビリだって言ったじゃない! この超ド級変態!」

「うわっ馬鹿! 俺に銃を向けてどうする! しかもそれはテーザー銃だっ! っていうか、撃つなら紫のほうを撃て!」


 二人がじたばたしていると、その耳元で銃を構える音が聞こえた。

 紫が立って、こちらを見下ろしていた。


「これまでだな。……まぁ、新入生ルーキーにしてはよく頑張ったほうだと褒めてやろう」


 倒れて身動きのできない二人に対し──春樹のほうはもうとっくにリタイアとなっているのでわざわざ狙う必要もないが──紫は銃口を突きつけた。勝負の終わりを決定付ける瞬間だった。


 ドパァン!

 一際大きな銃声が上がり、空の薬莢が春樹の頭の真横をコロコロと転がっていった。







読まなくてもいいあとがき?

『ミリタリーコラム ~本編とはあまり関係ないミリタリー知識~』


08.SIG SAUER P228──〝正統派の優等生〟


 SIG SAUER P228とは、シグ社とザウエルゾーン社が共同で開発した自動式拳銃です。シグザウエルといえば、これをもじっているガンマニアなラノベ作家さんでも有名ですね。


 P228というのはP226のコンパクトモデルであり、P226はP220の改良版です。ちょっとややこしいですが、系譜としてはそんな感じです。SIGSAUERの銃はまとめてシグアームズだとかシグシリーズだとか呼ばれます。その中で一番よく見かけるのはP220でしょう。わが国の自衛隊でこれと同じ銃が採用されていますから、邦画やドラマではよく出てきます。またP228のほうはアメリカ軍の護身用拳銃としてM11という名前で制式採用されていたりもします。


 作中では桐花が使用しています。


 この続きは、章終わりのまとめにて。

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